対峙
うーん、これは直球。ストレート。
もしかしたらチェンジという名の書き直しするかもです。
昼休み終了後、午後の仕事に取り掛かった。
いつもなら弁当を食って、残り時間で爆睡してから取り組むのだが、今日はそれがなかった。
それに午前のかっ飛ばしも相まってクッソ眠かった。
そんな状況でも、きっちりやり遂げる男。それが俺、日戸慶史郎。
フッ、カッコ良すぎんだろ。今なら何でも出来る気がする。
気分的にはゲームや小説に出てくる勇者にでもなったかのようだ。
アイアム、ヒーロー。さあ、大蛇だろうが竜だろうがかかってこいやッ!
いや、よく考えろ。俺はただ眠気と闘っていただけだ。
そんなことで勇者になれるのなら、全国のサラリーマンは皆勇者になってしまう。勇者バブルの始まりである。
それに今日はただの自業自得だからな。成り上がりもザマァも出来ない。
アイアム、ヒーローならぬ、Iam H ero。俺は勇者じゃない、ただの変態だった……。
しかしながら、勇者と変態は紙一重なのではないだろうか。
ヒロイン、幼馴染、女騎士、お姫様――仮定はどうあれ、最終的にそれら全てとくっつく。所謂、ハーレムエンドだ。両手に花とはこういうことか。
それを実現するには、まず固有スキルが定石。それも特別なスキルがだ。
そこへ更に追加スキルでもあればもう完璧。ハーレム街道待ったなしだ。これを濡れ手で粟とでも言っておこうか。今朝の小説の類似作品はほとんどがそれだったからな。
ここから方程式の要領で解を導き出すと、両手に穴ということになる。卑猥だ。
勇者は一体、その泡で濡れた手で、両手に抱えた花ビラビラ達にナニをするつもりなんですかねぇ?
これは正に表裏一体、光があるから闇があるような切っても切れない関係。俺の勇者変態理論が証明されてしまった。
ならば俺も――いや、全国のサラリーマン全てが勇者と紙一重の存在ということになる。
いよっしゃあぁッ! やっぱり今の俺なら何でも出来る気がして……待て、思えば俺にハーレムのハの字も無かった……。
なんてことだ。あっけなく勇者バブルが崩壊してしまった。
崩壊したバブルはやがて氷河期を産み、勇者は尽く戦死していった。企業戦士ならぬ、企業戦死である。
そんな英霊達は何処へ? 多分転生していったんじゃないか、SとEXスキルを兼ね備えて、組んず解れつのパイ世界へと。
そ、そんなこと考えている場合じゃない! なんか予想以上に話が脱線してしまった。
クソッ、それもこれも今朝目に止まった小説のせいだ。
定時を告げる鐘が鳴ると、俺は課長に呼ばれた。
はて? またオレ何かやっちゃいました? なんて戯言は言わない。
そんな言葉を口に出してみろ、今度こそ狩られる。仏の顔が三度までなら、次はない。
そうなれば、その猛禽類の目が見開くだろう。俺はそんなの絶対に見たくない。
それに俺は既にやらかしている、今更考える必要もなかった……。
課長に呼ばれた理由は分かっていた。
おそらく遅れてきた分の時間は仕事をしていけということだろう。この会社にフレックス制度なんてものはないからな。
俺は最初からそのつもりだったので、課長にその旨を伝えようとしたが、課長には時間通りに帰っていいって言われてしまった。何か裏がありそうで非常に怖かった。
だが確認してみれば、どうやら俺の体調――特に頭を心配してのことだった。
という訳で時間通りに帰れた俺は今、今朝竜の現れた橋へと来ている。
橋の下は河川敷になっていて、少し離れた場所には駐車場もある。
俺はそこに車を止めてから、こうして何か手掛かりになりそうなものがないか歩道から目を凝らして見つめていた。
羽根とか鱗とか小さいもので構わない。竜が居たって事実が欲しい。
そう思って探してみたが……まあ、ある訳ないよなぁ……。
仮に落としていったとしても、それは今朝の出来事だし、一応ここは一定の交通量があるし、風も吹いてるしで残ってる可能性なんてゼロに等しい。
ハァ……やっぱり見間違いだったのか。
俺は息を一つ吐いて、目線を橋の外へと向けた。
川の水位は依然として高い気がする。
それでも河川敷では子供が元気に遊んでいる。こんな時間まで遊んでいて親御さんは心配ではないのか――あ、やべ。俺も早く帰んねーと。
竜のせいでルフの事を忘れていた。
俺は橋を後にし、土手に沿って道を歩く。
車までの区間を早歩きしていると、何やら視線を感じた。
振り返ってみれば、橋の下で一人の少女が俺の方をジッと見つめていた。
滅多にお目にかかれないような白? 銀? 色の髪。
髪の色だけではなく、顔や手と、露出した肌の色までもが透けるような白色だ。
そんな少女が何かを訴えるかのように俺を凝視している。
その姿にまるでこの世のものではない何かを連想してしまう。はて? またオレ何か見ちゃいました?
なんて言ってる場合じゃねえぇぇーーッ!
何!? 竜とか幽霊とかこの橋呪われてんの!?
それとも俺が呪われてんのか!? 鬼とか竜とか幽霊とか。
やっぱ今度、谷野さんにお祓い連れていってもらおう。竜と幽霊は祓ってもらわないと。鬼は妹なんでノーカンで。
俺はそう心に誓ったが、今はこの状況をどうにか打破しなければならない。
このまま何事も無かったようにやり過ごすか? いや無理だ、既に目が合ってしまっている。
周りで子供達が遊んでいるというのに、そっちに興味など示すことなく濁った眼光を俺に向けている。
っていうか、子供達ガン無視し過ぎじゃない? ボク達、ちゃんとよく見て!
ダメだ、子供達には白いボールしか見えていない。こらっ! 仲間外れは良くないぞ! こっちの少女も白いじゃないか! ちゃんと追っかけろ。
俺はそんな想いを振りかぶり、子供達に向けて全力で投げ入れる。
それが届いたかどうか分からん。がしかし、子供達はお構いなしといった感じでボールと一緒に遠くへかっ飛ばしていた。あ、コラッ! 言葉のキャッチボールくらいちゃんとしないか。
一人の少年が走って行方を追ってゆくが、風がボールの勢いを後押しするように転がしてゆく。おーい少年、俺の想いもちゃんと拾ってきておくれよ。
俺は少年へ念押しするように目線を送った。
――って違う違うチガウ。
俺は移した視線を少女へと戻す。
少女はその不浄の光で濁った目をずっと向けていたのか、依然として俺をジッと見ては近付いてくる。
え、近付いてくる?
俺は思わぬ事態に二度見してしまった。
ほんとだ、さっきまで橋の下に居たのに、土手の斜面を登ってきてやがる。
そんな非常事態だというのに、子供達は尚もボールのことでいっぱいいっぱいみたいだ、こちらを見向きともしない。
なんということだ。もう完全に決まりじゃねぇか……。
その事実を目の当たりにして、体中の汗腺がブワっと開き、汁の分泌を始めた。
それを風が強く撫でる。その手触りがひんやりと冷たく感じるのは俺の体が動く意思を放棄したからだろうか。
お、おい、諦めるなっ! 俺は無理くりにでも体に言う事を聞かせようとしたが、遅かった。少女のかざした手が俺を――
「――あっ」
触ろうとした瞬間――
強く吹いた風に大きくよろけてしまい、少女は素っ頓狂な声を上げて土手を転げていった。
そんな場面を何事かと野次馬根性が如く、子供達が凝視している。どうやら取ってきたボールでまた遊ぼうとしていた瞬間だったっぽい。
いや、ボク達? もういい時間だから、ほんと帰った方いいよ? っていうか――見えてんだったら反応しろよ、ガキ共ォォーッ!
って言ってる場面じゃねぇぇ! あの娘大丈夫かっ⁉
俺の意思で体を動かし、急いで土手の下へと下りてゆく。
少女がこの世のものだと確信出来たのなら迷うことはない。俺は転びそうになりながらも、転がり落ちていった少女の傍まで下った。
「だ、大丈夫かっ⁉」
「うぅ……」
少女は蹲りながらも、そう言葉を発する。
良かった、意識はあるみたいだ。
「どこか怪我しちゃったか? 痛い所はないか?」
「……お」
俺が抱き上げると、少女は虚ろな目で何かを訴えかけてきた。
お……? おしりか⁉ おしりを強打したのか⁉
ど、ど、どうする⁉ 痛いの痛いの飛んでけーって擦ってやるべきか?
いや、待てっ、早まるな! 少女と言えど、それは流石にマズいだろ……。
あまりに気が動転し過ぎて危うくやりかけたが、何とか一瞬の隙を付いてその考えを押さえつけた。
俺達のやり取りをガキ共が遠目で見ている。いいから早く帰って温かいご飯でも食べなさいっ!
チラチラと向けられた視線を浴びながら、俺がどうしたもんかと固まっていると、少女が泣きそうな顔でこう言った。
「お……お腹空いた……」
……はっ?
「……い、今なんて言った?」
「おなか……」
俺がそう聞くと、少女が言い終わる前にお腹の声が届く。
もうっ! このお茶目さんめっ。って違う、そうじゃない。
土手から転がり落ちていったというのに、開口一番が腹減っただなんて言われることを誰が想像出来ただろうか。
あまりにも的外れな暴投に思わず面食らってしまったが、俺は何とか言葉を返す。
「そ、そうか……あの、その、怪我はしてないよな?」
「ん……」
腹が減り過ぎているせいか、少女はコクリと頷きだけを返してきた。
「じゃあ、お家に帰らないとな。それまで我慢出来る?」
「ご飯ない……」
おいおいおい。まさかそんな返しがくるとは思ってもなかった、少女は短くそう答える。
多分、この娘の親御さんは共働きで帰りが遅いのだろう。ならばこの時間に外を出歩いていてもギリ納得がいく。
まあ、俺もそういう経験はある。家に一人で籠もっていてもつまらないのは確かだ。
しかし、だったらせめて間食のおにぎりでも用意してあげればいいのに――って、俺が人様のお家のことをあれこれ言える立場でもないか。
それにしても何か食べ物あったっけ――あっ!
「そっか、ちょっと待っててな」
俺はそう言って、少女を下ろし、車へと駆け出した。
車の中からリュックを取り出すと、少女のもとへと急いで戻る。
戻る途中でさっきのガキ共とすれ違う。
すれ違いざまに、暗いし気をつけて帰りなよ、ちゃんと風呂入って歯磨きもしろよ! と目線を送り、大人の対応はしておいた。
「ハァ、ハァ――フゥ、お待たせ」
上がった息を整え、少女へ声をかける。
少女は膝を抱えて、土手の斜面に座っていた。
「変な人に声掛けられなかったか?」
「? うん」
自分で言っておいて何だが、傍から見れば、俺が今、その変な人だった……。
しかし、そんなこと気にもしない様子で少女は頷く。
「ごめんな、こんなもんで良かったら食べるか?」
俺は少女の隣に座り、リュックを開ける。
その中から、昼に手を付けるはずだった弁当を取り出した。
さっき走ったせいか、中身が少し右に寄っている。だ、大丈夫だよな、食べられるよな。
念の為、匂いを嗅いでみたが、嫌な匂いはしない。それに、傷み易いおかずも入れてないから大丈夫だと思うが……。
少女を見ると、驚きと困惑が混じった様子で俺と弁当を何度も見直してはどうしたらいいか分からずにおろおろとしていた。
多分、それは普通のことだろう。いくら腹が減っているからといって、何処ぞの野郎が作ったご飯を迷わず食べるというのはあまりにも危機感がなさ過ぎるからな。そんなこと平然とされたらこっちが心配になる。
「い、いただきます……」
俺の心配を余所に少女は弁当を受け取ると、恐る恐るといった様子で一口食べた。
それを皮切りに少女は続けて箸を進める。
お口に合ってくれたのか、それとも食べても大丈夫な物だとホッとしたのか分からないが、その勢いは増していった。けど、そんなにカッ込んだら――
「んーっ! んーっ!」
「だ、だ、大丈夫かっ⁉ ほら、これ」
言わんこっちゃない。
リュックから水筒を取り出し、少女に渡す。
それを受け取ると、少女は天を向いて豪快に喉に流し込んでいった。
「落ち着いたか?」
「……ん」
俺がそう聞くと、少女は短くそう返して、また弁当を食べ始める。どうやら少女には目の前のご飯しか見えていないようだ。
あ、これ、しばらくまともな会話出来ないな。
そう思った俺は、食べ終わるまでその横顔を眺めることにした。
白というよりは銀に近い髪色。
日本人――いや、もしかしたら外人よりも白い肌。
真っ直ぐに弁当を見つめた橙の瞳。
何だろう。ただ弁当を食ってるだけなのに、その醸し出した雰囲気にただならぬ何かを感じた。
少女というには何処か神秘的で、まるで天の使いのようだ。
俺も初めてその姿を見たから何とも言えんが、これがアルビノって奴か。だとしても、はえー、すんごい。
「……ごちそうさま。ありがと」
感心しながら眺めていると、こっちに向き直り小さく笑う。
その姿に少し見惚れてしまうが、固定された焦点を少女が抱えた俺の所有物に移すことで事なきを得た。
「まさか全部食うとはな。水筒も空か」
「ダメだった?」
「いや、別に。でもちゃんと夜ご飯食えるのかなって」
空になった弁当箱と水筒を返してもらい、リュックに仕舞う。
俺なんかが作ったご飯で腹を満たすよりも、親御さんが作った温かいご飯でお腹いっぱいになって欲しいものだ。
そう思って言ったのだが、少女はきょとんとしながら俺を見つめていた。
「いつもここにいるのか?」
「うん」
リュックを閉め、そう問いかけるとコクンと頷く。
そろそろ帰らせた方がいいか。何なら送っていった方が――いや、それは流石にマズいな。
今さっき知り合った少女を車に乗せ、且つ自宅を突き止めるなんて事案待ったなしである。お巡りさん、こいつです。
でもこの娘、いつもここで時間潰しをしているんだよな。なら、その間は何も食べていないんだよな。
「そうか。じゃあ明日は弁当じゃないけど、おにぎりくらいは持ってくるよ」
「え?」
お節介かもしれない。何なら少女の親御さんにバレてしまえば、通報されるかもしれない。お巡りさん、俺でした……。
けど、何だかほっとけないっていうか。これもルフと暮らし始めたからだろうか――あっ。
「あ、あの、ありがと」
「そんな大したことじゃない。悪いな、そろそろ俺も帰らないと。君もそろそろ帰んなよ?」
ヤッベェ……すっかりルフの事が抜けてた。
俺はそう言って立ち上がり、少女の頭を撫でる。うわぁ! すんごいサラサラ。お触りマン俺です。
そして俺は手を小さく振り、立ち去ろうとすると、少女がこう言った。
「私、竜華。おじさん少し臭うけど、やっぱり良い人」
そう言った少女に、俺は微笑んでダッシュで車に戻った。
おじさんは最悪気にしない。気になるけど、気にしたら負けな気がする。けど……。
臭うって何だよ!? 何、俺もしかして汗臭かった?
し、仕方ないじゃない。幽霊見たと思ったら誰だって出るじゃん! 汁がさぁ!
っていうか、元はと言うと君のせいだからね? それだけは覚えておきやがれよ。
いや、イカン。子供の言う事だ、気にするな。それに俺はルフにさえ何も言われなければいい。だから、この溢れ出そうになった汁は流すもんか……。
「お兄ちゃん! 遅い!」
「ごめんごめん。ちょっとな」
玄関を開けるとルフがお出迎えしてくれた。
やっぱり俺にはルフさえいれば――
「ふみゅみゅ……お兄ちゃん、何か臭う……」
俺が抱き上げるとルフがそう言って顔をしかめた。
今度こそ、俺は目から溢れ出そうになった汁を止めることが出来なかった……
あ、ちなみにこっからの話は全っ然書いてません。
バトル描写とか俺には敷居が高い……
後、下ネタが思い付かんす。マジで……




