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トラウマ

対竜➀だった題名です。中身は何も変わってません

 夜ご飯を食べ、風呂にも入り、俺とルフはソファーでテレビを見ていた。

 膝の上のちょこんと乗ったルフを愛でながら、面白味も何もないニュース番組を見ている。


 あの後、もう少し記憶の奥底を辿ってみたが、結局のところ分からず終い。

 未だモヤモヤした感情は残るものの、正直な話、それならそれで別にいいかと思ってしまっている。

 今すぐにその正体を暴いたからといって、どうこうある訳でもないし。


 それと、分からない次いでにもう一つ。

 ルフに貰ったお守りから溢れ出たあの光。


 ルフはあの光を俺のあったかいのって言っていた。

 さっきは取り乱して、いかがわしいことに捉えてしまったが、冷静になって考えれば、そうじゃないことくらい分かる。

 ルフの言葉を受け入れるならば、あの光が何なのかは自ずと理解出来る。


 ただ、理解出来るからこそ、意味が分からない。

 だってそれだと、俺はルフと同じく――


「おおーっ!」


 ルフが身を乗り出すようにテレビに食いつく。

 俺は落ちそうになったルフを、腕を回して支えた。


「おっとっと、危ないぞ?」

「ふぎゅ⁉」


 大人しく見ていたと思ったら急にどうしたんだ?

 俺はルフを興奮させたテレビへと意識を向ける。

 するとそこには、俺も興奮するような光景が広がっていた。


「おおーっ」

「ふみゅ、お兄ちゃんも?」

「ああ。やっぱすげえなこれ」

「うん、大っきいリュウさん」


 テレビに映る竜巻を見ながら俺とルフは声を漏らす。

 ルフがさらっと俺のトラウマを抉ることを漏らしていたので訂正しておいた。


「違うぞルフ。あれは竜巻って言って風の一種なんだぞー」

「ふみゅみゅ? そうなの?」


 悪気はないんだろうが、竜という言葉を聞くと、どうしてもブルっちまう。主に股間が。

 しかしながら、ルフが勘違いするのもよく分かる。

 空から生えるその姿、はたまた天を穿つように昇るその光景とでも言ったところだろうか。

 読んで字の如く、もう空想上のそれにしか見えない。


「ふみゅぅ、終わっちゃった」


 昨日の竜巻が取り上げられたのはほんのちょっとだったようで、次のニュースへと切り替わる。すこぶるどうでもいいニュースだった。

 そのまま消しても良かったが、一応明日の天気をもう一度確認しておきたいと思い、そのまま流しっぱなしにしておく。

 その間、俺はルフにちょっかいをかけた。


「んふふ、ルフもっちもち」

「ふみゅみゅみゅ……」

「それでいて髪の毛さらっさら」

「みゅみゅみゅ……」


 ルフのほっぺたをぷにぷにと挟み、頭をわしゃわしゃと撫でる。

 それをされるがまま受け入れるルフが体を青白く光らせる。


 うおっ⁉ 流石にやり過ぎたか?

 で、でも後ちょっとだけ……。先っぽだけ、先っぽだけでいいから。

 どうやら自制心が少し早めの睡眠をとったようだ。俺の中の溢れ出る煩悩を制御出来ていない。

 ならば! こっからは俺の煩悩が満足するかのが先か、はたまたルフが電撃を打ち出すかのが先かの命を掛けたチキンレース!

 ぐへへ、ルフよ。もっと堪能させてもらうぞ。


「みゅっ!」


 ――アッ、ごめん……。


 俺がそう思ったのも束の間、ルフにも我慢の限界がきたのか鬱陶しそうに手を払いのけ、俺を見上げた。

 その目は「いい加減にして!」とでも言いたそうに俺を見つめる。可愛い、もっとしたい。


 ち、違う違う。流石に嫌がってるルフに、これ以上かまうことは俺の自制心が許してくれない。俺は小学生ではない。そういや貴方、寝てたんじゃないの?


 無理矢理叩き起こされた苛立ちからか、自制心が即座に俺の手の動きを止めに入った。

 クソッ、もっと堪能していたかったが、止むを得ん。名残惜しいが、ここまでにしておこうか……けど、最後に後一回だけ。


 俺は後ろ髪引かれる思いでルフの頭をポンと優しく叩き、しょうがなくテレビへと目を移す。

 そろそろ天気予報も始まる頃だろう。そう思ったが、ルフとじゃれ合い過ぎてたらしい。ニュース自体が終わっていた。


 ま、まあ、もう一度確認したかっただけだから問題ない。

 用が無くなったテレビを消し、俺はルフ抱きかかえる。

 ルフは機嫌が治まっていないのか、仏頂面で俺を見つめた。


「ぶーっ」

「ぷっ、ははは。ごめんごめん、な? そろそろ寝ようか?」

「……一緒じゃないとイヤ」

「勿論、当たり前だ」

「ふみゅう」


 俺がそう言うと、ルフは手を回して俺に身を預けてくる。

 その重みを、温もりを、より肌身で感じ取り、俺は寝室へと向かった。





「本当に大丈夫か!? 本ッ当に一人で大丈夫かッ⁉」

「お兄ちゃん……うん、ルフは大丈夫だよ?」


 次の日、玄関でお見送りしてくれるルフの肩を掴んで詰め寄った。

 また辛い想いをさせてしまうのではないか。

 それでまた泣かせてしまうのではないか。

 そう思ったらどうしても昨日のことが頭に過ぎってしまい、俺はこの手を離せなくなってしまっていた。


 しかし、そんな俺とは対照的にルフは落ち着いた様子だった。

 何なら、何故か若干引き気味な表情を浮かべている。


「お兄ちゃん? 時間いいの?」

「いや、でも……」


 ルフが心配してくる。自分のことより、俺の心配なんて……ルフはなんていい子なんだ。それに比べて俺はなんと情けない……。


 いや、情けなくてもいい。ルフに辛い想いをさせるくらいだったら、俺は別にそれで構わない。ルフにあんな想いをさせるなんてもう嫌だ。


「大丈夫だよお兄ちゃん。元気出して――えいっ」


 多分よほど酷い顔をしていたのだろう。ルフはその柔らかいお手手で俺の頬をつまみ上げて、無理矢理笑顔を作らせようとする。


 おほぅ! お手手柔らか〜い、すべすべでちっちゃ〜い。とっても元気出ました。今の俺なら何でも出来る! これぞまさに鬼に金棒。俺の金棒がパンツを破りそうな勢いで元気になりそうだぞ〜。ちょっと誰か鬼のパンツ貸してくんない?


 い、いかんイカン。情けない奴め、何が金棒だ。俺のは只のきかん坊だろ、見栄を張るな、恥を知れ!

 俺はルフにされるがままの顔を動かし、何とか声をかけた。


「ありがとルフ、もう大丈夫だから」

「ほんとに? ほんとにもう大丈夫?」


 念押しするようにルフがそう聞いてくる。その手にはさっきより力が入っていて、体を青白く光らせていた――イダダダッ! ルフ痛いって!


「だ、大丈夫、大丈夫だから、離して……」

「うん! 分かった!」


 勢いよく離された手がバチッと音を立てる。

 瞬間、電気が走ったような痛みが俺の頬を襲った。


 イッダァァーーッ!?

 ル、ル、ルフッ!? 今絶対ビリビリってしたよね⁉ 絶ッ対、力使ったよね!? だ、大丈夫か俺の頬、取れてないよね? いやまじでイッタァ……。


 ルフの肩から手を離し、俺はジンジンと痛む頬の安否を確認した。大丈夫、涙出てきたけど、ちゃんと付いてる。泣いた赤鬼ならぬ、泣いた兄鬼である。違う、俺は鬼じゃなかった。


「ふみゅみゅ、昨日のお返しだよ?」


 ルフはそう言っていたずらっぽく笑う。

 その顔に俺の心配していることなんて何一つ浮かべていない。

 ならば俺もいつまでもおろおろしてる訳にはいかない、元気出して俺はルフと共に挑まなければならない。


 けどルフ? お返しにしては些か強すぎるからね? お返しって言うのは等価交換じゃないとダメだからね、ルフのは絶対倍返しになってるからね。

 俺はそんなことで怒んないけど、世の中には仏の顔も三度までって言葉があるからね? 絶対他の人にそんなことやっちゃダメだからね。俺は怒んないからいいけどね。


 俺は決意を新たにするように、一度離した両腕でルフを包み込んだ。


「ありがとルフ。おかげでいっぱい元気出た」

「ふみゅみゅ! ルフもお兄ちゃんの元気、いっぱい感じる!」


 だ、だからそれは一体どういう原理……まあ、それは後で考えるか。そろそろ出ないと危なそうだ。


「じゃあルフ、行ってきます」

「うん! いってらっしゃいお兄ちゃん」


 名残惜しいがルフを抱く手を俺の元へと戻す。ああ、そうだ――


「ルフ、タッチ」

「うん! タッチ」


 戻した腕をかざし、触れ合い、光り合う。

 瞬間的ながらも強く光るそれを見届け、俺は玄関を開けた。


 外へ出れば昨日のような大荒れの天気。

 昨日と違うと言えば、空から落ちる水分がないことだけだ。


「いや、マジ風強過ぎんだろ」


 俺に突撃してくる強風は、正にその息吹。ならば荒ぶる風音は咆哮か。もう空想上のそれとしか感じられない。

 クソッ、朝っぱらからトラウマ抉りやがって……何ちゅー嫌な天気だ。

 しかしながらこのままやられっぱなしでは俺の気が収まらない。


 俺はそれらを切るように歩く。と言っても、車までの距離の何歩かくらいまでだけど。

 それでもトラウマの元凶を切り伏せる感覚は爽快だった。このままいけば何時か克服出来そうな気がする。


 大きくなった気持ちでエンジンをかける。心なしかその起床の音がいつもより大きく聞こえた。

 お前も俺と同じ気持ちなのか……ならば共に行こう。今の俺達が手を組めば無敵、向かう所敵無し。だから早く――急がねぇとマズいって!


 時計を見て、前に集中する。

 路面事情は概ね良好、渋滞無し。ならば、やることは一つ。

 俺は出来るだけ速度を上げ、車を走らせる。走らせていたんだけど――


 あの橋に差し掛かる前の信号より、少し手前で俺はブレーキを踏み込んだ。

 信号機は訝しげに俺を見つめている気がした。その目は青く澄んでいる。


 俺だけをジッと見つめてくるそれに構うことなく、俺は車道の端に車を停めると、ポケットからスマホを取り出した。

 フロントガラスを真っ直ぐ見つめながら、課長が電話に出るのを待ち侘びる。


「あ、課長おはようございます。今日何ですけど、すみません、遅刻します。はい。えっとですね――」


 そこまで言って言葉を詰まらせた。一体何て言えば良いのだろうか――?


 俺は視界に映るトラウマを見据え、考え込んだ。

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