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黄根 第五話 フェアリー・ウッドマム



「どこまで行くんですか?」


「すぐに着くよぉ~!」


 スキップするプップさんとスタスタと通常運転のピピン様の後ろをついていく。俺は少し丸っこい人参なので、短い足でトテトテと歩いている。想像しただけで恥ずかしい。アニメなら変な効果音を加えられていそうだ。


「到着だよ~、レイく~ん!」


 辿り着いたのは湖だった。母様は洗濯でもしてるのかな。


「さぁ、行っくぞぉ~!!」


 湖には桟橋のようなものが設置されていて、その先端へ辿り着くとプップさんは何の躊躇いも無く湖へと飛び込んでいった。


「あのぉピピン様、どういう事ですか?」


「行けば分かる。愚図は嫌い。」


「分かりました。じゃあ行っーーー」


 ドパァーンッと音を鳴らして俺は湖へ突き落とされた。リョカ姉さんといいピピン様といい、なんで皆すぐに俺を突き飛ばすんだろうか。


 俺はジタバタして何とか浮き上がると、すぐにピピン様も湖へと飛び込んできたのが見えた。


 プップさんもピピン様も植物で装飾されたドレスのような姿なのだ。そして俺は飛び込んでくるピピン様を見上げている形だ。


 だからといって特に意味は無いのだが………顔に似合わぬ可愛らしいピンクの何かが見えた気がしたが気のせいだろう。気のせいじゃなかったら刻まれそうだ。


 ピピン様は飛び込んでから中々水面に上がってこなかったので、置いていかれたのではと水中を覗くとスイスイ先に進むピピン様が見えた。


 俺も急いで潜り追い掛けたのだが、数メートル泳いだ所で息が限界に達して慌てて急浮上する。


「無理だ。俺には土の中がお似合いなんだ。」


 ……完全に置いて行かれた。まぁ母様に質問とやらが終わったら戻ってくるだろう。でも置いて行かれるのは寂しすぎる。


 悲しみを胸に抱き、とりあえずプカプカと浮かんでいると突如水面が揺れた。


 顔に水がかかって少し慌てる。鼻があったら確実に水が入って痛かっただろう。


「レイ、何してるの。まるで水死体のようね。」


「ピピン様!いや、ついていこうとしたんですけど全然追いつけないし苦しかったんでここで待ってようかと思って。もう終わったんですか?」


「レイが来ないから戻ってきた。謝罪して欲しい。」


「すみませんでした。」


 するとピピン様は俺の謝罪に対し返答すること無く、無言で俺の人参の手を掴んだ。そしていつの間にかピピン様の全身を覆っていた黄緑色の膜がピピン様の手から俺の全身に伝わり包まれていく。


「………レイは本当に変。」


 そういってピピン様は俺の手を掴んだまま水中を進み出した。泳いでもいないのに進むのはどういう原理なんだろう。魔法かな。それに息も普通に出来るし。

 

「手を離せばレイは溺れ死ぬ。死にたくなければ離さないことね。私はいつでも離す準備が整っている。」


「すみません、勘弁してください。」


 冗談なのか本気なのかイマイチ分からないので、もう片方の手でピピン様の手を挟むように掴んだ。ピピン様は横目でちらりと見ていたが特に何も言わないでスイスイと進んでいった。


 なんかこのツンデレラほんとは優しい気がする。決してデレてはくれないけど。


「ここ入るんですか?」


「そう。」


 結構深く潜った筈なのに水中は明るかった。青いオーブのような光が漂っているからだろうか。

 やがて水中の洞窟が見えてきて中へと入っていく。


 水中の洞窟までもが青い光によって視界は確保され、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 洞窟はそれほど長くなく、10メートル程進むと出口が見えてきて、そのまま洞窟から飛び出した。


「……すげぇ。」


 洞窟から出て目に入ってきたのは水中に生えた超巨大な樹だった。大きく広がる枝からは青い光が降り注いでいた。どうやらここは地中にある大空間のようだ。


「こりゃ縄文杉も真っ青だなぁ。」


 学生時代に修学旅行で見た景色を思い浮かべて呟いていると樹の根元にプップさんが座っているのが見えた。


「ふたりとも~、遅かったねぇ!」


「ベジタブルが浮かんでいたから回収して来た。」


 最早名前でさえ無くなったか。おのれツンデレラめ。


「上手く泳げなくて取り残されちゃって。ピピン様がこの膜みたいなのでぶがががが!!!」


「……プップ、レイが自殺を謀ったわ。」


 プップさんに膜を見せて説明しようと思い、ついついピピン様の手を離してしまった。結果俺は一気に水に呑まれてしまい水が大量に体内を蹂躙した。全く持ってアホだぜ。


 そうは言いつつもピピン様は、突然の事でパニック状態になり溺れる俺の手をそっと掴んでくれた。やっぱり口は悪いけど優しい子なのね。


「レイくんだいじょ~ぶ?普通は母様の力で守られるから大丈夫な筈なんよ~。置いてってごめんね~!」


「プップ、それは仕方のない事。レイは守る価値の無いベジタブル。」


 めちゃくちゃ面倒見てくれたけどね……と言おうと思ったけど止めておこう。どうなるか大体予想つくからな。


「ところでふたりのお母さんは?」


「目の前。」


 ピピン様が指差したのは大樹だった。

 え?と驚く俺にプップさんが説明してくれた。


 この巨大な樹は妖精の守り神であり母なる存在。妖精はこの樹から生まれ落ちる。

 そして妖精の守り神なる所以は妖精の国を他から隔離して妖精を守り続けていることにある。


 更に驚きなのはこの樹は会話が出来るというのだ。妖精族限定ではあるらしいが。


「じゃあ早速ではありますが、母様にさっきの事を聞いてみましょ~!」


「おー!!」


「どうか母様、このベジタブル坊やを切り刻む許可を。」


 くっ、まさか大樹母様の前でまで俺を罵るとは。だが俺は知っているぞピピン様!君が幾ら毒を吐こうがツンデレラだって事をな!!


「母様、おはようございます!これ花の密置いておくね!あのね、一つ質問があります!いいかなぁ~?」


『おはよう、プップちゃん。質問の前に…その者は何方ですか?ここに妖精以外の者が訪れるのは初めてですが。』


「この子はね、レイくんっていうの!!私のお友達だよ~?良い子だから絶対大丈夫なの~!!」


「は、初めまして!レイと申します!!プップさんとピピン様にお世話になっています!」


「……聞こえるの?」


 あれ?そういえば大樹母様の言葉は妖精族限定な筈なのに聞こえてるな。普通に聞こえたから普通に返してしまったぞ。人間の言葉も分かったからそういうスペックなのかな俺。


 俺がついつい挨拶をすると、珍しくピピン様が豊な表情をしていた。


「うん……なんか聞こえちゃった。」


「……。」


「レイくんすごぉーい!!やっぱりレイくんは流石だねぇ!」


『レイさん。あなたは……いえ、何でもありません。……この子達とお友達になってくれてありがとう。プップちゃん、質問でしたね?』


「はい!あのね~、レイくん微精霊さんと上手くいってなくて困ってるの!微精霊さんが逃げちゃうから魔素もどっか行っちゃって吸収出来なくてしおしおになってたんよ~!だから生きていけるようにピピンに魔法を教えてあげて欲しくて!ピピンが母様の許可が下りたらオッケーって言うから教えて欲しかったの~!!」


「ついでにこのベジボーイを切り刻む許可を申請する。」


 止めてくれ。もし間違って許可が下りたらどうすんだよ。


『ピピンちゃんがそんなに楽しそうにしているのも久しぶりですね。レイさんに魔法を教えることを許可しましょう。』


「……ですが母様、レイは他種族。今更だけど妖精族は他種族との交流は禁止されている筈。」


『そうですね。ですがレイさんだけは私が特別に許可します。2人とも、レイさんの力になってあげなさい。そして空間魔法もレイさんに伝えて下さい。』


「わたしたちだけの魔法なのに…流石はレイくんだねぇ~!ビックリだよ~!」


 空間魔法は妖精族だけしか使えない特別なものらしい。空間と空間を繋ぐ魔法……レアっぽいのに人参な俺なんかが教わっていいのだろうか。


「プップ、どのみちレイは魔法が使えないから問題ないわ。」


「あちゃちゃ~。微精霊さんは何でレイくんを避けるんだろうねぇ~。」


 ぐはっ。そもそもスタートラインにさえ立っていない事を忘れていた。折角レアなレイがレアな魔法を覚えるチャンスだったのに。


『レイさん、私に触れて下さい。』


「は、はい。」


 緊張しながら大樹母様の元へ歩み寄ろうとしたが、ピピン様が動いてくれなくて進めなかった。離したら溺れちゃうからな。


『ピピンちゃん、この者は光の輪となります。力になって貰えますね?』


「……はい、母様。」


 さすがのピピン様も母様には逆らえないようで、一緒に歩き出してくれた。光の輪って何のことなんだろうか。


 よく状況が分からず言われるがまま大樹に手を添える。すると俺の体が淡く光り、腕に何かの紋様が浮かび上がってきた。


「鳥?……もしかしてピューヒエルの印?」


『素晴らしい方から寵愛(ちょうあい)を受けたのですね。隠れていたこの力に微精霊が不必要に驚いてしまっていたのでしょう。ですが顕現させたのでこれで微精霊が怖がることもありません。』


 やはりピューヒエルから貰った精霊の印のせいだった。しかし何故印を隠したのだろうと思い試しに大樹母様に聞いてみると、それも思い遣りからだろうとの事だった。


 格の高い精霊と契約した者や、印を宿した者は加護を受け何らかの力を得る。そして重要なのはここからだ。

 精霊の印は本当に認めた者にしか渡さない為、格の高い精霊に認められれば、本人もそれに見合った力を持った者とされる。そして中には位の高い印を持つ者を悪用しようとする悪い精霊もいるらしいのだ。


 ピューヒエルはそれらから俺を守るために、一定以上の条件の下でないと顕現出来ないようにしていたというのだ。

 だがピューヒエルもそれ程の精霊である自覚がないのと、まさか人参になるとは思っていなかったのだろう。


 どういう理屈でそんなこと出来るのかよく分からなかったが、とりあえず感じた事は、先に言っといてよ!だった。危うく魔素が無くて死ぬとこだったじゃん。死因:ピューヒエルによる魔素欠乏になるぞ。


 そういえば魔素って何なんだろうと思い大樹母様に聞いてみた。プップさんだとまっそまそ~で終わっちゃうからな。


 魔素は世界の源。人間も魔物も無意識のうちに吸収しているらしい。そして生命の源となる力を魔力に置き換えると魔法が顕現される。魔素は微精霊から自然と生み出されているものらしい。微精霊の排泄物とかじゃ無いことを祈ろう。


「この印にはどんな力があるんですか?」


「先程説明したように何らかの加護がついている事でしょう。それが何かは私には分かりませんが、きっとレイさんならすぐに分かるはずです。頑張ってものにしてくださいね。ただ1つ気を付けるのは、精霊との契約です。印が顕現した以上、変な精霊と契約しないように気を付けて下さいね。レイさんの眼ならば見抜けるはずです。」


「はい!頑張ります!!」


 どんな力が加護にあるのか分からないけど、キーナルメナンと違ってピューヒエルは期待出来る気がする。ピューヒエルがくれた加護ならきっと凄い力のはずだ!ものにしてみせるぜ!

 ただ変な精霊が寄ってきたらどうしたらいいんだろうか。まぁ今考えていてもどうにもならないから、そん時に頑張ろう。


「加護持ちだなんてやっぱりレイくんは凄いねぇ~!わたしは加護持ちなんて初めてみたよ~!」


「私も加護持ちのベジタブルは初めて。カゴに入った野菜と言ったところかしら。」


 スーパーじゃないんだから。


「とりあえずキモいから手を離すわ。」


「わっ!ちょっとまっ……あれ?」


 ピピン様が毒を吐き唐突に手を離した。俺は慌てたのだが、包まれていた膜が弾ける事は無くそのまま維持されていた。


「やった!俺も膜が出来た!」


「良かったねぇ~!これでいつでも来れるねぇ~!」


「レイの力じゃない。母様の力。妖精じゃないレイが認められたから守られているだけ。母様に最上級の感謝の念を持って。」


「もちろんです!母様!色々ありがとうございます!」


「ベジボーイの母様ではない。」


『ふふふ、楽しそうで何よりですね。レイさん、2人を宜しくお願いします。』


 どういう意味だ?むしろ俺が世話になるんだけどな。まぁいっか。


「はい!」


「母様、刻み込まないように気を付ける。」


「レイくん宜しくねぇ~!」


「うん、2人ともこれからも宜しくお願いします!!」


 なんだろうか。丸っこい人参になってから心まで丸くなっている気がする。

 そのうち一人称がボクとかになってしまいそうだな。


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