黄根 第六話 ニーピロー
大樹母様の湖を後にした俺達はプップさんの家に戻り一休みしていた。
「ピピン様、魔法はいつ教えて貰えるんですか?」
「……仕方ない。明日から。」
「そういえばレイくん!わたしたちはお友達だよ~?敬語なんて使わなくていいさ~!ね?ピピン~?」
「プップ、わたしは何でもいい。ベジタブルに求めるものはない。」
「だって~!良かったねぇ~レイくん!」
これは良かったと認識して良いの?求めるものはないと言われて喜んでいいのだろうか。
「ありがとうございます。」
「ありがとうでしょ~?レイくんはほんと可愛いなぁ~!」
「1度で理解しないレイはいつも片腹痛い。」
ちくしょう、この2人の温度差はどこから来てるんだ。ツンデレラがツンツンしてやがる。
「プップさん、ピピンさん、ありがとう!」
「こちらこそありがとぉ~!」
プップさんはいつも通りのゆるふわな感じで可愛い笑顔を見せてくれた。ピピンさんもさん付けで呼んでみたがそれに対して特に何も言うこと無くプイッと顔を背けるだけだった。
やっぱりツンデレラだな。そーゆーのも嫌いじゃないぜ。
「レイくんは可愛いからずーっとここにいてもいいんだよ~!」
ずっと……か。確かにここにいたら楽しいだろうな。それにここなら前歯で噛み千切られることも無い。
だけど、それは選べない。
「プップさん、ありがとう。でも、俺はどうしても行かなくちゃいけないところがあるんだ。」
「行かなくちゃいけないところ?」
「そう。プップさんやピピンさんみたいな大切な友達が、もしかしたら俺のせいで危険な目に遭ってるかもしれないんだ。」
「そうだったんだぁ。レイくんにも歴史ありだね~。わたしは全力で協力するよ!ね!ピピン!」
「ヒストリーオブベジボーイ……今から行くの?」
何よそれ。ベジボーイの歴史?そもそもベジボーイって何なんだ。まぁいっか。
「いや、出来たら昼間の大森林で生存出来るくらいの力は欲しいかな。」
「ならとっとと始めるわ。そうすればとっとと居なくなる。プップ、ジューワットの密を沢山用意して。」
「あいあいさーなのさ~!!!」
やっぱりピピンさんも何だかんだ言って優しいんだよな。貧乳ツンデレラだなぁ。
☆
俺の答えを待つこと無くピピンさんに連れ出された俺は湖の傍にある開けた花畑に来ている。いつの間にか他の妖精さんまで集まってきていた。
魔法の練習するのに花畑でいいのか?
「ピピン!何するの!!ねぇ、これは誰なの?」
「ピピンの彼氏-?やるわねー!!」
「紹介してよー!初めて見る魔物ねー!」
「騒ぐと刻み込む。」
「……。」
なにそのスタンス。ピピンさんの毒は俺専用じゃなかったのか?あんなにワーワー騒いでいた妖精さんが一言でみんな静観スタイルだぜ!!
「レイ、魔素を感じる?」
「……感じないかな。」
「無才能。」
無才能……そんな言葉初めて聴いたな。
「魔法を使うには微精霊の生み出す魔素を魔力に変える必要がある。魔素を魔力に変えるには自らの生命エネルギーをもって変換する。」
「なるほど。因みに魔素を魔力に変えるにはどうしたらいいの?」
「一番大切なのはイメージ。私ならレイを切り刻む為の風の刃を作り出す意識をする。それを微精霊に力を借りて体が纏った魔素へ伝えて魔力を作り出す。上手くいけば発動する。人間は微精霊を感じられないからそれを上手くやれないと聞く。代わりに詠唱を延々と繰り返しイメージを定着させる。すると心が乱れても染みついた詠唱でイメージを完成させる事が出来るらしい。理には適っている、けど一長一短な感じは否めない。レイには私達妖精のやり方で覚えてもらう。いい?」
「もちろん!頑張るよ!」
あんなにもクールでポイズンなピピンさんが熱弁してくれたんだ!必ずその気持ちに応えてやる!!
「そう。なら構えて。」
「え?かまえる?」
「魔法は体で覚える。安心して。首は飛ばさないわ。」
噓ですよね!?冗談ですよね!!噓だと言って笑ってよピピンさん!!信じてるからね!!
両手を顔の前に構えてガードの姿勢を取る。するとピピンさんの掛け声と共に何かが迫ってくる感覚がした。
恐怖が最高潮に達すると同じくして、腕に鈍器で殴られたような痛みが走り後ろにゴロゴロと転がった。
「いてててて。」
「今のは風の鎚。エアハンマーとも言うらしい。」
ハンマーか。だから切り刻まれずに鈍器で殴られたような感覚がしたのか。
風は形を自在に変えられるから便利なのかもな。
「やっぱり魔法は凄いね!」
「攻撃としては限界まで弱くしてる。今ので驚いているとレイは簡単に煮込まれて美味しくされる。」
今ので限界まで弱くしてるのか。やっぱり魔法は凄いな。後半はスルーだ。
「レイ。私は妖精族の魔法以外は風の魔法しか使えない。とりあえず風の魔法を学んで。」
そういってピピンさんは俺の胴体位の太さの丸太をフワフワと風に乗せて持ってきた。まぁ人間からしたら手首くらいの太さなのだろうけど。
「これを斬って。自習。」
いきなり自習かよ!とは言えない。
「や、やれるだけやってみるよ。ピピンさんは?」
「お腹空いたから家に帰る。」
あはははは!ブラックジョークここに極まる!!とか思っていたらピピンさんは本当に居なくなってしまった。冗談じゃなかったのか。流石だせツンデレラ!
☆
何とかピピンさんが戻ってくるより早く丸太を風の魔法で真っ二つにすることが出来た。それだけで無く地面に深い穴まで空いている。そしてピピンさんが戻って来る頃には風を自由自在に操れるようになっている。
という予定だった。
ところがピピンさんがいなくなってからどれだけ挑戦しても丸太を斬ることは出来なかった。それどころか傷一つ付けられていない。いつの間にかギャラリーもいなくなっていた。
「お!?……出来た!!」
最早何度目の挑戦か分からないが、なんと魔法が発動した感覚がしたのだ。そして手元に薄い緑色のオーラが生まれると風が作り出された。
「そよ風。丸太に優しいベジボーイ。」
「ピピンさん!魔法出ましたよ!!」
「そう。……見てて。」
ピピンさんは左手の掌を丸太に向けた。すると俺なんかとは比べものにならない濃い緑色のオーラが掌に集まっていた。
「風の斧。」
ピピンさんが魔法名を口にすると花々が一瞬激しく揺れた。そして風を切るような音が聞こえると同時に不可視の斧が丸太を真っ二つに割った。
「ピピンさん凄いね!真っ二つだよ!」
「さっきの風の鎚でもこれぐらいの木なら容易く砕ける。私は高位の風魔法は使えない。でも覚えておくと便利。」
確かに便利だ。丸太を運んだみたいに物を動かすことも出来るし、高位の魔法じゃないとは言ってたけど威力も充分だ。しかも目に見えなかったから避けるのも難しそうだし。
「こんなに早く発動までできると思わなかった。ベジボーイの種族は魔法の適性があるのかもしれない。その手じゃ剣は持てないからせめてもの救い。」
「よっし、燃えてきた!!どんどん練習しよう!!」
「でも気を付けて。魔素を魔力に変えるには生命エネルギーが使われる。やり過ぎは倒れる。」
「うん!気を付けるよ!」
それから無心で魔法の練習を続けた。ピピンさんも花畑にちょこんと座り、無言ではあるが付き添ってくれていた。
色とりどりに咲き誇る花と戯れる美しい妖精の姿には、見とれてしまう程の魅力があった。
気付かれたら毒吐かれそうだったので、すぐに我に返り練習に集中することにした。
「ピピン~!レイく~ん!もう夜ごはんで~すよぉ!」
「プップ。」
「あれれ~?レイくんどしたの~?」
「魔法の使いすぎ。」
「大丈夫なのかなぁ~?」
「大丈夫。疲れて寝ているだけ。」
「そうなんだ~。レイくん頑張ったんだねぇ~!それにまだ慣れない環境だもんねぇ~!でもやっぱりピピンは優しいよぉ~!」
「魘されてた。それが私のせいだと思われたくなかっただけ。」
「そっかぁ。でもレイくんピピンの膝枕で幸せそうな顔してるから結果オーライさ~!」
「ベジボーイは寝顔まで変。」
「ふふふ。レイくんクセになって、ピピンの柔らかい膝枕じゃないと寝れなくなっちゃったりして~!」
「不吉なことを言わないで。今回だけ。頑張ってたから。特別。」
「そうだねぇ~!ふふふ!でも、そろそろお家に戻ろうね~!ピピンの魔法で運べる~?」
「プップ、ベジボーイを運ぶぐらいたわいも無いわ。」
「ふふふ!じゃあしゅっぱーつ!!」
☆
「うぅーん。あれ?……ここは。」
そうだ、俺は妖精の国に来てるんだった。確か魔法の練習をしていたら突然の眠気に襲われて、座ったあたりから記憶が無い。
だめだ。何このベッド。ふわふわ柔らかくて気持ち良くて出られない。もう一眠りしちゃおうかな。
「レイく~ん!あ~さ~だ~よぉ~!おきれ~!……とぉ!!!」
「ぐほぉあっ!!!」
あまりの気持ち良さから布団を頭まで被り二度寝を決めウトウトしだした時、プップさんが天空X字拳をキメてきた。
人参だから首は無いけど、首であろう辺りに見事にキマり俺はゴロゴロと苦しみながらベッドから転げ落ちた。
「ご、ごめんねぇ!痛かった~?!」
首を抑えて苦しむ俺を見て、慌ててプップさんがしゃがみ込み顔を覗いてきた。
ピピンさんもプップさんもドレスの丈が短いから、座ると目のやり場に困る。ましてや転がってると余計にだ。しかも系統は違えど2人とも美少女だし。因みに白だった。何がとはあえて言わないでおこう。
それにしても朝から刺激が強すぎるな。色んな意味で。
「大丈夫です……だよ。」
「良かったぁ!お野菜だからヒビが入ったらどうしようかと思ったよ~!朝ごはん出来てるから、顔を洗ったら来てね~!はいっ、タオル!」
「プップさん、何から何までありがとう。すぐ戻るね!」
プップさんは良いお嫁さんになりそうだなぁと思いながら、プップさんの家の傍を流れる川で顔を洗う。
水面に映る自分の姿を見て、野菜を洗ってるようでなんか情けない気がして笑えた。
顔を拭いた後に意識してタオルを首に掛けて(首は無い)家に戻る。見当違いだろうけど、それで人間らしさを強調してみたのだが、誰も知るよしも無い事なので余計に虚しくなったのはここだけの話だ。
「あー、良い香り-。」
「えへへ~。このラパにジューワットの蜜を掛けてね!あとリーゴとナルップも美味しいから食べてね~!」
テーブルに並んだ朝食は朝から豪勢に感じた。パンケーキのようなものと果物などが並び、ゴブリンの朝ごはんとは比べものにならない。
そもそもゴブリンは火を使えなかった。だから火の通った物を食べることすら久しぶりだ。
「ここでは火を使えるんですね!」
「実はね~、なんとプップさんは火の魔法が使えるのです!」
まじか!プップさんは顔や雰囲気からして僧侶タイプかと思ってたぞ!
「凄いですね!」
「えへへ~、でも調理をする程度にしか出せないんだけどね~。だから妖精族の料理番長なんさ~!」
俺のそよ風の魔法みたいなものかな。
「じゃあ今度料理と火の魔法を教えて下さい!」
「こんなのでよければもちろんだよぉ~!」
例え料理にしか使えない魔法しか教えてもらえなくとも俺にとっては大いなる力だ。生肉食わなくて済むからな。バロンやニコに逢えたら焼肉の旨さを伝えよう。
プップさんと喋りながら朝食を取っているが、ピピンさんがいつまでも現れない。クールぶってるが実は寝坊少女なのか?
「そういえばピピンさんは?」
「ピピンなら朝早くからお花畑に行ったよ~!レイくんがご飯食べたら来るようにって言ってた!忘れてたよ~!」
忘れてたのかよ!やばい、どの位待たせてるんだろう。怒ってないといいな。
「そんなに慌てないで大丈夫だよ~!昨日頑張ってたからゆっくり休ませてあげてって言われたんよ~!」
「ピピンさんがそんなことを?」
「ピピンはよく誤解されるけど、ほんとはすっごく優しい子なんだよ~!昨日だってお花畑で寝ちゃったレイくんを膝枕してあげてたんよ~!!」
そこまで言ってピピンさんは口元を抑えた。
「今のは怒られるから内緒にしてね~!」
「う、うん。わかったよ。」
膝枕?あのクールビューティーが俺を膝枕だと?レディーポイズンがニーピローだと?つーか膝枕って英語で何て言うんだ!?
信じられない。そんな光景想像も出来ない。
俺はあまりの驚愕な話に、残った朝食を口に放り込み花畑へ向かっている間ずっと膝枕の英語訳のことばかり考えてしまっていた。




