黄根 第四話 妖精の国
「あれ?……ここは。」
さっきまで大森林と草原の境辺りにいたはずが、一瞬のうちに見たことの無い場所へ来ていた。
ふにふにふわっふわで温かい感触が未だに続いている為、よく見えないが野っ原でないことは確かだ。
「ここは私たち妖精の国なんよ~!」
そういってプップさんは俺に周りの景色を堪能させるべく体から離れた。離れた事で残念だが視界が広がる。
そこは美しく小川がせせらぎ花々は咲き誇りフワフワと綺麗なシャボン玉のようなものが漂っている。まさしくファンタジーの妖精の国そのものだった。
「私たちは生まれたときから鍵が使えるから、いつでもどこからでもここに来れるんだよぉ~!」
やはりファンタジーワールドだったか。それにここへ来るには鍵とやらが必要で、それがあればどこからでも立ち入れる。まさしくファンタジーだ。
プップさんやピピン様が突然消える理由がようやく判明したな。てっきり転移でもしてるのかと思っていた……まぁある種の転移ではあるか。
すると久しぶりな声が聞こえてきた。
「プップ、変なのが更に変なのになってる。」
「ピピン様!久しぶりですね!」
「久しぶり。逢いたくなかったわ。」
くっくっくっ………ぐはぁ。相変わらずの辛辣なピピン節で俺の儚く繊細なハートにヒビが入ったぜ。
「ピピン、レイくんは可愛いよぉ~?」
「なんか手足が気持ち悪いの。あと顔と声と思考。」
全部じゃねーか。
「ほぇ~、そういえばレイくん顔があったんだねぇ~!私全然知らなかったよぉ~。それにしても丸っこくて可愛い形だねぇ~!」
「ありがとうございます。」
手足に顔……やっぱり気のせいじゃないんだな。ドンカーブの魔の手から逃げる時、普通に走れてたもんな。それに視界が二つの目でしっかり見えてる感じがする。葉っぱを使えば視界は広がるけど、こっちの方がしっくりくる。
手と思われる部分を試しに動かし、どんなものか確認する。逃げる最中に手を振りまくった記憶はあるが、どんなものかなんて気にしてる余裕も無かったからな。
「黄色の人参だな。」
俺の手は薄い黄色だった。そして人参のような根菜系の手をしていた。指が無いから不便そうだな。
「プップ、こんな奇妙な魔物は初めて。見たことある?」
「ピピン、私もレイくんが初めてだよぉ!レイくんはお野菜なの?魔物なの~?」
2人とも知らないだなんて、もしかしてレアな魔物にでも転生したのかな。もしくは俺の高貴な魂のせいで、何かのお野菜の突然変異か。
「俺にも分からないですね。マンドラゴラっぽい感じはしますけど。」
「マンドラゴラ~?初めて聞いたよ~!さすがはレイくんだねぇ~!」
「マンドラゴラ。名前だけは立派ね。」
ぐぬぬぬ~!!悔しいが俺もそう思うぞ!!何てったって今の俺の姿は人参だからな。
「折角だから私のおうちにおいでよぉ~!さぁさぁ~!」
プップさんは俺の人参の手を取り歩き出した。それに続いてピピン様も歩き出す。俺のこと嫌ってそうなのに何故ついてくるのだろう。
プップさんと手を繋いで歩いていくと、可愛らしい家がたくさんあることに気付いた。
小さなログハウスのようなものや、木の上の隠れ家のようなものなどどれも作りが凝っている。
そして小川の横にある大きな花の前で、プップさんは足を止めた。
「ここがわたしの家だよ~!!」
「え、どれですか?」
目に映るのはチューリップ風な花の形をした何かと川だけだ。それらしき住処など見当たらないけどな。
「この花の形をしたのが家なんよ~!中は意外と広いんだよ~!」
「へぇ、花の形の家だなんて素敵ですね-!」
「プップ、私の傍を離れてはダメ。危険よ。」
「そうだね~!ピピンはいつも一緒にいようねぇ~!」
ピピン様の俺への口擊を天然で華麗に躱したプップさんは、花の横に付いている扉を開けて手招きしていた。
傍を離れてはダメと言っておきながら、ピピン様は俺の後に続いて花の中へと入っていく。
「ほー!これはすごいや!プップさんの家は外だけじゃ無くて中まで可愛らしいんですね!しかもめちゃくちゃ広いですね!」
「そんなに誉められると照れますなぁ~!レイくんの可愛らしさには負けちゃうよ~!」
「プップの家じゃない。プップと私の家。それと私達は妖精。広いのは当たり前のこと。あとレイ、そこは私のテリトリー。動くと草が落ちるわ。」
「あ、すみません。」
どうやらここは2人で同棲しているらしい。プップさんとピピン様は仲良しなんだなぁ。
「プップさんとピピン様は仲良しなんですね!」
「ピピンは親友なんさ~!」
「ん。」
プップさんのストレートな言葉にピピン様は顔を逸らして返事した。だが少し顔が赤い。素直じゃないぜピピン様!このツンデレラめ!
「ピピン様、親友ですって!良かったですね!」
「レイ、草落ちる。外に出て。散髪が必要ね。」
俺のにやついた顔を見たピピン様がすかさず突っ込んできた。いらついたように俺の手を掴んで表へと連れ出した。
「ピピン、なにするの~?」
「プップ、レイのわさわさと鬱陶しい葉を落とすの。」
「もっさもさだもんね~!良かったね、レイくん!」
「いや、やめましょうピピン様!絶対痛いですよ!」
前に妖精の蜜をプップさんに塗って貰う際に葉を千切られたのだが、あのササクレを無理矢理剥がされたような痛みが忘れられないのだ。
「レイ、大事なのは痛みより清潔。大人しくなさい。」
「ひぃいいぃぃ!!」
情けない声を上げながら逃げようとしたのだが、体が動かない。
一体何が起きたのだと体を見ると、蔦のようなものが巻かれていた。
「動くと間違って首を落としてしまう。首はないけど動かないで。」
そういってピピン様は、何も持たぬ手を振り抜いた。
「うぎゃ-!!!……あれ?そんなに痛くないな。」
「当たり前。私の鎌の切れ味なら痛みを感じる前に天に召される。」
それだと痛みを感じる前に俺は死んだことになるな。
「良かったね~レイくん!これでいつでも蜜を塗り放題だよぉ~!」
それほど痛くなかった事に安堵したのだが、後で水面に映る自分を見るとファンキーな見た目になっていた。
草履型モヒカン人参。少しヒリヒリしてる。
「密の吸収は良さそうですけど、光合成出来なくなりましたね。」
「そもそも魔物には必要ないこと。必要なのは魔素。」
「まっそまそ~!」
ま、まっそまそ~。
☆
モヒカンになったので、とりあえずこれで言い掛かりは付けられないと判断して、安心してプップさんの入れてくれたお茶を飲んでいる。
お茶は少しとろみがありとても甘くて美味しかった。転生を開始してからこういう甘味を味わっていなかったから至福の想いだ。
そういえばプップさんは顔だけでなく声まで可愛い。このお茶のように甘い声なのだが、しつこさが無く聞いてるだけで気持ちが安らぐ。ピピン様は声は綺麗なのだが、クール過ぎる態度のせいで声が際立っていない。俺にもツンデレになってくれたら目方が変わって印象も変わるだろうか。
リラックスしてそんなことを考えながら会話する2人を観察していると、プップさんが話しを俺に振ってきた。
「そういえばレイくんはいつからあそこにいたの~?あと何でお野菜なのに喋れるの~?これからどうするの~?」
「プップ。レイは生まれたときからあそこにいたの。喋れるのは変だから。これからレイは大森林の角ウサギに頭から美味しそうに齧られるの。」
くっ。なんて的確なんだ。答えようがない質問だが、否定しようのない完璧な口擊だぜ!
「ひぇ~!それは大変だなぁ~!レイくんは戦う為の魔法使えるのかなぁ?」
魔法…それはマロン。いやっ、ロマン。
この世界じゃ当たり前かも知れないが、俺にとっては憧れの存在だ。
「魔法ですか……使ったこと無いですね。」
「プップ、レイはレアなの。魔法も使えない穀潰しなの。角ウサギの餌になる運命なの。」
レアなレイなのに否定的な意見は初めてだ。
「そっかぁ~。レイくん小さいから魔法使えないと大変だね~。微精霊さんも隠れちゃうからな~。微精霊さんが逃げちゃうと魔素もくっついてっちゃうから天然の魔素は望めないもんな~。」
「微精霊は何で俺から逃げちゃうんですかね。悪さはしてないんですけど。」
実際転生前までは精霊に避けられるどころか好かれ放題かと思っていた。トップクラスの管理者であるキーナルメナンの使役する大精霊ピューヒエルからの精霊の印というお墨付きまであったからだ。
ん?もしかして……というかむしろ考えられるのはそれしか無い。ピューヒエルが凄い奴過ぎて印が微精霊には逆効果となってるんじゃね?
あんな軽いノリの奴だからあまり気に止めてなかったが、もしかしたらピューヒエルは精霊界では有名人なのかもしれない。微精霊もその印にビビっちゃって近寄れない感じとか。
「レイは微精霊も引くほどのキモさなのね。」
なるほどピピン様。その可能性もあるんですね。なるほど。
「レイくんはほんと面白いねぇ~!微精霊さんには避けられて、魔素も吸収出来ないんだからヤバいね~!」
「そう。滅びゆく種族。しかもカウントダウンは始まっている。」
カーンと脳内でラウンド終了のゴングが鳴った。少し休もう。脳が破裂してしまいそうだ。
コカトリスに石化されたように固まったまま脳内で整理する。
魔法を使うには微精霊の生み出す魔素が必要。魔素はまっそまそでよく分からない。しかし魔素が吸収出来ない為、妖精の蜜が今のところ唯一の生存手段。そして微精霊さんは俺を避けている。俺は現在人参だから武器もまともに使えない。今回も人間に狙われる。
あれ?駄目じゃね?人参なにもできなくね?今回の人生自立できなくね?
「まぁ、どうにかなるさ~!ふぁいとふぁいと~!」
「なるようになる。なるようになって前歯に刻まれる。」
駄目だ。挫けてしまいそうだ。だが俺は早くバロンの元へ行きたいんだ。
「2人は魔法使えるんですか?」
「当たり前。私達には空間魔法の適性が生まれた時から備わってる。じゃないと妖精の国の鍵が使えない。」
「そうなんよぉ~!でも、ピピンは他にも風の微精霊さん達にモテモテだから風の魔法も得意なんだよぉ~!私は種火だけさ~。」
「いつでもレイを刻めるわ。」
「やめてください。」
魔法いいなぁ。微精霊さんに認めてもらえたらいいのになぁ。そうすれば人参でもバロン達のコロニーまで辿り着けるかもしれないし。このまま大森林へ挑んだら昼間でも角ウサギに襲われてお陀仏だろう。
「俺も魔法使いたいなぁ。」
「おおぉ~?だったらだったら!ピピンに魔法を教えて貰えばいいんだよぉ!!ね?いいでしょピピン~?」
「プップ、無理よ。きっと誤って殺してしまうもの。必ず。」
やめてください。もう誤殺は嫌です。それときっとなのか必ずなのか決めといてください。
と
「じゃあさ、母様に聞いてみようよ~!それで決めるならいいでしょ~?」
「……そうね。母様がみじん切りを望むのならそうするわ。」
みじん切り……母様とやらが過激な方じゃないといいな。
それじゃあレッツラゴ~ゴ~と楽しそうにプップさんがイスから立ち上がり、俺とピピン様の手を取った。
母様ってのはどんな人なんだろう。大人な妖精なのだから美人マダムといった感じだろうか。ちょっと緊張するけど、わくわくしてきたぜ!!!!




