CASE.8
俺は撮影が始まる前にみんなに注意喚起をして回る。
1つ、上から降ってくる幽霊に当たらないこと。
2つ、幽霊と思われる存在と目を合わさないこと。
3つ、霊媒師Yさんの言うことには従うこと。
既に見上げてしまった編集長と俺のせいで他の方々に迷惑が掛かってしまうことを恐れ、もうみんな屋上の手を振る幽霊を見るように触れ回る。
見えなかったという連中は建物内に入らないように指示する。というのもAさんのインタビューの中で幽霊に接触すると死ぬというものがあった。それが事実なら見えなかった人たちには落ちてくる幽霊を視認できないので、避けることは不可能ということになるからだ。
そして入った後は出ることは困難となるので、霊媒師Yさんの除霊次第で生き死にも決まってくる。一応落ち目のグラドルも参加予定だったが、死の危険が伴うために車で待機となった。
「マジで行くんすか?」
俺は弱気一辺倒で霊媒師Yさんを見たが、霊媒師Yさんは死ぬときは道連れだと言わんばかりに目を血走らせていた。
──金は命よりも重い。
どこかで聞いたセリフが頭を駆け巡り俺は覚悟を決める。
俺たちはゆっくりと建物に近寄り、屋上の幽霊たちの出方を伺う。今にも飛び降りるのではないかと思うほどに屋上のへりに立つ幽霊たちを見て背筋が凍る。
「走れっ!!」
霊媒師Yさんは怒鳴るように指示し、俺たちは死に物狂いで建物の中に侵入した。
特に幽霊は落ちてくることは無く、スルッと侵入することが出来た。
カメラの向こうで見ているお茶の間の連中にはきっと安っぽい映画が始まったようにしか見えないだろうと考えながらも心臓が跳ね散らかして全身に血を巡らせる。
「……全員無事だな」
霊媒師Yさんは俺たちを見渡して1人も欠けてないことを確認する。俺たちも自身で確認してお互いに頷き合った。何も起きなかったことで拍子抜けした部分もあったが、とりあえず緊張感は持っていくことにする。
「私もこれほどの怪異に出会ったことは無い。気を引き締めてかかるぞ」
自分を鼓舞するように気合を入れ直す霊媒師Yさん。その言葉に応えるようにJさんは懐からお札を取り出した。それを俺たちに配り、全員に行き渡ると霊媒師Yさんは続ける。
「これは霊験あらたかな御札だ。これを各部屋の適当な場所に貼り付け、全ての霊を逃げられないようにする。実は私たちはこれを2日前にこの団地の四隅に貼り付け、結界を作っている。悪霊が儀式の最中に逃げ出さないようにな。そして奴らを完全にこの地から払うために屋上にて儀式を執り行う」
それを聞いて卒倒しそうになった。
「待ってくださいよっ! わざわざ幽霊がわんさかいる屋上でやるんですかっ!?」
俺の叫び声に似た質問に霊媒師Yさんはコクリと頷く。火を焚くから屋内では煙が充満する上、建物からの脱出が困難であると予想され、除霊の儀式は屋上で決行することが決まった。
「まずは私がこの札を貼るところを見ていなさい」
そう言うと側の部屋に入って御札を壁にペタッと貼った。ここに貼った意図を聞いたが、別にどこでも良いらしく、とにかく霊が逃げ込む場所を消しているのだと話してくれた。
俺たちはそれぞれに別れて行動し、この霊験あらたかな御札を一部屋ずつ漏れのないように貼り付けた。思ったよりも余ったが、使い切る必要はないと回収されることになる。
「残すは屋上だな」
霊媒師Yさんを先頭に俺たちは階段を上がる。屋上に続く階段の手前に配電盤のようなボックスがあり、それが少しだけ開いているのが分かった。霊媒師Yさんにそれを伝えると、緊張した面持ちでゆっくりと箱に手を掛けて一気に開ける。
中には配線の類はなく、代わりに朽ちてボロボロになった御札が貼られていた。
「ここにもあったか」
霊媒師Yさんは何かを知っている風にその御札を見ている。
「これは一体何なんでしょうか?」
俺が尋ねるとこちらを見ることもなく答えた。
「おそらくこの団地に住まう悪霊を封印していた札だろう。一昨日この団地に訪れた際も四隅に同じように朽ちた札が隠されるようにして貼られてあった。悪霊たちの天下となっている状況を思えば既に効力はあるまい。ここも新しい札に貼り替えておこう」
そう言って御札を貼った後、両手を合わせて朽ちた御札を剥がす。その瞬間に誰かが背中におぶさったようにズンッと空気が重くなる。全員がその空気を感じたようで、剥がして大丈夫だったのかと不安になった。
「狼狽えるな。私が必ず除霊を完了させる」
力強く言い放った霊媒師Yさんの言葉を信じるしかない俺たちは屋上の扉に手を掛けて思いっきり開く。きっとそこにズラッと並び立つ悪霊たちが待ち構えているのだと思ったが、屋上は閑散としていた。下から見た景色とは全く違う雰囲気に固唾を飲んだが、霊媒師Yさんと助手のJさんは好都合だと祭壇を用意し始め、程なく完了した祭壇の前に座らされる。
「良いか。この紙垂に囲われた場所は結界だ。ここを出れば悪霊に取りつかれると思え」
テレビクルーと俺は縮み上がる気持ちで身を寄せ合ってカメラを構える。霊媒師Yさんは助手のJさんと共に火をつけて除霊の儀式を始めた。




