CASE.7
霊媒師Yさんの接待を終えた俺は早速紙面を埋める。
おおよその校正は済んでいたのですぐにも雑誌を刷れそうなほどに仕事が捗る。
そう、これは準備段階に過ぎない。
編集長に話を持っていくと目を輝かせて話を聞いてくれた。
「面白そうだなっ」
その発言と共に編集長が電話したのは大手メディア。心霊特撮バラエティで今回の件を取り上げてもらおうというアイデアだ。
とはいえ飛び込みの企画。話は来年に持ち越される場合もあった。そうなるとせっかく書き上げた紙面もお蔵入り。もし諸々の事情を無視して刊行したとしても、飛び降り団地の蒸し返しなど興味を持ってもらえるわけもなく、我が社の雑誌は売れずに廃刊が確定する。
最も怖いのは給料を払ってもらえずに編集長に飛ばれることだ。不安だけが俺の心を蝕んでいく。このままだと俺があの団地の幽霊の一員になってしまう。
しかし不安は一転、杞憂になった。
編集長は顔が広い。大手メディアのプロデューサーがこの話に食いついてきた。
それというのも霊媒師Yさんが除霊に前のめりであるというのが理由だそうだ。何でも昔に霊媒師Yさんの特集を組んだ時があり、その時に恥をかかされたそうだ。今回はその時の復讐を兼ねてこの話をねじ込んでくれるとのこと。
霊媒師Yさんを留める金を引っ張ってくるから今回の企画やプロデューサーの名前を出さないように念押しされ、霊媒師Yさんを徹底的に苛め抜こうと画策しているらしい。
俺は早速、霊媒師Yさんに金額を提示し、首を縦に振らせる。日時や日程を決めていき、当日は黒塗りのバンで送迎することを約束した。
幾度も連絡を重ね、霊媒師Yさんのスケジュールを握り、ついにその時が来る──。
当日、霊媒師Yさんは逃げられないと悟っていたのか、思った以上に金を掛けたであろう正装で佇んでいた。
普段から着物を着て偉そうにふんぞり返っているのだが、今回は清廉で厳かな雰囲気を纏っている。ネックレスのように下げた数珠をジャラジャラと鳴らしながら助手と思われる男性と共にバンに乗って来た。
「出してください」
霊媒師Yさんに代わって口を開いた助手、仮にJさんの指示に従って車を出す。ムッと口を噤んで目を閉じ、精神統一している霊媒師Yさん。この人もきっと自分のことを本物だと思い込んでいるのだと考える。
『祟り』が皆の信じる心に呼応するように、嘘偽りでも自らが『本物』だと信じることで格を作るのではないかと思えた。
確か修業したのは本当で、何らかの宗派のお墨付きをもらっているとかいないとか。
現地についてカメラを向けられても動じることなく仁王立ちで迎える。プロデューサーが当てつけに「お久しぶりですぅ」とか言って滅茶苦茶煽っていたが霊媒師Yさんは鼻を鳴らして無視。とりあえず台本を渡して目を通してもらうとジロッと俺を睨んできた。
「君もグルだったとは見損なったよ」
と、大して関係が深くない俺に言って来た時は少々呆れたが、提示した金の2倍を渡された時から既に確信していたのは見え見え。とりあえず話半分に聞き流して編集長に話を聞きに行く。
「やっぱ俺の勘は大当たりだったな。あれだけ擦り倒した自殺の名所が金鉱山に見えてくるとはよぉ。俺らにもようやく運が巡って来たってことだなぁ」
確かにその通りなのだが、編集長の顔の広さを使えば別に他のことでも稼げたのではないかと邪推する。今更何を言ってもという話だが、これでようやく給料が入るのだと思えば努力が報われる気もした。
「見ろよ。あれがお前が足で稼いだ特ダネだ。俺らに手を振ってるぜ」
この編集長はルール無用である。見たらダメと言われているのに構わずにジロジロと観察している。かく言う俺もその光景を見て本当に手を振っているのを確認したので胃がキリキリと鳴った。これからあの中に入る人たちは本当に可哀想だ。
そんな風に考えていたが、霊媒師Yさんは俺たちを見逃さなかった。「一緒に入れ」と強めの口調で言われ、プロデューサーからも「仕方がない」とバッサリ斬られた。
恐怖と混沌が入り混じる団地の奥へと俺たちはカメラを持って突撃することになった。




