CASE.6
自殺の名所と呼ばれた『飛び降り団地』。
その実態は単なる自殺とは大きく乖離している。
俺は編集長にも紹介していない多くの証言を纏め、会社お抱えの霊媒師に話を聞きに行くことにした。
編集長曰く『ただの詐欺師』とのことで話を聞くだけ無駄だと言われたが、専門家の意見を載せた方が見栄えも良く、オカルト雑誌として箔が付くというもの。
もろもろの説得を重ね、しぶしぶ了承させることに成功し、霊媒師に編集長自らアポを取ってくれることになった。今は心霊系の仕事も斜陽気味らしく、暇しているだろうと連絡を取ってみれば編集長の読み通りすぐにも会いたいと申し出があった。
ちゃんと経費として落としてくれるか不安に思いながらも、接待用の電子決済アプリの残高を確認しつつ菓子折りを持参して霊媒師の下を訪れる。
──インタビューを開始します。先生、本日はお忙しい中お会いいただき感謝いたします。
霊媒師Yさん:
よしてくれ。私も老いさらばえて体力的にも限界を感じ、仕事を減らしてきた最中だったのだよ。
今回のはよからぬ気配を感じて話を聞こうと思っただけのことよ。
しかし、歳を食ったのは私だけではないようだな。まさか今更あの団地のことを調べているとは……。当時どれだけの人間があの団地を調べたと思っている。もう味がしないだろう。
──まぁそう言われずに。先日添付したデータはある程度確認されたかと思いますが、あの資料をご覧になってどう感じられたかお話をお聞かせください。
霊媒師Yさん:
うむ。悪霊が関係していることは間違いない。だがこれは連日連夜放送されていた当時から言われていたことだぞ。私の見解も他の同業者と変わらんよ。
──いや、私は先生の意見が聞きたいのですよ。もう一度よろしいでしょうか。数多くの断片から得られた団地のルールと、それが破られた場合の非業の死。これらが関連するところの怪異の存在を先生はどう見られますか。
霊媒師Yさん:
だからさっきから言っているようにだねぇ……。ふぅ……まったく仕方のない。ここではあえて言うが、最初の飛び降り自殺から怨念があの地に巣食い、心の弱い者から順に道連れにしていった。怨霊が成仏することなく留まり、あの団地を異界へと変化させたのだと私は考えている。
──『異界』ですか。
霊媒師Yさん:
ああそうだ。呪いの根源となる何かが自殺を誘発させている。そいつを中心に異界化が始まり、あの地は化生の類の住まう場所となった。もう誰も近付かぬ方が良かろう。
──それでは団地のルールはどうして出来たのでしょうか。何故上を見なければ死なないと言えるのか分からないのですが。
霊媒師Yさん:
やれやれ、君は昔から伝えられてきた伝承というものが分からないのかね。どうして禁則地にはルールがあるのか。何故二礼二拍手一礼なのか。取り扱いを間違えれば失礼に値し、怒りを買い、最悪の場合は死に至る。
この団地でもそう信じられてきたからこそルールを守り秩序を保って来た。しかし最後の犠牲者と共に我慢が決壊し、誰も住まなくなった。それだけのことよ。
──つまり悪霊と目が合うことが自殺の要項を満たすことに繋がったと。
霊媒師Yさん:
まぁ、そうなるな。
──しかしAさんの例やMさんの例などは自分ではなく他者が亡くなっています。
霊媒師Yさん:
そうだよ。だから言っている通り、あの地はずっと前から異界となっている。住民がルールを設けたことがその証拠だ。
皆が皆、『祟り』を恐れているからだよ。実際にはただの作り話であろうと多くの人間が信じれば本当になる。自殺にも因果関係を見出して恐怖し、何とか逃げ出す策を考えてルールを設ける。一種の呪いさ。事実それで安心して暮らせていたというのも頷ける。
──上を見ることが何らかの怒りを買ったというのですか。
霊媒師Yさん:
というよりも興味を引いたというのが私の見解だよ。あの地に巣食う怨霊は既に人の域を超えている。数多くの霊魂が寄り集まってできた呪いの結晶。住民たちは興味を惹かないように常に目を逸らして生きていた。
だが団地の外に住まう者にとってはルールなど関係ない。禁忌を破って住民に迷惑が掛かっても対岸の火事。破綻するのは目に見えていた。
──Aさんの情報から今もまだ犠牲者が増えると考えますが、今後どうすれば良いか先生の見解をお聞かせください。
霊媒師Yさん:
まずは侵入者を減らすことだな。死を望んではいる者もいるにはいるだろうが、大学生に限らず最近では動画配信者という者も幅を利かせている。立ち入り禁止の札だけでなく、警備を増やして侵入を防げばやがて朽ち果てようというもの。
──……先生が悪霊を払ってはいかがでしょうか。
霊媒師Yさん:
莫迦なことを言う。君子危うきに近寄らず、だよ。大体、一銭にもならないじゃあないか。
──ということは、お金になれば払っていただけると。
霊媒師Yさん:
ま、まぁ私ほどの霊媒師ならやってやれないことは無い。だが、私は忙しい。こっちにも生活というものがある。それなりの金額を提示できるのなら、私の力を以ってしてあの場の悪霊を根こそぎ払ってくれよう。
といっても、私を唸らせるだけの金額を提示できるとは思えないがね。
──分かりました。この話は一度持ち帰らせていただき、後日また相談に伺います。その時は先生、よろしくお願いしますよ。
──インタビュー終了。




