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第2話 桜ト菊-インヴェスティゲイト-


 常ノ瀬は俯いていた顔を上げ、千端の後頭部に目をやり、言った。

「いくら出せる?」




 八宮商店街を歩く影が二つ。片方は頭を摩り、もう片方は呆れた目を向けていた。


「カイ、アンタ最初に依頼料聞くの辞めなさいよ。うちが金でしか動かない血も涙もない集まりだと思われるでしょうが。」


「だからって頭叩くなよな、俺の頭が悪くなったらどうしてくれるんだよ。」


「既に悪に染まってんだから変わりゃしないわよ。」


軽口を叩き合いながら向かっているのは、先程の依頼人の旅館、鶴ケ谷であった。店主である千端は先に戻っていた。

花蝶と常ノ瀬は今までの経験からこの事件の原因は多方予想がついていた。


「十中八九モノノ怪の仕業でしょうね。人の認識、記録まで歪められるとなると」


「相当厄介な奴だ。花蝶、みっちゃんは?」


みっちゃんーーもとい、斗芽留光。彼女もまた白詰草の一員なのである。


「アンタの嘘で拗ねて駄菓子屋のおばちゃんとこ行ってるわよ。全く、いい加減やめなさいよね。」


「アイツがすぐ信じるのが悪いと思わないか?あんなにポンポン騙されるなんて、カモの才能が」


「無駄口叩いてないで謝罪の台詞を考える事ね。堺に入るなら、あの子の力は不可欠なんだから。」


堺ーーモノノ怪が作り出す彼岸と此岸の間にある空間であり、入るためにはモノノ怪に連れ込まれるか、無理やり入口を切り開くしかないのである。




 八宮商店街から出てすぐの角、鶴ケ谷はそこにあった。まだピカピカの瓦屋根と傷一つない檜の柱が新築なことを物語っていた。

 暖簾を潜り、誰もいない受け付けを確認した常ノ瀬は花蝶に目もくれず言った。


「花蝶、お前はまず女将に当たれ。何も出てこないだろうが、それっぽく調査してますよって見せておけ。俺はその倉庫とやらに行ってくる。」


常ノ瀬は慣れた口調で指示を出し、異聞帳片手に奥に消えた。後に残ったのはため息をついた花蝶と、丁寧に揃えられた革靴だけだった。



 花蝶は常ノ瀬の指示通り、受付の女将を探した。旅館と住居とを繋ぐ扉を開いた先に探し人はいた。

藍色の着物を着たその女性は、何も乗っていないちゃぶ台の前で、座布団も敷かず座り込んでいた。

花蝶が入ってきたことにも気づいておらず、声をかけて初めて目が合った。

花蝶は自身が千端の依頼で来たことを伝え、何か見ていないかなど問うてみたが、目新しい情報は出てこなかった。


「本当にお願いします。警察さんに言っても信じて貰えず、戯れ言だと聞き流されてしまい…」


桔梗が刺繍された手拭いで目元を拭う女性ーー千端梅子の震える背中を花蝶は安心させるように摩った。


「安心してください。うちの依頼達成率は百パーセントなので!」


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