表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死の接吻  作者: 麻生あきら
Newborn Hope

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

21 Newborn Hope - 01 -

“Newborn Hope” 新たな希望

挿絵(By みてみん)



 アキがチェルシーの家に戻るとベラと賢人(けんと)は慌てて駆け寄った。


「一体どこへ行っていたの? 心配したのよ」

「ごめんなさい。⋯⋯気が動転してて。ジーンの所へ行っていたんだ。⋯⋯それと、明日の飛行機のチケットが取れたよ」


 アキの落ち着いた様子を見て、ベラと賢人は顔を見合わせた。


 ベラは賢人に、

「真っ青な顔をしてとんでもない勢いで出て行った」

 と大騒ぎした。


 賢人は母の慌てぶりにいささか腹を立てたが、実際にはアキに何事もなかった事に安堵した。

 ジーンの事件の後に京也の訃報。

 立て続けに起こるアキへの負担を不安に思っていた。


「そうか。私は店へ指示を出してから後から行く。⋯⋯それにしても暁人、いい加減グラニーを心配させるのはよしてくれないか?」

 賢人は恨みがましい目をアキに送る。

「すみません」


 あらためてベラを両手で包み、アキは詫びた。

「ごめんなさい、グラニー。もうしないから」

「いいのよ、仕方ないわ。今回ばかりはね」

 ベラはアキの背中に手を回し、軽く励ます様にとんとん、と叩く。




 アキはその後ゆっくり時間をかけて荷造りした。

 ひとつひとつ、気持ちの整理をするように。


 時折ベラと賢人が顔を出し、あれもこれもと土産物の品々を持ってきた。

 アキは二人に感謝のキスを毎回頬に送った。


 明くる日昼食を採った後、アキはベラに見送られながら家を出た。

 ジーンに別れを告げるために早めに引き上げた。

 後ろ髪を引かれる思いで振り返り家を眺める。


 祖母と父の住む温かな思い出の詰まった場所。

 そしてジーンと苦しい想いを解放しあった場所。


 ベラはアキの姿が見えなくなるまで見送るつもりらしく、微笑みながら手を振っていた。

 アキもそれに応え振り返す。


 ひとつ大きく息をつき、アキは歩き出す。

 ぬるま湯の生活から脱却し、日本に向かう為に。




 アキがフラットへ入って行くと、ジーンは昨日と同じようにソファへと促した。

 ソファの上には開いたまま裏返された本。


 以前には見られなかったゆったりと落ち着いた笑顔。

 アキの大きなトランクを見ると、いつもの様に口の端を片方だけ上げた。


「随分大きな荷物。まるで逃亡者だな? よく五階(ここ)まで持って来たな」


 アキはにっこりと微笑み返したが、それでも口元はちょっとだけ引き()る。

 ──性格は変わってないな。


「祖母と父がね、あれも持っていけ、これも持っていけってバンバン渡すものだから」

「愛されてるなあ」

「まあね、久し振りだったし。⋯⋯それより何を読んでいたの?」


 ジーンは一瞬の何の事か解らず、眉を(ひそ)めた。

 アキはトランクを置き、ジーンの傍らに立って本を指差した。


「ああ、これ。カミュの『LE MYTHE DE SISYPHE(シーシュポスの神話)』だ。生と死について書いてある。前にも読んだ事があるけど、あの時とは違った考え方ができるかなって」

「へえ。で、どう? 違いがあった?」

「さあねえ。退屈ってやつはひどく眠気を誘うから、読もうとすると瞼が降りてくるんだよ」

 ジーンは辟易(へきえき)しながら言った。


 二人はそれから半時程今まで読んだ本について語り合った。

 まるでこのまま話し合っていれば、アキが日本に帰らずに済むとでもいったように。

イラストはリメイク前のもの。

ジーンの顔が少しだけ違います。Gペンと墨の華で描かれています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ