21 Newborn Hope - 01 -
“Newborn Hope” 新たな希望
アキがチェルシーの家に戻るとベラと賢人は慌てて駆け寄った。
「一体どこへ行っていたの? 心配したのよ」
「ごめんなさい。⋯⋯気が動転してて。ジーンの所へ行っていたんだ。⋯⋯それと、明日の飛行機のチケットが取れたよ」
アキの落ち着いた様子を見て、ベラと賢人は顔を見合わせた。
ベラは賢人に、
「真っ青な顔をしてとんでもない勢いで出て行った」
と大騒ぎした。
賢人は母の慌てぶりにいささか腹を立てたが、実際にはアキに何事もなかった事に安堵した。
ジーンの事件の後に京也の訃報。
立て続けに起こるアキへの負担を不安に思っていた。
「そうか。私は店へ指示を出してから後から行く。⋯⋯それにしても暁人、いい加減グラニーを心配させるのはよしてくれないか?」
賢人は恨みがましい目をアキに送る。
「すみません」
あらためてベラを両手で包み、アキは詫びた。
「ごめんなさい、グラニー。もうしないから」
「いいのよ、仕方ないわ。今回ばかりはね」
ベラはアキの背中に手を回し、軽く励ます様にとんとん、と叩く。
アキはその後ゆっくり時間をかけて荷造りした。
ひとつひとつ、気持ちの整理をするように。
時折ベラと賢人が顔を出し、あれもこれもと土産物の品々を持ってきた。
アキは二人に感謝のキスを毎回頬に送った。
明くる日昼食を採った後、アキはベラに見送られながら家を出た。
ジーンに別れを告げるために早めに引き上げた。
後ろ髪を引かれる思いで振り返り家を眺める。
祖母と父の住む温かな思い出の詰まった場所。
そしてジーンと苦しい想いを解放しあった場所。
ベラはアキの姿が見えなくなるまで見送るつもりらしく、微笑みながら手を振っていた。
アキもそれに応え振り返す。
ひとつ大きく息をつき、アキは歩き出す。
ぬるま湯の生活から脱却し、日本に向かう為に。
アキがフラットへ入って行くと、ジーンは昨日と同じようにソファへと促した。
ソファの上には開いたまま裏返された本。
以前には見られなかったゆったりと落ち着いた笑顔。
アキの大きなトランクを見ると、いつもの様に口の端を片方だけ上げた。
「随分大きな荷物。まるで逃亡者だな? よく五階まで持って来たな」
アキはにっこりと微笑み返したが、それでも口元はちょっとだけ引き攣る。
──性格は変わってないな。
「祖母と父がね、あれも持っていけ、これも持っていけってバンバン渡すものだから」
「愛されてるなあ」
「まあね、久し振りだったし。⋯⋯それより何を読んでいたの?」
ジーンは一瞬の何の事か解らず、眉を顰めた。
アキはトランクを置き、ジーンの傍らに立って本を指差した。
「ああ、これ。カミュの『LE MYTHE DE SISYPHE(シーシュポスの神話)』だ。生と死について書いてある。前にも読んだ事があるけど、あの時とは違った考え方ができるかなって」
「へえ。で、どう? 違いがあった?」
「さあねえ。退屈ってやつはひどく眠気を誘うから、読もうとすると瞼が降りてくるんだよ」
ジーンは辟易しながら言った。
二人はそれから半時程今まで読んだ本について語り合った。
まるでこのまま話し合っていれば、アキが日本に帰らずに済むとでもいったように。
イラストはリメイク前のもの。
ジーンの顔が少しだけ違います。Gペンと墨の華で描かれています。




