20 CULDESAC - 02 -
“CULDESAC ” 袋小路
「京也が⋯⋯? なんで?」
夢の中の血まみれの京也が浮かぶ。
信じられない思いと同時に、何故か腑に落ちる自分がいた。
「交通事故ですって⋯⋯。誰かを庇ったとシズカ(アキの母)が言っていたわ。⋯⋯せめてアキトだけでも帰ってきて欲しいって」
「庇った? 京也が?」
何故?
どうして?
そんな事で?
こんなにあっけなく?
何故?
俺よりも早く?
──俺はお前を超えようとしていたのに‼
アキはジャケットを掴むと、外へ飛び出した。
「キョウヤが死んだ?」
息せき切ってフラットにやって来たアキが最初に発した言葉を、ジーンは繰り返す。
危惧された感染症に侵される事なく、ジーンは五日前に退院した。
今はフラットで療養している。
アキがやって来るまでの間出窓に座り、久しぶりに晴れた空を見ていた。
ゆったりと流れる雲はジーンの心を落ち着かせていた。
もうそろそろアキがやって来る時間。そう思うと自然に笑みが浮かんだ。
ジーンはこの上なく上機嫌だった。
いつもより少し早く訪れたアキは、動揺を隠せずに京也の死を告げた。
「本当なのか? 誰からその話を聞いた?」
「⋯⋯祖母だ。母から電話がかかって来た。⋯⋯だから間違いはない」
ガクガクと震えながら立ち尽くしている。
ジーンはアキの手を引き、ソファへと導いた。
「俺は、死までも京也に先を越されてしまった! ⋯⋯俺はどうすればいいんだ」
アキは両手で顔を覆い、その指の間から涙が零れ落ちた。
ジーンは俯くアキ背中を優しく撫でる。
「なあ。俺さ、サンドラに刺されて、それで倒れる前にアキの事見ただろ? その時、俺こう言ったんだよ。『死にたくない』って」
アキは顔を上げ、ジーンを見る。
ジーンは穏やかに微笑み、続けた。
「死ぬって事は、望みを絶たれるって事だ。それ以上先がない。すべての終わりなんだよ。何もかもやり尽くした奴ら以外にはね。キョウヤがそうだったとは言えないかも知れないが。⋯⋯な?」
ひと呼吸置いてアキを見る。
「⋯⋯俺は死にたくなかった。俺はまだディーを超えてないし、ディーの出来なかった事を成し得てもいない。⋯⋯どう? そうだろう?」
アキは頷く。頬から落ちた涙がジーンの手を濡らす。
「いいか? キョウヤがやってきた事を追うのがすべてじゃないんだよ。死んだからといって、アキのすべき事が限定された訳でもない。アキには他にも、もっとやるべき事がある筈だし、あるべきだ。違うか? ん?」
「⋯⋯」
「それにな、キョウヤが先に死んだのは、別にアキの先を越したんじゃない。⋯⋯俺なんか、とっくの昔にディーに死なれてんだぜ? と言っても心の拠り所をいきなり失った訳だから、俺とはだいぶ立場が違うか⋯⋯。でもな、俺はアキが沈んでるところなんて見たくない」
「ジーン」
「アキはディーの真似事をしてた俺を解放してくれた。俺自身を見付ける手助けもしてくれた。サンドラの事でも色々心配してくれた。⋯⋯俺は感謝してるんだ。だから、さ。俺のために生きて、強くなってくれよ」
ジーンはアキの頭を胸に引き寄せ両手で包み込む。
「⋯⋯いてぇ」
「えっ。平気?」
慌てて頭を離すアキ。
「カッコつかないな。でもいいか。もう泣いてないな」
──そうだ。泣いてなどいられない。
京也が死んだからといって、道が閉ざされたわけではないのだから。
「ああ。⋯⋯ありがとう。ジーン。もう大丈夫だよ」
やっぱり泣き顔のアキ。




