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死の接吻  作者: 麻生あきら
Kiss of Death

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17 PREACHER - 02 -

“PREACHER ” 説教者

「どうでしたか?」


 アレックスはアキの問いに答えられなかった。

 動揺し、口元を押させる右手は微かに震えている。


「あれは⋯⋯、一体何だ?」

「⋯⋯何、とは? あなたには認められませんか?」

「認める? いや、それより何だ? あんな⋯⋯」

 アレックスは言葉が続かない。


「あんな、何です? アレックス、一つだけ言わせて下さい」

 アキはアレックスに真っ向から対峙する。


「ジーンはディーじゃないんです。彼にディーの幻影を求めるのはやめて下さい。彼はそうしたあなたの態度にずっと苦しんでた」

「⋯⋯」

「もう解放してやってください」


 アレックスは驚愕の度合いをさらに深める。

「⋯⋯なんだって? あいつがそんな事を? 俺がしてきたと?」

 アキは無言で頷く。


 アレックスはカウンターに肘をつき両手で顔を覆った。

 苦々しく、やり切れない思いがアキに打ち寄せる。




 エールを一気に煽り、ひりつく喉を抑える。

 瓶越しに『D-FLOWER』のメンバー二人の姿が目に入った。

 何度か顔を合わせているドラムスのヘンリーがアキに手を振り笑う。

 ジーンが一緒にいない事に引っかかりを覚えたが、ヘンリーにつられて破顔(はがん)する。


 ヘンリーはハニーブロンドを揺らし大股で歩み寄る。

 両手でがっしりとアキを抱え込み背中を叩いた。

「アキ、どうだった? 観てたんだろ?」

 ヘンリーは、まだ幼さの残る顔を緩ませた。

 メンバーの中で一番若く、やや四角張った顔にクリクリした垂れ目が可愛らしい。


「もちろん観てたよ。とても良かった。本当に素晴らしかったよ」

「そうだろ? 君のおかげだよ。ジーンが変わったからね」

 興奮冷めやらぬ様子で何度もアキの肩を叩いた。


「ヘンリー、そのジーンだけど、今どこに?」

「ああ、スティーヴと一緒に事務所にいるよ。何か置いてあるとかで。すぐ来るんじゃないかな?」


 アキは胸のあたりがギリ、と(きし)むのを感じた。


「あ、ほら来た。⋯⋯あれ? スティーヴだけだな」

 アキは従業員出入り口に視線を移す。

 どれほど目を凝らしてもジーンの姿が見えない。




 アキの平常心が一気に崩れ落ちる。

 頭の中と胸で鼓動が警告音の様に鳴り響き、恐怖が鎌首をもたげ始めた。

 ヘンリーを押しのけ走り出す。

 アレックスが訝りながら後に続いた。


「スティーヴ、ジーンは、ジーンはどこ!?」

 アキの瞳が大きく開かれ、スティーヴの両腕を掴む手は震えを発している。

 尋常でないアキの様相にスティーヴが飲まれる。


「まだ上にいるぜ。サンドラが来てる。あの女が俺に出てけって言うから」


 ──ああ、なんてことだ。無事に終えたと思ったのに!


「事務所はどこ? どうやって行けばいい!?」

 早鐘のように鳴り響く鼓動は息も出来ぬ程に高まり、ガンガンと頭の中で響く。


「あのドアのすぐ側の階段を登れば⋯⋯」


 アキは全てを聞かぬうちに走り出す。

 人を掻き分け進む。

 無我夢中でドアを開け放った。


「⋯⋯ジーン!」



挿絵(By みてみん)

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