目覚めそして因縁の出会い
目覚めたとたん、咲が飛びついてきた。
抱き止めたかったが体が動かず、咲に押し潰されることになった。
苦しいが気持ちは分かるし、碌に声も出せないのでしばらくそのままにした。戻ってきたんだなと実感した。
咲は元々よく喋る奴だが、今日はいつにも増して隣で話し続けた。
頭がまだぼんやりしていて話があまり頭に入ってこない。
話の中にカヅキという言葉が何度も聞こえて、そうだアイツのためにこんなことになっているのだと思い出した。
多分、大いなる力が毎回魂の深淵で咲に話しかけるのは、魂が同化しないための気遣いでもあるのだろう。
俺はしばらく魂の深淵で放置されたせいで、こっちに魂が戻ってきても、記憶が曖昧で頭が回らない。
もしそこまで計算されていたのだとすると腹が立つ。
しばらくすると昼飯になった。
これはなかなか酷い。今まで咲が流動食に不満を漏らしていたのを諌めていたことを反省した。
口がきけるようになったらリノさんに訴えよう。しばらくこのご飯が続くと思うだけでげんなりする。
昼過ぎにはナミさんたちも様子を見にやってきた。色々言いたいことがあったはずだが声は出ないし、思い出せない。自分の頭と体が動かないのがこんなにもどかしいとは思わなかった。
俺が寝ていた半年の間にカヅキは天界でやっていくことを受け入れたらしい。危険を冒した甲斐があった。それにしても半年も眠っていたのか。
咲の言うように、向こうと天界とでは時の流れはまるで違った。数日のつもりが瞬く間に時が流れてしまった。
咲は二日ほど病院に泊まると家に帰って行った。
寂しいが、自分の仕事をすることは咲にとって大事なことだ。俺もリハビリを頑張ってさっさと退院しよう。
そして何より美味い飯が食いたい。
…何かと飯が気になるのは思考が咲に影響されているのかもしれない。
数日で退院になってすっかり回復したつもりになっていたら、買い物で瓶を握り損ねて落として割ってしまった。細かいところではまだまだ万全ではないらしい。
それでも咲よりもちゃんとした料理はできたし、咲を抱きしめることもできた。
…まあ、何とかなるだろう。
退院した翌日、早速クノーに挨拶に行くことにした。咲は「休んだ方がいい」と心配してくれるが回復したら忙しくて会いに行く時間なんてないに違いない。
ゆっくりと木々の間を歩く。久しぶりの外は気持ちがいい。
いつもは咲だけなのに今日は俺までクノーに抱きしめられた。
髪がボサボサだと咲が笑うがお互い様だ。
咲はどうやらモムラキプラートとやらに呼ばれているらしい。
聞いたことあるが誰だか思い出せない。
とりあえず咲は嫌がっているが、クノーの様子からすると行くべきだと思われた。
しかも俺が元気になったらそいつと会う約束をしているらしい。それなら俺が連れて行かなくてはならないだろう。森の中にいるのだろうから少しハードなリハビリになりそうだ。
咲を無理やり連れて帰る途中でモムラキプラートについて思い出した。樹の館にいたブロッコリーみたいなやつのことだ。よかった。それなら体力に問題はない。
いや、待てよ。
咲はあの時モムラキプラートと話したがっていなかったか?
…半年で寝ている間に何かあったのかもしれない。
てっきり樹の館に向かうのかと思ったら、咲は素通りして北へ行く風通路に乗り込んだ。
どうやら北の森にいるモムラキプラートに会いに行くらしい。そしてそっちのモムラキプラートには会いたくないようだ。
木ってみんな同じじゃないのか?
森には入れないかもしれないと淡い期待をしていたが、今回は水源の泉まで誘われた。何も病み上がりのやつに山登りさせなくてもいいだろう。
ただ水源から先は咲だけで、俺は留守番だ。
ここの水はなんだか格別に美味い。
たくさん飲むなと咲に釘を刺されたが、手持ち無沙汰だったのでもう少しいただくことにする。
美味い。疲れた体に沁みる。
木々の葉擦れの音がさわさわと涼しげに鳴る。
俺は木々が許した時しか声は聞こえない。
しばらくすると咲が茶色い割れた板を抱えて帰ってきた。
…なんだあれは。
この時はまさかこのボロい板が、俺を苦しめた因縁のものだとは思わなかった。
ようやくアンセが目覚めました。第二章スタートです。




