白い世界
俺は咲を連れて話し合いから去った。
クノーに話してスレプデアッドとやらを貰わないといけない。
咲と違って俺は何か他の力がないと気を失うことはない。
「クノーに会いに行こう。大いなる力がカヅキの所に行く今なら誓いを立てられるかもしれない。」
「そうだね!」
咲を騙すようで心苦しいが、咲に誓いを立てて欲しいのも本音だ。
森はあっさりと俺たちをクノーへと導いた。
俺の意思は通じているらしい。
森の中で樹々が咲を祝って唄うと咲も楽しそうに応えている。
その祝いの雰囲気に紛れてクノーにスレプデアッドの準備をお願いする。
誰も魂の深淵に行かないのが一番良いのですが
損な役回りでごめんなさいね
ありがとう
珍しくクノーが気遣いを見せる。
それほどに行かない方が良い場所なのだと、行く前から思い知る。
必ず咲と二人でモオントレーを身につけなさい
スレプデアッドは湯につけて一口飲みなさい
それ以上は危険です
そう言ってスレプデアッドの葉を数枚渡される。
既に用意していたらしい。
深淵ではもがき続けなさい
私が言えるのはそれだけです
咲には恨まれますね
クノーの注意が止まらない。
本当に珍しい。禁忌を犯すと代償を払わなければならないはずだ。
「そんなに俺に親切にして大丈夫ですか。」
彼の力があるべき場所に居ないので
全体を把握できないはずです
クノーは大いなる力をよく思っていないように思えた。俺に親切というよりは、裏をかいてやろうとしているようにも聞こえた。
「咲はあなたにとってどんな存在ですか。」
一度聞いてみたかった質問だった。明らかに咲は特別扱いされている。
今なら答えてくれるかもしれない。
咲はワタシにとっては娘です
本来私たち木は一つ
ワタシだけが特別な感情は持たないはずなのです
特別な子です
クノーに特別と言わせるとは。俺もいつの間にか咲のペースで、死ぬはずが二人の未来を誓おうとしている。
本人にその気はないのにいつの間にか懐に入ってきて人を魅了する。人たらしならぬ、生き物たらしだ。
楽しそうに踊って唄っている咲をしっかりと目に焼き付けるようにじっと見つめる。
次また会えるのは一年後か。もっと後か。
俺の視線に気づいたのか咲がやってきて「もう一度誓いを立てよう」と言う。
さっきのクノーの話からすると大いなる力はまだここにいる。
…誓いは立てられないだろう。
でも、咲の誓いの言葉を最後にもう一度聞きたくて提案にのる。クノーもそれを止めることはしない。
案の定、誓いは立てられなかったが咲の想いを聞けて良かった。俺も咲と同じ気持ちだ。
夜飯を咲と共に摂ると、咲を家に帰した。
公に咲に誓ったし一緒に最後の夜を過ごしたかったが、俺がこれからスレプデアッドを飲むのに咲がいるとやりにくい。
咲は一度スレプデアッドを飲んでいるから匂いでバレてしまうだろうし、気づかなかったとしても翌朝俺が隣で目覚めなかったら傷つくに違いない。
クノーの言ったように一口だけスレプデアッドの湯を飲むとベッドに横たわった。
モオントレーの実を忘れずにポケットに入れた。手に握りしめても、寝ている間に落とさないとも限らない。
どれくらい経ったのか分からないが、目覚めると咲が言っていた白い世界が広がっていた。
多分ここが魂の深淵なのだろう。
白いだけでとにかく何もなかった。
自分の体は見えずただ意識だけがあった。
咲の話だと一言二言話すと、天界の数日だと言っていた。ここでは一年というのもあっという間なのだろうか。
それにしても何もないというのは苦痛だった。
せめて大いなる力とやり合えれば良かったがアイツは話しかけてこない。
段々と意識がぼんやりとしてくる。
何しに来ていたのか…
ふと、クノーが深淵では抗えと言っていたのを思い出した。
「このやろう、何か言えよ!」
体がないので罵倒し続けてみるが、声が出るわけではない。
罵倒していると少しずつ頭がはっきりしてきた。
抗えとは大いなる力に反抗しろということではなく、自分の意思が同化されないように抗えという意味だったのだろう。
このままだと飲み込まれそうだったのでとにかく大いなる力を罵った。
『うるさい。平穏な世界を乱すな。』
しばらく叫んでいると反応があった。
よし、捕まえた。俺だって好きでここにいるわけじゃない。戻れるものならすぐにでも戻りたいのだ。
どこに戻るんだっけ?
記憶が曖昧だ。
「うるさいなら俺を早く追い出せよ。」
でも出なくてはならないと本能が言う。
殴るイメージで、無い手を振りかざしているとなんとなく体の感覚が戻ってくる。
『誓いさえなければ…あと少しだったのに。私と一つになるがいい。』
一つになる?
魂を守るモノなのではなかったのか。
このままではまずい。体に戻れるように、何もない空間で殴ったり蹴ったり罵ったり暴れ続けていると突然体と繋がっている感じがした。
もう少しだ、そう思った瞬間肩を叩かれた。
誰だっけ?とても大切な…
咲…?
そうだ、俺の愛しい咲。もう一度会うためになんとしても戻らなくてはいけない。
何度も名前を呼ぶ
咲!咲!咲!
気がつくと目の前に心配そうに俺の顔を覗く咲の顔があった。




