70. 思いの交錯する誓いの儀式
誓いができないのではないかと懸念していたが、俺たちの誓いの儀式は何事もなくあっさりと終わった。
今日は大いなる力に誓うと同時に、光が立ち昇った。特に咲の誓いの時、光が眩しくて目を開けていられないほどだった。
そして咲の言霊を聞いて、またしてもナミさんにいいように丸め込まれていたのだと気がついた。
咲の口にした言霊は樹の代理ではなかった。
「樹」としての誓いを立てさせられていた。
俺がもっとちゃんと確認してやるべきだったが、もう遅い。
まあ、少しでも樹として役目を果たせば誓いを破ったことにはならないはずだから大丈夫だろう…
ん?
…大いなる力の求める『樹』の役目ってなんなんだ?
…念の為ナミさんに確認しておこう。
何より咲の衣装はウエディングドレスのような白いドレスで、着飾った姿は言葉にできないほど美しかった。
このお披露目と同時に公に誓いを立てられたことに感謝するしかない。
今日の咲を見て興味を持つ奴が出てきてもおかしくない。
咲に樹になった祝いを言いに来た輩を牽制しながら、祝福を受け取った。
問題はカヅキの方だった。
本来はアイツが主役だったはずなのだ。
樹としての誓いをカヅキの方が立てるべきだった。
…ナミさんはこの事態を見越して、咲に『樹』としての言霊を教えたのだろう。
全く…油断ならない。
カヅキは結局儀式には来なかった。
しかもナミさんは群衆へ何の説明もなしに俺たちにこの場を委ねてさっさと帰っていった。
俺たちはカヅキが来るかどうかは聞いていなかったと、周りに伝え事態を収拾しようとした。
みんな高揚していて、細かいことに気が回らないのか質問が減っていった。
「今日は俺たちのお披露目だからな。」
ダメ押しでそう言い切るとその場にいた奴らは安心したのかそれ以上カヅキへの関心はなくなった。
慣れない笑顔に疲れて樹の館に戻ると他の天界の奴らが帰るところだった。
咲は今日のために戻ってきたレイに手に持っていた布の花束をレイに渡す。
レイは受け取ると咲を抱きしめる。
結婚を誓ってすぐの花嫁を抱きしめるとは喧嘩を売っているのか。
グナヤンムーやエーハルーンが口々に誓いの光の多さについて賛美を贈ると、ハルがポロリと呟いた。
「主天界では誓いが立てられないということはないのですね。」
ん?
確か西天界でも立てられないことがあったはずだ。そしてここ主天界も例外ではない。
少しだけ、大いなる力からの俺への嫌がらせかと邪推したのが間違っていた。
大いなる力に何か起きているのか?
ナミさんは、急遽全員に主天界に残って欲しいと言った。
全員帰り支度をやめて席に戻るとハルが興味深いことを言い始めた。
1日の中で誓いを立てられる時間と、そうではない時間があったと言う。
今日はちょうど良い時間で昨日はダメな時間だったのか?どちらも昼間だったはずだ。
あとは咲が昏睡していた時期は昼間も問題なく誓いを立てられたと言う。でも今日咲は起きているが誓いは立てられた。
条件は一つではないのか。
色々な情報をまとめると、時間帯、咲の昏睡、俺の体調、カヅキの赤ちゃん返りが関係していそうだったがいまいちつながりが見えない。
話が行き詰まったところでナミさんが花の形のおはぎを出した。まるで花束ようだと咲は大興奮だった。
ナミさんの時代はお祝い事の時はおはぎを食べたのだと聞いて改めてナミさんの時間の長さを思った。
お腹がいっぱいになって、この後の話をしていると宿泊するのに館に部屋が足りないことが分かった。
すると咲はツグノを自分の家に泊めると言い出した。
「咲がうちに泊まればいいだけだろ。」
「え、折角ツグノさんが居るのに勿体無い。一緒にうちに泊まる。」
俺を気遣ったツグノは断るが咲は一向に気にしない。
レイがニヤニヤしながら自分も一緒に泊まると言い出した。レイのやつ、咲がツグノの泊まりを譲らないと悟ったのだろう。
俺も咲が楽しそうにしていたので押し切れなかった。
咲と二人で食べるはずだった夕飯を俺のうちで四人で食べると、女性三人を咲の家に送った。
全く…ナミさんも余計なことをしてくれた。
何も今日誓いの謎を解かなくても良いじゃないか。
誓いなんてそうしょっちゅう立てるものでもないし、全く立てられない訳でもないのだから大勢に影響はないはずだ。
一人で酒を飲みながら新婚初夜を終えた。
…いや、正確にはまだ婚姻は成立してない。
咲は俺に結婚の誓いを立てていないからだ。咲は樹の誓いしか立てていない。
色々おかしい…
こんなはずではなかった…
まさかの新婚未遂…
それにようやく気付いたアンセ。もちろん咲は気づいてない…




