71. カヅキに潜む正体
翌朝、橙の時間になっても咲たちが朝飯に来ないので咲の家に迎えに行った。
家に鍵が掛かっていたのでドンドンと強くノックをすると、しばらくして中から物音がして寝起きの咲が顔を出した。
…やっぱり今まで寝ていたか。
しばらくすると支度を終えた三人がそろって朝飯を食べにうちに来た。それから休む間もなく樹の館に向かう。
館には当然、全員揃っていた。一言言われるかと思ったら、ナミさんはニコニコして俺たちを迎え入れた。
どうやら他天界間のつながりが深まっているのが嬉しいようだ。完全に母親目線だ。
俺は新婚初日を奪われたわけだが、周りはもちろん、咲もまるで気にしていない。
もやもやしていると、ハルは昨晩大いなる力のことを真剣に考えていたようでその仮説を披露した。
それを聞いて、少しだけ自分勝手さを反省した。
いや、咲と二人だったら大いなる力について語り明かしたに違いない…
「昨日色々考えたんです。咲さんの仮説が正しいとすると、我々の魂は今も大いなる力と繋がっているのではないでしょうか。特に我々樹は天界に来るときに大いなる力から知恵を授かります。だから繋がりが生粋の天界人より強いのかもしれない。カヅキは大いなる力から知恵をもらった際に、地上の意識を保つには若過ぎて記憶や自我が混濁しているのではないでしょうか。」
話が飛躍していると言うには、筋が通っていた。
でもそれと誓いが立てられない理由と関係があるんだろうか…
もし…
何度か思いついては打ち消してきた仮説が頭をよぎる。
いやいや、そんなの有り得ないだろう…
ナミさんは、ハルの言葉を反芻しながら考え込んだ。
「最近子供らしくなってきたのは、本来の自我を取り戻しつつあるからと考えるとそれなりにカヅキの豹変は説明がつくと思うのです。」
ハルが最後に付け加えた。
それはつまり…
口に出しかけるとナミさんが先に話し始めた。
「…もう一歩考えると大いなる力が積極的にカヅキに影響を与えているかもしれません。」
ナミさんは多分俺と同じことを言おうとしている。
「大人びているカヅキの時は、大いなる力がカヅキの意識を占領しているのでしょう。そして大いなる力が本来あるべき場所に存在していないので天界で誓いを立てられない。でもカヅキが眠ると大いなる力が元に戻り、誓いを立てられるようになる…そんな気がします。」
やはり俺と同じことを思ったようだ。
俺はそもそも自分の体調と結びつけて考えていた。まさにカヅキが起きている時間だけ俺も体調が悪くなるからだ。
それにメタセキュオイアが俺に干渉しているモノがあると言っていた。ここ天界で魂に干渉できるものなんて、大いなる力以外に考えられない。
もし俺もこの件に巻き込まれているとしたら、一体何のために巻き込まれているんだ…
…嫉妬なんてことはないよな。
確か前にナミさんが「大いなる力は咲を気に入っているからちゃんと咲を守れ」と言っていた。
正直、咲が昏睡状態にならないように咲の心を守ればいいのだと思っていたが、見当違いだったのか。
ナミさんを見ると、その視線は俺の後ろに向けられていた。
突然、背後からカヅキの声がした。
「流石だ樹の魂よ。本質を突いている。」
振り返るとカヅキが咲に抱きついていた。
でも無邪気な子供ではなく、大人が愛おしい人を抱きしめているような執着を含んでいるように見えた。
咲も恐怖で顔が強張っている。
あれは確かにカヅキの体だ。
でもカヅキではない…直感的にそう思った。
咲からカヅキを引き剥がそうとしたが、金縛りにあったように体が動かない。
「私は今までずっと全ての魂を見守って来た。その中で何度となくこの魂には干渉してきたが今回が一番当初の面影が色濃く出ていて私のモノにしたい。」
みんな、分かっていた。
目の前にいるのが誰なのか。
でも言葉にできなかった…
ありえないことだからだ。
するとカヅキの体を借りているやつが名乗った。
「私は、お前達が大いなる力と呼んでいるモノだ。」
ラスボス登場です…笑
まさかの告白にみんな疑心暗鬼。




