69.求婚
儀式の前日、俺は咲を森に誘った。
公衆の面前で求婚する前にちゃんと咲に求婚しておきたかった。
求婚は初めてではない…
咲以外の女性に地上でしたことがある。
こんなにも緊張するなんて…
あの時の自分の覚悟との違いに当時の彼女に申し訳なさを覚える。
「クノーただいま!」
そう言ってクノーに抱きつく咲を見てここを求婚の場所に選んで良かったと思った。
クノーは咲に言葉をかけると、俺に咲を救ったお礼を言った。
結局俺は何もしていない。
西天界で偶然会った隣人が奇跡的に咲を見つけ出し連れて来てくれたのだ。モオントレーの導きとも言えるかもしれない。
クノーは俺に言いたいことがあるのだろうと、これからの舞台を用意してくれる。
少しはクノーから信頼を得られたのだろうか。
樹々は「一つの生命体」だと咲は言う。
だからどこで何を言ってもクノーに筒抜けなのは分かっていた。でも俺は咲がクノーを母のように慕っているクノーの前で誓いを立てたかった。
俺は咲を正面から見つめると跪いた。
「私は咲とこれからずっと共に生きていく事を誓う。咲は闇の中にいた私の心を救い、光となり生きる希望をくれた。その光は今もこれからも私を照らす道標となり力の源として私を支える礎になることを確信している。咲の他人を思う気持ち、正しいと信じる道をずっと隣で守ってくことを約束する。私の愛しい咲に今ここで大いなる力にその想いの誓いを立てたいと思う。」
咲は顔を赤らめて俺を見つめた。
「ありがとう。私も同じ気持ちです。いつも向こう見ずに突き進む私を見守り、長く眠っていた間も信じてずっと側で待っていてくれたから私の魂は此処に戻って来れました。今の私はアンセが居なければなかったと確信しています。これから先も変わらず私を導いて下さい。愛する貴方と共に生きる事を望みます。」
俺は言霊を唱えた。
スイアールウィラ 火アンセ トルエロベ 水咲
光が…光の柱が立つはずだった。
でも何も起こらない。
言霊が違うのか?
まさか俺の思いがまだ足りないというのか?
咲も言霊を唱える。
間違えないかヒヤヒヤしたが、ちゃんと唱えられた。
スイアールウィラ 水咲 トルエロベ 火アンセ
やはり何も起きない。
何度かやり直しても何もなかった。
胸騒ぎがする。
大丈夫です
これから何があったとしても
二人の気持ちは私達が証人です
クノーはこうなることをまるで知っていたかのように、俺たちの誓いの証人になると言った。
この言葉を皮切りに、樹々が唄を唄い始めた。
咲は目に涙を浮かべている。
俺は嬉しさと安堵で気が緩んで、一瞬立ちくらむ。
咲にはそれが体調不良に映ったようだった。
お祭り気分はすぐに終わり、クノーはメタセキュオイアに会いにいくようにとすぐさま道を作ってくれる。西天界にしか居ないと思っていたが、ここ主天界にもメタセキュオイアは居たらしい。
西天界のメタセキュオイアの弟妹だと言う、巨木のうろのネバネバに俺は頭を思いっきり突っ込んだ。
あの辛さを知っているだけに、考えていたら飛び込めない。
こんなに長かったか…?
もう意識が…
想像していたよりも長いこと漬け込まれて本当に窒息するのではないか、と思ったところで解放された。
感覚は正しかったようだ。
前よりも強力に護りをかけてくれたらしい。
家に着く頃にはネバネバが消え、護りが効き始めるとさっきまで大丈夫だと思っていたが、実はだいぶ疲れていたのだと実感した。
咲と別れて俺は明日のことを考える。
明日、誓いを立てても光らない可能性があるだろう。
ナミさんに俺の懸念について一報を入れておく。
それからふと、西天界で誓いを立てられないことがあったことを思い出す。
今日もそれと同じ理由なのか。
やはりこれは言霊のせいでも、場所のせいでもない…とすると一体何が起きている?
俺たちではどうにもならない力が働いているのだと思わざるを得ない。
ナミさんは、誓いを立てられると思って明日の儀式を予定したはずだ。つまりナミさんもこの事象の根幹を把握していないことになる。
翌日、儀式のために樹の館に向かう。
咲は緊張しているようだが、俺は緊張よりも不安の方が強い。
樹の館に着くと先日あった他天界の面々が揃っていた。
咲はそれだけで気持ちが落ち着いたようで顔つきが穏やかになる。この前南天界に行ってみんなに出会って良かった。
もう儀式はなるようにしかならない。
後始末はナミさんに任せよう。そのために昨日一報を入れたのだ。
覚悟を決めて儀式に向かおうと踏み出す。
するとカヅキが突然泣き出した。
さっきまで大人しくみんなと前祝いに参加していたのに、どうしたんだ?
ナミさんはカヅキを、一瞥すると迷わず前に進む。
カヅキをトビーに委ね「皆を待たせているので行きましょう」と俺と咲を群衆に向かって促すと樹として歩き出した。
ついに求婚!
なのにまたしても邪魔が入ります。




