68. 樹の仕事の役割分担
「ご存知だと思いますが、そろそろいつ樹を引き継いでも良いように咲、カヅキ、アンセ、それぞれ樹の職務への誓いを立ててもらいます。アンセは結婚の誓いになるのでそのつもりでいて下さいね。その前でも後でも個人的に誓いを立てたい場合は自由にして下さい。咲とアンセは正装を仕立てましょうね。カヅキの分は私で受け持ちます。」
翌日ナミさんに会いに行くと、誓いの話になった。
「そろそろしなくちゃな」と昨日咲と話していたのだが、ナミさんから言われると現実味が増す。
誓いの言葉を集中して考える時間を捻り出さないと十日後には行うと言っている。
衣装の用意もしなくてはならない。
しかも、他の天界の奴らも誓いの儀式に呼ぶらしい。
なんだってこんなにぽんぽんと物事を決めるのか。
ナミさんが天界に祝福されていればいるほど、結婚する相手に愛されていればいるほど、誓いの光は強いのだと余計なことを言ったので、「ナミさんの時はどれくらい誓いの儀式で光ったのか」と咲は祝福の光の強さを気にしている。
天界からの祝福…咲は樹々に誰よりも愛されているから心配ない。とすると、俺の愛を疑われているのか?
「咲は俺の気持ちが信じられないのか?それとも俺のことをそんなに思っていないのか。」
「そういうことじゃなくて。」
じゃあどういうことなんだと聞きたいが、言葉を飲み込む。
これ以上ここで痴話喧嘩をしてもナミさんに煙たがられるだけだ。
儀式の予定日は、そのまますぐに住民へと連絡された。
もう後には引き返せない。
それがナミさんの狙いなのだろう。
外堀は完全に埋められてた。相変わらずの手際の良さだ。
後日衣装をあつらえに店に行った帰り、ナミさんのところに寄った。
「あら、一人?落ち着いているようですし、咲は迷子じゃなさそうね。」
「そんなに頻繁に咲が迷子になったら俺の心がもたないですよ。」
「では何かしら。誓いの言葉ならトビーに聞くといいわ。」
「咲への誓いの言葉は自分で考えますよ。そうじゃなくて、俺の体調のことで耳に入れたいことがあって。」
「頭がぼーっとして、メタセキュオイアに助けてもらった、それ以外にあるのですか。」
全く…この人は俺を馬鹿にしている。
情報を渡そうと思ったことを後悔した。
「はあ…メタセキュオイアが言っていたんです。何かが俺に干渉していると。彼がその干渉から護ってくれると。それってなんだと思いますか。」
ナミさんをじっと見つめる。
さっきまでからかい口調だったナミさんの目が真剣になる。
「干渉…護る…」
ナミさんは目をつぶって考え始めた。
「それで…もうアンセは大丈夫なのですか。」
「いや、それがその護りが最近薄れてきているような気がします。護りを貰ったのはもう一カ月以上前なので。」
「そう…」
ナミさんは思い当たることがあるように見える。
「何か知っているんでしょう?教えてくださいよ。俺も巻き込まれているんだ。」
「…確証がないのに口にはできないわ。アンセ、覚えておきなさい。樹の言葉は時として人の心を縛るのよ。言った本人にそのつもりはなくてもね。」
「俺は樹じゃないですよ。」
「咲に政治的なことや、危機管理とか向いていないでしょう。必然的に樹の実務はあなたの仕事になると思います。だから、私はあなたにはそういうことを引き継ごうと思っています。」
「俺が樹の実務を担うとして、咲は何するんです?」
「樹々からの恵みを受け取ったり、シャドー浄化したり、咲しかできないことをして貰えばいいわ。」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。それじゃ…本質的な樹の職務は俺じゃないですか。」
「さっきも言ったでしょう。今更、何を言っているの?てっきりアンセは樹の役割を果たしたいのかと思っていたわ。樹をやりたくないと逃げ回っていた咲を説得したのはあなたでしょう。」
いやいやいや…
話が違う。
もちろん、咲を助けるつもりではいた。
でも俺が先頭切って主天界を導くなんて思ってもいなかった。
「無理なら二人の中で役割を決めたらいいわ。私は勝手に適性から判断しただけだから、今のは命令でもなんでもないのよ。忘れてちょうだい。」
「忘れろって言われても…」
「ね?樹の言葉は時として人の心を縛るのよ。分かった?」
はあ…
最初の話からここまで計算されていたのだとすると、ナミさんにはしてやられた。
確かに「樹」の言葉には重みがある。
ただの提案や仮説も正しいように、あるいは命令に聞こえることもある。
これから咲と二人で樹の中継ぎとしてやっていくにあたっては内容もそうだが、誰が言うのかも考えて対応しないとならないな。
俺はすっかりナミさんの術中にまんまとハマってしまった。こうやって俺が考え、動くこともナミさんの思惑通りなのだろう。




