65. 岩山補強会議
正直、一から建物を設計をしたことはあるが、ボロ屋を建て直すような設計をしたことはなかった。
脆弱な箇所は分かるが、まだ知らない異素材でどこまで耐性を持たせることが出来るのか。
命がかかっているので適当なことは言えない。
「一番下の工房内に支柱を立てることで全体を狭くするのを避けましょう。異素材を組み合わせるのは一枚岩の強さと比べると弱くなりますから岩山の上の方から削って素材を得るのが良いと思います。どう思いますか。」
考えているとダターンが提案する。
「異素材に関しては俺も不安に思っていた。ここに設計できる奴は居ないのか?何度もやり直すよりしっかり作り込むのがいいだろう。」
「ここは岩山に穴を掘ったり、家も平屋なのでそんなにしっかり設計するようなことはないんです。もちろん、闇雲に建てるわけではなく基本設計はありますが、主天界ほど色々あるわけではありません。」
確かに俺の仕事も風通路以外は、二階建ての店舗がメインだった。主天界は人が多いから縦に需要があるが、ここはまだそうでもないのだろう。
「素材はさておき、補強が必要なのはここと、ここと…」
指を刺しながら指摘する。
「岩から掘削すると足りなくなるかもしれないですね。」
「そうだな。何軒か家潰して素材取るしかないんじゃないか。」
「いや…」
「任せるよ。計画を立てたら、あとどうするかはお前たちの判断だからな。」
俺は同じ素材で作る前提で設計を書き始めた。
数日かけて設計を終えるとエーハルーンに渡した。
やることはやった。
必要があれば向こうから声をかけてくるだろう。
何日か咲と二人の穏やかな時間を過ごした。
前と同じように顔を拭いたり、体の向きを変えたり少しずつ咲の顔が穏やかになっていった。
夕方になるとレイが顔を出して時々夕飯を共に取った。
平和そのものだった。咲が眠っている以外は。
知らせがないのはいいことなのだろうが、あまりにもエーハルーンから連絡がないので十日ほどして樹の館を訪ねてみることにした。
「よう。どうなっている?」
「こんにちは。アンセさん。今まだお祭りの名残で忙しそうなのでもう少ししたら話を始めようかな…」
「おい!聞いていたのか?かなり危ないんだぞ?」
「ですが…」
「何がそんなに危機感を鈍らせるんだ?」
「今まで何百年も大丈夫でしたし、今急にってこともないかと…」
今岩山は、微妙なバランスで成り立っているんだと理解したのではなかったのか?
「ダターンを呼べ。それから洞窟に工房を持っている責任者全員だ。」
「いや…」
「いくら体は魂の器とはいえ、岩に潰されたら痛いぞ。体が壊滅的でも死ねないんだからな。」
はあ…エーハルーンは曖昧な返事をするとダターンと工房の奴らに連絡し始めた。
ダターンはすぐにやってきて、俺をみるなり納得したような顔をしていた。
工房の奴らは何事かとざわざわしていたが、俺が岩山の状況を説明すると、呼ばれた意味を理解したようだった。
この前のミルディステールのやつも来ていて、俺を見つけると驚いた顔をしつつ耳を傾けていた。
「で、俺たちにどうしろってんだ?岩山が危ないのは分かっていたから、今回の祭りがあったんだろう?」
職人たちの方がよっぽど現状を理解している。
俺は岩山の模型を見せた。
「思っていたより危ねぇな」「うちの工房は今崩れてもおかしくないな」それぞれ真剣な眼差しで話している。
「で、何が必要なんです?」
職人たちが俺に答えを求める。
「この通りに補強したい。同じ岩山の素材を使って。」
俺はやり方を職人に委ねることにした。エーハルーンに聞いても埒が明かない。
「同じ素材ねえ。旦那、それは無理ですわ。ここの家の殆どを壊さないと足りない。でも、言っているように新しい素材との組み合わせもまだ分からんしな…」
こんな時、咲なら思いもしない発想をくれるのだが、今はいない。
「新しい素材を使って、これより多めに支柱を作るしかないと思うが、どうだ?」
ミルディステールの工房長が言うと周りも「それしかないか」「考えている時間が惜しいよな」と俺と同じ温度感で話が進む。
自分たちの工房のどこから邪魔にならず支柱を立てられるかをそれぞれ模型を見ながら検討して設計図に書き込んでいく。
専門のやつがいないなんて、エーハルーンは連中を見くびり過ぎだ。
あっという間に一番下の工房の設計が終わる。
それから上の段の話へと進み、これからの掘削作業の計画も話し合われる。
出来上がった設計図を見ても特に問題はない。俺の出る幕はなさそうだ。
さっさとこいつらを呼べばよかった。
いつの間にかダターンも話に混じって明日にも取り掛かる算段を立てている。
お膳立てが終わったし帰るか。
昼が近いのでそっと出ようとするとミルディステールの工房長に捕まった。
「旦那、ちょっと待て。黙って帰るのか。一緒に飯食おう。ようやく樹ともこの話ができた。ありがとよ。」
他の奴らも、そうだそうだと乗ってきて面倒なことになった。
「エンカントを使ってください。」
エーハルーンが言うと「樹の奢りだとよ!」とみんなが沸く。
エーハルーンはそのつもりがあったのかは知らないが、俺の財布じゃないから気にしない。
なぜか、むさ苦しい連中と昼飯を食いに館を出ることになった。
設計したらあとは大丈夫かと思ったら、何も進んでいなくて憤るアンセ。
その気はないのに、既に職人と馴染んでいます。




