63. 再びの眠り
咲と二人で一段上に登る。
北側を見ると外からの光が見える。
良かった。思ったよりすぐに出られそうだ。
咲が一歩踏み出した時、カラカラと音がした。
危ない!
咄嗟に咲の手を引く。
次の瞬間にゴゴゴと音を立てて、目の前に大きな穴が開いた。下に落ちた岩から土煙が舞い上がる。
咲を抱き寄せる手に力が入る。
危うく咲が落ちるところだった。
「この段は脆いのかもしれない。もう一つ上がろう。」
「え、あっちに外が見えているのに…」
「大丈夫。引き返して上に上がろう。」
咲は二度目の崩落に明らかに動揺している。
早く出口を探そう。
上を見上げてため息を吐く。
俺の責任感のせいで咲を巻き込んでしまった。
一段上がれるところを探していると咲の息が荒くなってくる。
疲れたのかと思ったら様子がおかしい。
「咲どうした?苦しいのか。」
「アンセ、火を消して、酸素が無くなっちゃう。」
「こんな小さな炎は問題ない。この洞窟も広くて外と繋がっているから大丈夫だ。さっきも外が見えただろう。酸欠になんてならない。」
閉じ込められて炎で酸素がなくなると心配していたようだ。
呼吸ができなくなるという恐怖からだろう、咲が過呼吸になって、はあはあと肩を上下させて息をし始めた。
「咲、大丈夫だから!信じろ!」
こくこくと首を振るが体の反応は止まらない。
「ゆっくり呼吸をしろ!」
咲が呼吸を落ち着かせようと頑張っているのは分かるがうまくいかない。咲はやがて返事をしなくなってその場に倒れ込んだ。
「咲!!!!」
俺の声が岩に反響する。
窒息する恐怖から自分を守るために、体が反射的に意識を落としたのだろう。皮肉なことに意識が落ちたら呼吸が落ち着いた。
俺は咲を担いでもう一段上がる。
上の段と外と繋がる穴が開いていた。
あと少しだったのに。くそ!
外に出ると青の時間を過ぎ、空は薄暗くなり始めていた。
「咲さん!アンセさん!無事で良かったです。」
エーハルーンが駆け寄ってくる。
無事なものか。咲がまた意識を失った。
つい先日意識を失ったばかりなんだ、今回はどれくらい目覚めるのに時間がかかるか…
また一年なんて…
想像しただけで絶望する。
「帰る。」
「え?」
「今すぐに主天界に帰る。」
「え、いや、今出ても主天界に着いたら藍の時間過ぎます。」
「…明日朝一で帰る。」
困ったエーハルーンがレイを見る。
「アンセ、気持ちは分かるけど咲は安静にした方がいいんじゃない?必要ならリノさんに来てもらうとか。」
「そうですね!ナミさんに連絡して主治医を呼んで頂くのが一番いいかと思います。すぐに連絡します!」
俺の答えを待たずにエーハルーンはザケールの作った風に乗って樹の館に向かった。
「いや、俺は帰る。」
「アンセはそうしたいかもしれないけど、咲はきっと気になってまた戻って来るよ。だったら、目覚めてすぐに帰れるようにこの問題を片付けて待っている方が咲は嬉しいと思うけど。」
…それはある。
この件に対して何もできなくても、咲は最後まで見届けたいと願うだろう。
「とりあえず家に戻る。」
「あの…良かったら病院に…西天界にも療法士はいるので主天界から主治医に来ていただくまで担当させていただきます。」
ミワンタがおずおずと提案する。
確かに…
俺はこの状態の咲に何もできない。
「病院に頼む。」
「分かりました!」
ザケールは特大の風の球体を作ると咲を横たわらせて俺とレイが乗る。
西天界の奴らは別の風に乗って俺たちを先導する。
病院に着くと既に連絡がいっていたのか、咲一人分の部屋の準備が整っていた。
「俺の寝る場所は?」
「…?えっと、北に住まいがあったかと思いますが…」
「これから咲が目覚めるまではここに泊まる。」
「えっと…」
ミワンタが困ってレイを見る。
いちいちレイに助けを求めるんじゃない。
「アンセ、今日はともかく明日からは家に戻りなよ。未婚の男女が一緒に居るって非常識なの。分かるでしょう。」
「離れている間に、また咲が誘拐されたらどうするんだ。」
「みんなが絶対守ってくれるよ。ねえ?」
レイが西天界の面々に顔を向ける。
みんな固まって動かない。
「ん?あれ?守れないの?」
レイが驚いて西天界の奴らの顔を見るが、互いに顔を見合わせて誰も口を開かない。
沈黙を破ったのはザケールだった。
「全力で守ります。でも絶対とは言い切れません。」
「お話を聞く限り、一日などではなくもっと長い時間眠ることを想定されているように聞こえます。西天界ではそのような人を看護したことがありません。もし体調が急変した時にうまく処置ができなかった場合、謝罪しかできません。」
ザケールの言葉を引き取るように療法士が答えた。
「その時にアンセさんがいてくれると我々も安心です。」
「ふん。じゃあ、やっぱり俺が病院に泊まるってことだな。」
思ってもいない角度からの援護射撃で、俺は咲の側にいられることになった。




