62. 大岩の危機
翌日、樹の館に向かう。
昨日のダターンの話の続きを聞かないことには帰れない。
咲が話を聞けるようにエーハルーンに話を付けてきた。
樹の館に行くとエーハルーンは敢えて他の兄弟には俺たちの訪問を内緒にしていたようで、あまり歓迎されなかった。
俺たちは祭りで認められた新しい素材を狙う輩と勘違いされている。
エーハルーンがレイを探しに主天界から来たと伝えると、ダターンではなく次兄のザケールが長女のナエティアに責められている。
「え、ちょっと待って。そんなことをしたの?ザケール。いつも色々やらかしているから、いつかとんでもないことになると思っていたけど、まさかお隣の天界に迷惑かけるなんて。」
酷く呆れた様子でナエティアがザケールを見る。
真っ先に濡れ衣を着せられているところ見るとザケールは普段から問題児なのだろう。
ザケールは「今回はダターンだ」と言うが信じてもらえない。
ダターンが自白してもナエティアは信じられないのか「ザケールを庇わなくていい」とまで言う。
一連のやり取りを見ても今回のダターンの行動は弟妹から見てダターンらしくないものだったと分かった。
ダターンの今回の行動の理由は、西天界の要である大岩の状態にあった。
昔、宝石を採掘した穴が大岩に空いていて、岩が脆くなっていると言う。宝石はどこにあるか分からないので、探した跡がそこかしこにあるらしい。
このままだといつ崩れ落ちてもおかしくない状況だとダターンは言った。
調査をもとに作ったという模型を見せてもらったが、大岩は辛うじてバランスを保っているのが分かった。
よくこれで放置できるな…
この一大事を住民には内緒にしているので、専門家の見解ももらっていないらしい。
エーハルーンは何を考えているんだ。
エーハルーンは、俺の視線に気がついて歯切れが悪そうに説明する。
なんとかする手段がないのに無駄に住民を脅かしても、行き場もない。ただパニックになるだけだから、解決策が見つかるまでは公表しないことにしているらしい。
今回の新素材が使えないかと思っているが、昨日決まったばかりでどう使うのかは未定だと言う。
上に立つ者の考えることの正義は知らんが、これはまずい。
一刻も早く帰りたかったのに…
ダターンと一緒に現場を見に行くことにした。
「それで、大岩とレイの誘拐とどう関係しているんだ。」
大岩の状態に驚いて、レイの件が曖昧になっていた。
「それが…シツアンルが腕のいいレイさんを育てようと好意でレイさんを西天界に呼びよせたので…その…予定外で…私も驚いて…とりあえず学校に行けるように整えたのですが…まさかエーハルーンの友人の咲さんの友達だと思っていなくて…」
「友達じゃなかったら誰にも言わずにここに置いておくつもりだったのか。」
「…いや、その…そういうことではなく…」
そう言うことだったのだろう。
やっぱり俺はダターンを信じられない。
「大体、なんでシツアンルは主天界に居たんだ?」
「…もう本当に情けない話ではありますがレンからミレニオの話を聞いて…大岩をどうにかできないかと…」
「本当にそれだけか?」
「それだけ…です…」
「ふん、腹が決まったら話せ。」
ダターンは目を大きく開いて俺を見ると口をつぐんだ。
予定外のレイの登場に冷静な判断ができない奴だが、そんな理由でミレニオを欲するような奴には見えなかった。
「咲!行くぞ!」
ダターンと話して待っていたが、一向にやってこないので二階に向かって声を掛ける。
咲は「これから街を見て回るつもりだったのに」と不貞腐れている。
西天界にいる間は咲を置いて行くなんて絶対にない。
レイも「折角だから大岩を見たい」と同行することになった。
ザケールがトビーの作る風の球のようなものを作ると、みんなで乗って大岩に向かう。
これだけの人数を難なく運べるところを見ると、問題児とは言え、そこそこの風使いなのだろう。
大岩に着くと、早速穴に入ってあちこちを叩いて岩の薄さを測る。
今にも落ちそうな薄い場所が何箇所もあって声を掛けて進む。想定していたよりもかなり危うい。
歩いているとピチャっと水がはねた。
水が入り込んでいるということは岩自身が脆くなっている証でもある。
思っていたよりもずっと状況が良くない。
一度岩から出て今見たところの模型を見直すことにした。
暗いところから外に出ると、黄色の時間を少し過ぎた空は眩しかった。
一瞬目を細める。
エーハルーンはナミさんと同じように「奥の部屋を」と言うと、レストランに入るために並んでいる列を無視して、特別室に案内してくれる。こういう時、便利なシステムだ。
昼を食べながらダターンと一緒に模型を指しながら、どこが違っていたのかを指摘していく。ナエティアは器用に模型を直していく。
チラリと咲を見るとレイと一緒にザケールから観光プランを聞いて楽しそうだ。
咲は今度こそみんなで観光に行けると思っていたらしく、店を出てからご機嫌斜めだ。
俺だって本当はこんな危ない岩山に連れて行きたくない。でも咲を委ねられる奴はここにはいない。
正直、観光どころかすぐにでも帰りたい…
帰りたいが乗りかかった船だ、何もしないまま後で崩れたら後味が悪い。今日中に岩の状況だけさっさと確認して設計は任せよう。
しかし、ことを急いだせいで俺は後悔することになる。
あと少しで調査が終わるというところで、ズドンという音を立てて上の段の岩が崩れた。思わず咲を覆う。砕けた岩が粉になり舞い、小石がカラカラと音を立てて落ちてくる。
先に進んでいた俺と咲だけ、岩の中に閉じ込められてしまった。
咲を守るために炎を消したので一瞬で真っ暗になる。
他の奴らは幸い外と繋がっている穴の近くだったので、そのまま出られたようだった。
俺たちも時間はかかるが出られない訳ではない。
下はあと一段で着くが、万が一また岩が崩れた時に俺たちが潰される可能性がある。
上だな。
あと四段は上がらないといけないが安全に越したことはない。
ダターンは「この崩れた岩を退かしたいのは山々ですが此処から更に波及してそちらの足元が崩れるのが怖いので申し訳ありません。」と謝罪の声が岩の向こうから響いてくる。
「分かっている、俺たちは上を目指す。」
俺は炎を少し大きくして明るくすると、咲を前に進むように促した。




