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59.黒幕は誰だ

レンの時計草を置きに樹の館に行こうとすると、広場近くの人混みに行く手を阻まれた。


ミワンタは家の裏側の裏道を通って行こうと提案した。途中で森につながっていて貯水池を通った。


不用心だな。

主天界でシャドーもどきが水道に混ぜられた時のことを思い出して不安になる。


それにしても主天界と比べると小ぶりな池だ。向こう側がはっきり見通せる。

そんなことを思っていたらミワンタにはめられた。


「しばらくここにいて下さいね。」

そう言って激流の水で渦を作り俺たちを囲うとすぐに姿を消した。この水の壁は(スー)でなければ出られない。洗濯機に飛び込めと言われるようなものだ。


失敗した。


まさか、企んでいた黒幕はダターンではなくミワンタだったのか。

逃げたレンを捕まえる目処が立って、俺たちが不要になったんだろう。


でも幸いミワンタは咲に水の力があることを知らなかったらしい。

力を込めて「レモベサクレ」と咲が言霊を唱えると水の渦に穴が開き、俺たちは難なく水の壁を抜ける。


道に沿って進んでいくと広場に向かう道と森の奥に進む道と二手に分かれている。


ミワンタは樹ではないので、道なき道は進めない。

でもどっちに行ったのか…

咲が二手に分かれようと言うが、咲を一人にするなんてあり得ない。


立ち止まって考える。

咲の言う通り、レンが時計草と友達だったとする。俺なら時計草を餌にレンを人気のない森に呼び出すだろう。そして、レンを他の天界に送り込むなり、地上に落とすなりして処分するだろう。

ミワンタは界膜(ベール)を司っているんだ。人知れず始末する方法なんていくらでもある。


森の奥につながる道に賭けてみる。


道に沿って進むと滝のような轟音が聞こえてきた。

こっちにも水源があるのか。

前に進むほどその音は大きくなってくる。


やがて向こうに開けた場所が見えてきた。

そこには俺たちに使われたのと同じくらい巨大な水の渦があって中にミワンタと、レンと思われる人が向き合っていた。


俺たちに気付いていないようなので咲と二人で木陰に身を潜める。

咲はあれくらいなら穴を開けて侵入できると言う。俺も炎で穴を開けるくらいならできそうだ。


水の音がうるさくて話し声が聞こえないので様子をじっと伺う。

ミワンタが突然時計草をレンに突き出して地面に叩きつけようとした。


まずい…止める前に咲は走り出していた。


咲は水の壁に真っ直ぐに突っ込んで行くと、ミワンタの持っている時計草を掴んだ。

ミワンタは死角からやってきた咲に驚いて飛び退いた。

俺も咲に続いて炎を最大出力にすると水の壁に穴を開けて中に入った。


「説明してくれるんだろうな。」

ミワンタをギロリと睨む。

もう手加減はしない。


咲をこちらへ呼び戻す。

咲はおずおずと近づいて来る。

そんな顔をするな。


「私は…ただ…お二人に危害が加わらないように隔離させてもらっただけです。」

ミワンタが言い訳をする。

なんとでも言える。

咲が水じゃなかったら、今も助けが来るまで出られなかった。


「そ、聡明で思慮深いダターン兄が何故こんな戯言に踊らされたのかを追求していたのです。ミレニオなどと言う夢物語に兄が縋り付くなんておかしいのです…。」

ミレニオ…ここでもか。

幽閉されてなお博士の影響は色濃い。


ミワンタはミレニオを狂信しているようには見えないが、気を抜かない方がいいだろう。

少なくともミワンタは俺たちを信用していないから軟禁したのだ。


さっきみたいに咲が飛び出して行かないようにしっかりと手首を握る。

 

レンが「自分の知らないことがあるのではないか」とミワンタに問いかける。


知らないこと…

ミワンタには心当たりがなさそうだった。


追い打ちをかけるように「家族に内緒で人を主天界に送り込んで探すほどにやりたいことがあったんだろう」とレンが続ける。

ミワンタは明らかに動揺していた。


レンはダターンの行動や目的を知ってるような口ぶりだ。


探すって…ミレニオのことか?


何でこんなにもミレニオに心惹かれる人たちがいるのだろう。

天界は欲も悪意も浄化された世界じゃなかったのか。

うんざりする。


それとも博士が吹聴して広がっただけなのか?


でも今回は違った。


レンは西天界中探してミレニオを見つけられなかった曽祖父から、ミレニオの所在を聞いたのだと言う。

そしてミレニオを手にすると世界の真髄を知ることができ、望みが叶うのだと言われたらしい。


博士の信じていた「ミレニオがあれば何でも願いが叶う」というよりはずっと筋が通っている。

でも真髄を知って叶えられる望みって…

重たそうで俺は関わりたくない。


レンの話を聞いて「どうするのか」とミワンタに問いかけるが、答えがなかった。


ミワンタは動揺したまま何もできなさそうだったので、水が苦手だというレンを水の壁の中に残して三人で壁の外に出た。

咲は出る時にレンに何かを囁きながら時計草を手渡していた。

また、なにか慰めの言葉をかけていたんだろう。

自分を誘拐したような奴に情けは無用だ。




「で、ミワンタはどっち側なんだ。」

咲につくのか、敵対するのか。

これから共に行動するのならハッキリさせておきたい。


「…どっちとはどういう意味ですか。」

「咲の味方かどうか。」

何を言っているんだ。

それ以外にどちら側があるんだ。


ミワンタは苦笑すると咲の味方だと言った。

家族の起こした問題なので責任を持って、レイも探すと断言した。


でもダターンに関しては、何故こんなことをしたのか分かるまでは決められないと言った。


なんで一晩経ってダターンと話せていないんだ?

家族で一緒に住んでいるんだろう?

…もしかして南天界みたいに兄妹不仲なのか。

樹一族はみんなそんなもんなのだろうか。


「兄は…兄が…行方不明なんです。」

またしても一本取られた。

本当の行方不明者はレンではなくてダターンだった。


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