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57. ネコの帰還

青の時間になっても、朝以上の情報は得られなかった。

もちろん、エーハルーンからも大した情報はやってこなかった。


店でエーハルーンが来るのを待つ。

だが姿を現したのはミワンタだった。


もはや俺からかなり離れたところで会釈して近づいてこない。

店主が仲を取り持つように食事とメモを持ってきた。


「体調はいかがですか。少しでも体に良さそうなものをご用意しました。」

そう言って笑顔でミワンタの場所に俺の渡したメモを持って戻って行った。


会話すらないなら、直接会う意味はない。


食べ終わるとすぐに席を立って家に戻った。

少しずつ咲を迎えるためのご飯が溜まっていく。


「咲、どこにいるんだ!返事してくれ!」

風電話に想いを込める。


そしてまた、外で咲の帰りを待つ。

隣人が買い物に外に出てきて軽く会釈をする。

あっちの方向は、この前の食料品店がある。


寂れていても近いしちょっとした買い足しには良いのかもしれない。


しばらく経つと隣人が、誰かと…咲と一緒に歩いているのが見えた。


「ただいま!」

「咲!!!」

俺はありったけの力を使って駆け寄る。火事場のくそ力ってやつだ。


思いっきり抱きしめる。

咲の温もりと匂いが、咲がここにいると実感させる。


咲…無事でよかった…


咲が俺の腕の中で暴れている。

このまま腕の中にいればいいのに。


俺は咲を担ぎ上げると隣人にお礼を言って家に入った。


明るい部屋でもう一度上から下まで傷や怪我がないか確認する。傷一つでもあったら許さない。


…咲は拍子抜けするほど無傷で、なんなら俺よりもずっと体調が良さそうだった。


咲に作っていた飯を全て出す。

「フルコースだ!」と喜んで咲はいつも通りどんどんと皿を空にしていく。

いい食いっぷりだ。


話を聞くと、咲はまた眠り込んでいたようで失踪してから何日経ったのかを気にしていた。

何があったのか。

眠り込むほどのことに遭ったのだ、咲が話すのを待つしかない。


食べ終わると咲は堰切ったように話し始めた。


「あのね、今回の主犯はわかったよ。長兄のダターンだと思う。レイも見つかったんでしょ。あとはエーハルーンに任せて帰ろう。」

三日も経てば、ミルディステールと関係あると分かっているのだから見つかったはず、という期待が見てとれた。

それにタダーンの名前が出てきたということはあの店とも関係していたのか。


「そうか、長兄か。早速エーハルーンにも連絡入れておこう。それは良かった。…それから咲、気落ちしないで聞いて欲しいんだがレイは見つかっていない。」

「え?ミルディステールにいるんじゃないの?」

「どうやらあの職人の話はレイを連れて来た奴のことだったみたいなんだ。」

今日、ダターンから目を離したのは失敗だった。

もう少し早く咲に辿り着けたかもしれない。

自分の判断を悔やむ。


咲は捕まった経緯や、お茶で眠らされたこと、目覚めたらダターンがいたこと、隣人によって助け出されたことを話した。


咲の善意に漬け込んで、連れ去ったレンとかいう奴は後でしめておくしかない。

しかもスプレデアットー仮死状態にするお茶を飲ませるとは…万死に値する。下手したら咲は大いなる力に囚われて戻ってこなかったかもしれない。


それにしても隣人のナイスアシストには感謝しかない。咲の近所付き合いの大切さを初めて実感した。今度改めてお礼をするか。


話を聞くにつけ、もう二度と咲を見失うわけにはいかないと思った。


ロフトのソファベッドを下ろし、二人並んで眠れるように整えた寝室で夜を過ごした。


安心してあっという間に眠りについた。


翌朝目覚めると咲が隣にいた。

そっと頬を撫でる。


うーん、と声がして安堵する。

朝は体調がよいから、出かける準備を終わらせよう。咲の誘拐と関わっていた奴らは全員、吊し上げないと気が済まない。


そのためには体力がいる。

昨日、咲に寝る前に無理やり飲まされたエーダンソーニャは美味くてよく効いた。

どうやら今までは煎じ方が甘かったらしい。煮過ぎるくらいまで手を加えると香りと同じくらい甘くて美味しく効果も感じられる。

今朝は自分で用意してこれからの動きにそなえる。


自分の準備が整ったが、咲はなかなか起きてこない。

咲の様子を見にいくと、気持ちよさそうに寝ている。咲の頭や頬を撫でて、生きている事を確認する。


俺が昇華する前に見つけられてよかった。

今なら昇華するかもということを相手に伝えられなかったナミさんの気持ちが分かる。


しばらくしても咲が起きてこないので心配になって声をかける。


「咲、咲、生きているか。」

うーん… 反応した咲の声がする。


何度か起こすと咲が怒り始めた。

よかったここに居る。


魂を取られたらと思うと気が気ではない。

寝てても心配だし、起きたら起きたで連れ去られないか心配だ。


家の中でついて回っていると始めは「家だから大丈夫」だったのが「トイレくらい一人にして!」と咲に怒られた。

トイレに行くと言って消えたのだ、トイレこそ信じられない。


咲がぷりぷり怒っているのを見て、やっと咲が帰ってきたと実感した。

怒っている咲をそっと抱きしめる。


「もう見失いたくないんだ。こんなところさっさと出て主天界に帰ろう。…分かっているよ、レイに会うまでは帰らないって。でも俺は咲が誰より大切なんだ。他のやつなんて正直どうでもいい。」

そう、咲はレイを見つけるまでは帰らない。分かっている。


俺が咲を見つけるまでは、昇華できないと思ったのと同じ想いだと知っているから何も言えない。


「…色々ごめん。我儘で考えなしで。でもレイを見つけたい。居所が分からないなら尚更心配なの。レイと話せたらすぐに帰る」

なんとしてもレイを見つけて帰ろう。

もはや、西天界のゴタゴタなんてどうでもいい。

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