56. 不調の原因
翌朝、赤の時間すぐに家を出ると、隣人と時間が重なって気まずい。
「…おはようございます。祭りもあと少しですね。」
「そうですね。早く終わ…結果が知りたいですね。」
危ない、早く祭りなんて終わってしまえという気持ちが口をついて出そうになるのをぐっとこらえた。
早く行ってくれ、多分行き先は同じ広場だ。
ゆっくりと風板の支度をして、隣人と足並みが揃わないようにする。このままずっと会話するのはしんどい。
幸い相手は忘れ物をしたようで家に戻って行ったので、さっと準備して早めに風板を飛ばす。この時間ならまだエネルギーがある。
エンカントに行くと俺の姿を見た店主が開けてくれる。
「おはようございます。眠れましたか?」
「おはようございます。夜だけではなく昼間も眠くてね、そろそろどうにかしたいです。色々。」
「昼間も眠い…?いつからですか。」
「ここに来てから、ですかね。」
「…病院を案内しましょうか。」
「いや、今はいいです。エーダンソーニャのお茶ももらっているので。」
「エーダンソーニャ?そんな貴重な物をお持ちなら大丈夫そうですね。」
「貴重なんですか?」
「森の奥にいらっしゃる大きな主の一種です。私は実物を見たことはありません。昔、父が話してくれただけです。」
「どんな効果があるのですか。」
「魂に作用するとか、そのような感じだったと思います。すみません、効果を覚えておりませんで。」
「いえ、この異常さの理由が今まで全く分からなかったので、貴重な情報です。ありがとうございます。」
お礼を言いつつむしろ不安を覚える。
魂ってなんだ?
俺は魂がどうにかなっているのか?
魂の問題では誰にも何もできないんじゃないか?
…もしかして昇華する、ってことなのか?
それはごめんだ。
まだ、咲を見つけていない。
エーダンソーニャの効果がなんであれ、回復するのだ。今は神頼みならぬ、エーダンソーニャ頼みでお茶を飲むしかなさそうだ。
俺がため息をつくと同時に軽食を出される。
「しばらくうちで食べてください。私の気持ちです。」
そう言ってオヤジはさがった。
朝の元気なうちに、ミルディステールの誰がダターンと繋がっているのかを突き止めるか。
できればレイの居所まで辿り着きたいところだ。
早く咲を見つけないと。
俺には…時間がなさそうだ。
人が集まり始めたので昨日のミルディステールの工房長を探すと、またダターンと話している。
そんなに毎日話すことがあるのか?
でもこの人混みで話せるようなことなら、怪しいことはないのかもしれないが警戒しよう。
「おはようございます。また会いましたね。」
偶然を装って接触する。
「おお、おはようございます。昨日の…」
「アンセと言います。」
「アンセくん、どうしたんだい。」
「さっき話していたのって…」
タダーンが去った方に目をやる。
「ああ、兄ちゃんか。長い付き合いでね。いい奴だよ。樹の一族の中でも土だからね、色々と細かいことに気を配ってもらって本当に助かっているんだ。」
「そうなんですね。あまり兄ちゃんとは話したことがなくって。」
「火ならそうかもしれないねえ。うちも本当はシツアンルの担当なんだよ。ああ、ほら、昨日話した最近戻ってきた奴。正直、兄ちゃんと良い仲になってくれたらとは思っているんだが、こうしょっちゅう消えるんじゃあね。あ、今のは内緒な。年寄りの勝手な願望だからな。」
「兄ちゃんとシツアンルさんは仲がいいんですね。」
「んー、そうだな。特にシツアンルが入れ込んでる感じだなぁ。休みの日に二人でいるのを見たこともあるから、兄ちゃんも満更ではないと思うけど、まあこればっかりは見守るしかないからな。」
タダーンと連絡係はそんな仲なのか。
…打ち合わせしているところを見られただけなのかもしれないが、誤解されるってことはそれなりにいい雰囲気なんだろう。
タダーンと直接会うわけにはいかないから、シツアンルから当たってみるか。
「シツアンルさんは、腕もあって、兄ちゃんとも繋がりがある。ミルディステールにはかなり重要な方なんですね。」
「そうなのよ。ずっといてくれれば言うことないんだが…まあ、仕方ないな。戻ってくるといつも新しいことを持ち帰ってくるから止めるわけにもいかない。」
諦めている、と言ってミルディステールの工房長は苦笑いをした。
「今日はシツアンルさんも祭りに来ているんですかね。」
「さあな。祭りの間は工房は休みなんだ。初日は競合の作品を見るって言っていたが、あとは知らん。でも結果が出る明日は来るんじゃないか。」
「シツアンルさんに、会ってみたくなりました。」
「今度紹介してやるよ。アンセだっけ?どこで仕事してるんだ?」
まずい、適当な事を言って後で不審がられると面倒だ。
「アサインでちょっと…なので今度工房に寄らせてもらいます。」
そう言ってその場を去った。




