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55. 苛立ちと仮説

昼を食べにエンカントに向かった。

俺の脅しが効いていれば情報も届いているはずだ。


予約席になっている席に戻るとすぐに店主のオヤジが水と一緒にメモを置いていく。


今回はちゃんと読める文字だが内容は酷い。


「祭りが終わったらミルディステールに。」

それだけだった。

舞台にいたから何もできなかったのは分かるがもう少しあるだろう。ダターンとミルディステールの関係とか、他の兄姉の行動とか…


咲を探す気はあるのか?


頼んでいないのに、随分とサービスの良いワンプレートランチが提供される。

「お代は不要だそうです」と店員はそう言って置いて行った。


ここの飯は朝もそうだったが美味しくて見た目もいい。南天界のような色鮮やかな派手さはないが、配色のセンスがいい。


これからどうするかな。

正直、気力でここまで頑張ったが腹が膨らんで気が一瞬抜けると、どっと疲れがでた。


机に突っ伏して深呼吸をすると眠っていた。

目覚めると緑の花が咲いていた。色一つ分くらいの時間、寝てしまったようだ。それでもまだ眠い。


起きるとすぐにシトラールのお茶とメモが渡される。

俺のことをよく見ているな。

エーハルーンよりずっと手際が良いように思える。


お礼を言ってメモを開く。今度は有益な情報があるんだろうな。


「兄は広場から動きませんでした。」

思わず机を強く叩いてしまった。

穏やかな天界ではかなり目立ってしまい周りの目線が痛い。


何やっていたんだ、あいつら…

店主が親切に俺が寝ていることを連絡したのだろうが、そんな情報は他の奴らからも聞ける。


当てにするのはやめよう。


咲の風電話にメッセージを残す。

そろそろメッセージが端末から溢れて俺の声が響いているはずだ。


少なくとも店内からは聞こえない。

家でメッセージを残した時も俺の声は聞こえなかった。

どこかに落とした可能性もあるが、それならエーハルーンのところに届いているはずだが、連絡はない。


咲はどこかに閉じ込められている可能性が高いように思われた。そして風電話は別の場所に置かれているか、もしくは…また寝込んでいることも考えられる。


咲が起きていてじっとしていることはない。

森にいるなら分かるが、今回は多分違う。

そして、これだけ連絡がこないことを考えるとレイと一緒の線も薄い。


ダターン、ミルディステール、食料品店

…これら一見なんのつながりもなさそうな物を結びつけているのはなんだ?


ミルディステールに戻った職人が、主天界に行っていたとしよう。


どうやって行った?

どうして主天界の生き方を知っている?


…西天界ではエーハルーンの兄姉は天界のことわりを知っているとナミさんは言っていた。


ダターンが教えてそいつを主天界に向かわせていた?

なんのために?


嫌な汗が流れる。

また博士が絡んでいるのか?

既に幽閉されているのにその影響は計り知れない。


だとすると今日昨日の話ではない。

いや、待てよ…ミルディステールのやつが、新しい職人は今までも消えたり戻ったりしているようなことを言っていた。


ダターンとミルディステールはそれで繋がる。その定期訪問の帰りに何をどうしたのかレイが連れてこられたのかもしれない。


あの食料品店はどうだ?関係ないのか?

もう一度行って確かめるか。

でも何をさがす?

何も怪しいものは置いてなかった。

あの店にいた老女もやる気がなさそうで、来客の相手をした後にも見えなかった。


仕方ない…

まずはレイから片付けて、つながりを探そう。


ガタリと音を立てて椅子から降りるとふらりとして机に掴まる。

思っているよりも俺は弱っているらしい。


ああ…今日はエーダンソーニャのお茶を飲んでいなかった。意外と効いていたんだな。


ミルディステールに行く前に家に帰ってお茶を飲んだ方が良さそうだ。


速度を上げると落ちてしまう気がして、咲の風板のスピードくらいのろのろと帰る。


なんとかお湯を沸かしてお茶を飲むと少し整ってくる。お茶を水筒に入れて持ち歩くか。


再び広場に戻ると青の時間近くになってしまっていて今日のミルディステールの探索は諦め、定時の報告のためにエンカントに行く。


椅子に座っているとミワンタが顔を引き攣らせてやってくる。


それはそうだろう。

今までのメモの内容で俺が満足するはずがないことを分かっていたはずだ。


「…ご機嫌はいかがでしょうか。工房は絞りました。あとは見に行くだけです。明後日祭りが終わるので…」

「ふざけんな!あと二日何もしないで見守るっていうのか?咲をなんだと思っているんだ!話にならない。エーハルーンを呼べ!」

「あの…兄は…樹は忙しくて…私も来て欲しいとお願いしたのですが…」

ミワンタは目を伏せて俺と目を合わせない。それでもエーハルーンを呼ぼうともしない。


ミワンタは萎縮しているが、それでも譲れないものは譲らない。

樹の一族なだけはある。


これ以上荒立てて目立っても仕方ない。

タダーンとミルディステールの関係、レイとレイを連れてきた奴の仮説を書いたメモを渡す。


ミワンタは何も言わずに立ち去った。

周りは俺を怪訝そうな目つき見てくるので俺も退散する。


明日は少し変装した方がいいかもしれない。


家に戻りしばらく外で咲を待っていると隣人が広場から戻ってきて会釈された。


大丈夫か、目で問われている気がしたが何も言わずに挨拶して家の中に戻る。


明日も朝から見張りだな。


アンセの苛立ちも体力も限界に。

エーハルーンたちも動きたいけど、動けないんです。

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