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54. タダーンの不可解な行動

メモを開くと今までとは異なり、酷い文字で走り書きがしてあった。


「怪しい。黄の時間まではこちらは動けない。その間に何か行動する可能性有り。」

万が一誰かに拾われても分からないように書いているのは分かるが、これでは俺にも分からない。


俺にダターンを追跡しろってことなのか?

人任せにも程がある。


広場の方を見ているとエーハルーンと話している長身の男の背中が見えた。


あいつか?

遠くからは目の色が見えず土なのかどうか判断出来ない。


「樹は今、自分の兄と話しているようですね。ここは予約席にしておきますよ。」

店のオヤジがそう言って俺を送り出す。


エーハルーンといい、家族揃って人使いが荒い。

はあ、仕方ない。

咲を見つけるためだからな。


ダターンと思われる男に近寄って様子を伺う。

よく見るとこの前、咲が森に入ろうとした時に声をかけてきた奴だ。目をつけられたのはあの時だろうか。


しばらくダターンは広場の端で数人の職人らしき人たちと話していた。それから俺たちの家のある北に向かって風板を動かし始めた。


慌てて俺も追いかける。

ダターンは北の道を真っ直ぐ進むと突き当たりを西の方に曲がっていく。それからさびれた食料品店に入った。


ここでしか売っていない何かを買っているのか、それとも誰かと待ち合わせをしているのか。

しばらくして店から出てきたが、手ぶらに見える。

中に誰かいたのか。


ダターンが過ぎるのを待ってから店を覗く。警戒しながら店に入ると、少ない商品の並んだ店内に年配の女性が本を読んでいた。ここで歳が垣間見えるのはなかなか珍しい。


他に人がいないところを見ると店主だろうか。商売っけが全く見えない。


ぐるりと店内を見回すが特に目新しい物もなく、人もいない。

ダターンは何をしていたんだ。


何の手がかりも見当たらないので引き返してダターンを追いかける。祭りのおかげで道に人は少なくて遠くにいるダターンが見える。


ダターンは再び広場の端に戻り、その場の人と話し始めていた。


わざわざ、あの店に何をしに行ったんだろう。

家の近くだしあとでもう一度行ってみるか。


黄色の時間が過ぎて、今度はダターンが広場の真ん中に出る。

これだけの目線のある中では何も出来ないだろう。 

ダターンの追跡をやめて、さっきダターンと話していた人に近づいてみる。


情報を引き出したいが、どう話しかければいいんだ?

こんな時、咲ならあっという間に溶け込むのにな。


仕方ない。


手元にあった仕事道具をわざと落とす。


「落としましたよ。」

想定通り、相手が話しかけてくる。


「すみません。ありがとうございます。もしかして、あの板の職人さんですか。」

「ええ、そうなんです。あなたも加工の仕事されているんですか。そのヘラ金属加工に使うやつですよね?」

「趣味で少しだけ。それより、あんなすごい素材を作るのは大変だったでしょうね。どれが一番か決められないですね。」

職人の世界は狭いのでどれを作ったとか聞かれると面倒なので、無理矢理、祭りの話を振る。


「うちの素材が一番だと言いたいが、うちは予選落ちしてしまってね。最近、腕のいいのが入ったんだが間に合わなかった。あと今一月早ければ巻き返しが出来たんだがな。いや、悔しいね。悔しい。」

祭りの話になって饒舌になり言葉遣いが砕けてくる。


「すみません、どこの工房でしたっけ?」

「ミルディステールだよ。」

ミルディステールか…


「そうなんですか。また次回ですね。」

「なに言っているんだ。本祭は五年先だからな。樹のやる事業の大口注文はしばらく難しいな。」

なるほど優勝すると西天界の事業に優先的に使われるのか。だから、どこの工房も必死なんだな。


「新しい職人さんはどんな感じなんですか。腕が良い人が入ったってさっき言っていましたよね。どこから引っ張ってきたんですか。」

「いや、前にうちにいた奴なんだが、時々ふっと消えて戻ってくるんだよ。今回は弟子まで連れてきて驚いたよ。」

「どこにいたんですかね。」

「さあな、どこで何しているんだか。あいつは材料を作るしか興味ない奴だからな。どこぞに籠って土まみれになっていたんだろう。」

どこかに籠って、土まみれ…

咲みたいな奴だな。


…腕のいい職人が元々工房にいた奴なら、レイではなさそうだな。

でも、時々姿が見えなくて戻ってくるというのは気になる。工房にいない間は、主天界にいたということはないか。

そしてレイと出会い、弟子として連れて帰ってきた…まさか、な。


レイもそんな軽い奴じゃない。

前から決まっていたのなら、咲に相談もせずに行動するなんて、らしくない。

急に決まったか、それとも連れてこられたのか。


どちらにしても弟子と紹介されるような関係なら当初のような心配はなさそうだ。


「弟子の人も工房にいるんですか。」

「さあな。俺は知らん。」

レイはミルディステールと繋がりがありそうだが、咲は関係しているのか。全く見えない。


ダターンはどう繋がっているんだ?


ダターンは本当に怪しいのか。

分からないまま追いかけるアンセ。

咲を見つけたいのに、直接の手がかりもない。いつまで大人しくしていられるのか…

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