53.怒り
ミワンタはアンセが苦手です。
避けようとするほどアンセの怒りは募ります。
咲は結局見つからなかった。
ふつふつと黒い怒りが湧いてきた。
俺は西天界を助けるため、レイを見つけるためにここに来た。
咲を失うためではない。
咲を見つけ次第、主天界に帰る。
風電話をポケットから取り出すと何かが一緒に落ちた。
モオントレーの実だ。
エーハルーンにメモを渡すついでに一緒に託すよう頼まれていた二つのうちの片割れだ。
もう片方は咲が持っているはずだ。強く握りしめて咲に会えるように祈る。すがれるものには全てにすがりたい。
それから、エーハルーンに風電話をする。
「明日赤の時間にエンカントに来い。会えなかったら、今起こっていることを住民に暴露する。」
翌朝エンカントに向かうと店は閉まっていた。
しまった。
昨日は怒りに任せて開店時間も考えずに連絡してしまった。
入り口から中を覗くと昨日のカウンターの人が店を開けてくれる。
中にはミワンタが待っていた。
ああ、そういえば昨日ミワンタが店員に「叔父さん」と呼びかけていた。
開店時間は云々ではなく貸切にしたのだろう。
「エーハルーンはどうした?」
挨拶もなくいきなり切り出す。
びっくりしたのか、ミワンタはビクンとして背筋を伸ばすと小声で話す。
「…すみません。兄は抜けられなくて…」
「なるほど、エーハルーンからしたらこの事態は別に大したことないと言うことだな。」
「…いえ…決してそういう訳では…」
「じゃあ、どういう訳だ?」
イライラする。
他の天界の者を二人も巻き込んでこの対応か。
「その…エーハルーン兄が来る予定だったのですが…その…ダターン兄がエーハルーン兄に話があると…かなり慌てた様子で…」
しどろもどろにミワンタが説明する。
「慌てていたからなんだ。後にすればいいだろう。」
「ダターン兄はいつも落ち着いていて…あんな兄は初めてで…それに…時間的に咲さんとのことにも関係するかもしれないと…それで…私が…」
ミワンタは涙目になって訴えてくる。
はあ…
面倒だな。
泣きたいのはこっちだ。
「言い訳はいい。咲を見つけてくれ。樹々に聞くなり、密偵を使うなり、手段は問わない。今日中…明日まで待つ。情報をくれれば俺も動く。色が変わる毎に連絡しろ。」
「はい…!そうさせてもらいます。必ず!」
ミワンタは早くこの場を去りたいとばかりに、後退りをしながら答える。
大丈夫か?
この平和ボケした天界人はこの危機を理解しているのだろうか?
「そのダターンって奴の見た目は?」
「長身で、土の力を持っています。今日も祭りの補佐で広場に出入りしているはずです。」
昨日舞台で見たあの背の高い男だろうか。
昨日見た特徴を話すと、その人だと思うとミワンタは首が取れないか心配になるくらい何度も頷く。
「俺に会わないと決めたくらいだから、それなりの情報をエーハルーンは得たんだろな。くれぐれもよろしく伝えてくれ。」
そう言ってミワンタを解放した。
ミワンタは何度も頭を下げると飛び出して行った。
ミワンタは、ダターンとかいうエーハルーンの兄が今回関わっているかもしれないってことしか分かっていないようだった。
正直、エーハルーンが本人と話したところで有益な情報を得ているとは思い難かった。
エンカントのおやじに礼を言って店を出ようとすると「ご飯食べませんか」と誘われる。
確かにまだ何も食べていなかった。
「まずはこちらを」と返事をする間もなくリラクフラグランのお茶を出される。
落ち着けとは喧嘩を売っているのか?
そう思いつつお茶を飲むと気持ちが凪いでくる。
…クノーも混ぜてあったのか。
彼も樹の一族だ、シャドーの存在を知っているんだろう。俺の剣幕にシャドーを疑ったに違いない。
飯を食べ、腹も落ち着くとさっきよりは冷静になった。頭が冴えている赤の時間のうちに待ち合わせて正解だった。
頭をフル回転させて咲につながる糸口を見出そう。
楽観的に考えると、レイと出会えて嬉しさのあまり二人で盛り上がって連絡しそびれている可能性はある。その場合、レイが俺に連絡してくるはずだとは思うが、レイと俺との関係を考えると「一日くらい…」と放置されることはあるだろう。
それならいい…
それ以外だと咲は何らかの理由で、俺のところに戻れない状態にいることになる。
でもそれを連絡して来ないのは、風電話の存在を忘れているだけなのか、それとも本当に出来ない状態なのかの判断が非常に難しい。
俺が一番懸念しているのはミワンタの話が咲と繋がっている場合だ。
南天界の二の舞…
ダターンのような樹の一族が絡むならシャドーもどきや博士の関与も否定できない。
現時点では全く判断できない。
レイから今日中に連絡がない、あるいは咲が戻ってこない場合は、間違いなくタダーンとかいう野郎と関わっている可能性が強くなる。
咲、帰ってこい…
いつまでも店にいても仕方ない。
礼を言って店を出る。
さて…
まずはダターンを見つけて行動監視をするか。
もし咲と関わっているのなら様子を見に行くかもしれない。
まだ朝早いのに広場には人が集まり始めている。
昨日みたいな群衆が集まると、探すのが困難になる。
どこにいるのが一番いいのか…
見回していると、エンカントのオヤジが声をかけてくる。
「ここに椅子を用意しますよ。甥からあらかた話は聞いています。」
そう言って立ち飲み席にハイチェアを置いた。
「お借りします。」
長丁場に備えて、椅子を拝借する。
助かった。いざと言うときのために体力を温存できそうだ。
しばらく中央を見ているとエーハルーンが出てきて今日の予定を発表する。
あえてこっちを見ていないように思えるのは気のせいか?
…そうだ、追加の情報はどうなっているんだ。ミワンタのやつ早速約束を破る気か。
やはり、住民にこの不祥事を全て明るみに出してやらないと分からないのか?
悶々としていると店のオヤジがつまみを持ってくる。
今欲しいのは食べ物じゃない。
追い払おうとすると皿の下に紙切れが見える。
いつの間にミワンタが届けたんだ?
回りくどいことを…




