52.咲の失踪
ここに来てもう七日近く経っていた。
レイの件で進捗はなく、俺の体調も変わらない。
一方で、祭りは最終局面を迎えていた。住民投票で一番の素材を決める日になった。
咲がどうしても行きたいと言うので一緒に広場に行くと初日よりもさらにすごい人だった。天界中の人が集まっているのではないかと思えるほどだ。
投票しようと来てみたが、いつになったら投票の番が来るのか分からない。今投票するのは諦めて家に戻ると、咲は森に行ってくると家を出て行った。
子供が近所の公園に遊びに行くようなノリだ。
止めても仕方ないし、ついて行くこともできない。
一人になると横になって体力を温存する。
日課になっているエーダンソーニャのお茶も慣れてきて一気に飲み干す。
相変わらず不味いが飲むと少しだけ意識が保てる気がする。
それにしても、レイはどうしているだろう。
いまいち、エーハルーンの兄姉ともつながらない。
今の手持ちの情報が少なすぎて仮説も立てられず、次の一手が思いつかない。
考えているうちに少し寝てしまったようだった。
目覚めても咲は戻っていなかった。
机には咲の風電話が置いてある。連絡はつかないということだ。
はあ…
あれから色一つ分以上の時間が経っている。
ここでも樹々に拉致られたりしてないといいが…
心配になって家の外に出て確認する。森に行ったのなら安全だろうが、いつ帰るのか分からない。
そろそろエーハルーンたちと合流しに広場に行かないといけないんだぞ。何やっているんだ。
苛立っていると咲がご機嫌で戻ってきた。
「ねえ、樹々のお祭りに誘われちゃった!」と嬉しそうだ。ただでさえだるいのに、脱力感を覚える。
説教する気力もなく、出かける準備をしようと言うと、俺にまたエーダンソーニャを飲めと言う。
さっき飲んだが咲が心配そうなので、お守り代わりにもう一杯飲んでおくか。
広場に戻ると減ってはいるもののまだたくさんの人がいた。
朝はエーハルーンが投票箱に張り付いていたが今は別の男女が立っていた。あれがエーハルーンの兄姉なのだろうか。
メモで知っていても顔と名前が一致しない。それも遅々として進まない原因の一つだと思う。
折角なので、住民に紛れて投票を済ませるとレストランで席を探す。
なぜか今日は外の立ち飲み席が埋まっていて店内は空いている。
俺にはありがたい。
すぐにカウンターに近い席を案内されて一息つく。やっと座れた。
飯を食っていると、店員から祭りの締めに名誉ある職人の演説が今からあることを教えてもらう。
それで今日は外の立ち飲み席が人気なのか。
ミワンタがカウンターで飲み物を頼みにきた。
そっと俺たちの近くに来て立ち話をするとメモを置いて足早に去って行った。
祭りに忙しくてエーハルーンの方ではなかなか調査が進まなかった。これからようやく動き出せるのではないだろうか。
期待してメモを開くが、今日の連絡も兄姉の近況報告がつらつらと書かれているだけで大きな手がかりになりそうな情報はない。
やれやれ…
俺たちが来るのが早すぎたのではないだろうか。
もし俺の体が西天界に合わないからこの状態なのだとしたらいい迷惑だ。
咲がお手洗いに行くと言って席を立つ。
情報ももらったし、咲が戻ってきたら帰ろう。
ぼんやりと、中央で話している職人の話を聞き流す。似たり寄ったりで話に飽きてきた。
手元のお茶を飲み干しても咲が戻って来なかった。
どうしたんだ?
嫌な予感がした。
急にコップを持つ手が震えてきた。
慌てて迎えに行ってみるがトイレの中に入るわけにもいかない。
女子トイレの前をうろうろしていると疑いの目で見られてしまっていたたまれない。でも諦められない。
思い切って一人の女性に話しかけて、中に咲という女性が居ないか確認してもらった。
しかし咲はトイレには居なかった。
どこに消えたんだ?
心臓がバクバクと破裂しそうな音を立て始める。
オペランに声をかけてみると、ゆらゆら揺れているので何かを伝えようとしてくれているのは分かるが言葉が聞こえない。
念の為、店内を入念に探して咲が居ないことを確認してから会計を済ませて外に出る。
咲が理由もなく俺を置いて帰るとは思えなかった。
ふらふらと風板を取りに行くと、板は置いた場所にそのままあった。
レイを見つけて後をつけているのかもしれない。
人混みを凝視して咲を探す。
どこにいるんだ…
咲は小柄なので人混みに紛れると探し辛い。
レイらしい人が見えて追いかけてみる。
必死に人混みをかき分けて追いついたが、人違いだった。
はあ、はあ、はあ
息が切れる。俺の体力は今の時間が一番辛い。
今を乗り越えると怠さが落ち着くので、一踏ん張りだ。
やはり南だろうか。
当てずっぽうに動くのは良くないと思いつつ、回らない頭ではそれくらいしか思いつかない。
レイを見つけて連れて行かれたのか…?
南の通りに向かって風板を走らせた。




