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51. 樹々の優しさと苦いお茶

手紙を書いたあと、咲とぶらぶら歩いていると大きめの食料品店を見つけた。


咲は料理は苦手なのに食べものの素材を見るのは好きなようで、率先して中に入って行く。

この祭にちなんだ安売りをやっていてえらく混んでいる。


何か面白いものでもあるだろうかと野菜を見ていると突然咲が「レイ!」と叫んだ。


どうやらレイらしい人影を見たらしい。

咲は止められない。


「追いかけてみるか。」

答えは分かっているが、一応聞いてみる。


咲は二つ返事でそのままレイが消えた方へと走って行った。


俺は他に知った顔がないか警戒しながらゆっくりと後を追う。レイと一緒に消えたのか、それともレイが一人で来たのか…


残念ながら、咲はレイを見つけることはできなかったらしい。ひどく落ち込んでいた。


もし本当にレイだったとすればひと安心だ。

こんな人混みに来たら見失う可能性もあるのに一人で来れるのだとしたら、或いは監視と一緒に来ていたとしても逃げると思われていないとしたら、レイは一定の自由があって逃げる必要がないということだ。


…レイは少なからず自ら納得して西天界に来ている可能性が高い。

そのことは咲を悲しませるかもしれない。

言おうかどうしようか悩んでいると、咲から「レイは一緒に帰りたいのかな?」と言葉が漏れる。


自分の中で疑問が生まれているなら伝わるかもしれない。俺のこの仮説を話すと、咲は目を潤ませて俺をじっと見つめる。


咲はレイに一緒に帰って欲しい、でもそれを伝えてはいけないと思い悩んでいたようだった。


レイに咲の気持ちを伝えたらいいと言うと咲は安心したようだった。咲は俺にも言わずに我慢していることがあるのだろうか。

咲は周りに優しくて心配になる。


そろそろ帰ろう。

俺の気力も体力も限界だ。


ふと見ると咲は大木に頬を寄せて目を閉じている。樹々と関わるなと言ったのに…

何より寄りかかるなら俺がいるじゃないか。

なんだって樹々を頼りにするんだ。


咲を引き剥がす。

全く目を離すとすぐこれだ。


風通路がないのはなかなか辛い。家に帰る前に一旦お茶休憩を挟む。

すると咲にも俺の体調変化がバレていたらしく心配される。


「水が合わないのかな」と咲が呟く。

そう言うことなのか?

幸いミワンタと青の時間の打ち合わせがなくなったと聞いて安堵する。


家に着くと休ませてもらう。


目覚めると青の時間前で、まだ眠い。

のっそりと立ち上がり机に向かって座る。

机の上に細長い葉っぱがこんもりと置いてある。


これはなんだ?

咲は、俺が寝ている間に森に行ったらしい。そして今も出かけている。


それにしてもなんなんだろうな、この疲れは。

天界の意味を考えると入れ物ではない。

俺の魂は削れているのか?

それとも昇華する前兆なのか?


ぼーっとしていると咲が帰ってくる。


これは何かと葉っぱを指さして聞く。


「エーダンソーニャからもらったの。元気になるって。今煎じるからちょっと待ってね!」

エーダンソーニャ?また新しい樹々(やつ)が出てきたな。


葉っぱを煎じる…

咲はできるのか?


案の定、咲が台所で立ちすくんでいるのでお湯だけ沸かしてもらう。

葉っぱを煎じると甘い良い香りがする。


咲にお礼を言ってから一口飲んで吐きそうになる。

甘い香りに反してものすごく苦い。

知らずに飲んだら毒かとお前ほどに酷い味だった。


効かなければ、葉っぱが溶けるまで煎じるって…

これ以上不味いのは飲めない。


「それでどうなんだ。これを渡されるって事は普通じゃないんだろう。」

樹々が俺に何かをくれるなんてありえない。クノーの言っていた心配はこのことなのか?


「うん…大きな力が働いているって。お茶は気休めだって。」

気休めか…

それでも渡したほうが良いと思われるほど酷いらしい。

コップ一杯飲み干すと少しだけ力が湧いてくる。

魂は力の源だったのだと改めて知る。


夕飯作るか、咲が買ってきた材料を見る。

今回はちゃんとタンパク質のポルクールと調味料がある。

でも野菜がない。果実ばかりが揃っている。


仕方ない…

咲は生の葉っぱは食べないから普段から買わないのだ。


まあ、今回はポルクール三昧だな。

咲は美味しそうに夕飯を平らげるのを見届けると再び眠りについた。


白い夢を見た。

何もない白い場所。

音もしない。

時間の流れも分からない無の世界。


目が覚めるともう昼飯の時間だった。

定時連絡の黄色の時間でもある。

咲は珍しく既にエーハルーンたちに連絡を入れていた。


起きるなり俺は大量な液体を飲まされる。

クノー、エネール、エーダンソーニャ。


お腹はちゃぷちゃぷだ。

ちゃんとした飯にありつくためにも買い出しについて行くことにした。咲が一人で風板に乗れないというのもある。


近くにも食料品店があって、物色する。咲は惣菜をいくつかカゴに入れる。

俺が料理しなくても良いようにと言うが、咲が作ってもいいのでは?

そう返すと適材適所という回答にならない答えが返ってきた。

まあ、いい。

お金に余裕はあるし、正直毎回飯を作れるかどうかも分からない。


結構大荷物になったので俺が荷物を持って風板で家に帰り、咲は歩いて帰ることにした。


帰ると俺は椅子に座って一息つく。

帰ってきた咲が心配してエーダンソーニャを飲むように言う。

少し楽にはなるがあの味はいただけない。

でも樹々の優しさを無視することも出来ず飲み干す。


咲がエーハルーンにも相談すると言うのを止めたけど、もうすでに風電話に伝言を残している。


すぐにエーハルーンから連絡が来て緑の時間に会うことになる。

咲が一人で行くと張り切っているが心配だ。

…でもついて行くと言えない自分がいた。

咲はそれを察してさっさと出て行った。


正直助かった。

美味しくないエーダンソーニャのお茶をもう一杯飲む。

飲み干してから一日どれくらい飲むのか聞いてなかったと思い出した。あとで確認しよう。


咲は大丈夫だろうか。無事にエーハルーンたちに会えたのか、レイを見つけて声をかけたり追跡したりしてないといいが…


心配していると青の時間前には帰ってきた。

少しずつ外が暗くなり始めている。


咲が貰ってきたメモに目を通すとエーハルーンの兄姉の行動が書いてある。その中にレイがいるかもしれない工房、ミルディステールの名前を見つける。

繋がりがあるかもしれないな。


そして手紙の最後に興味深いことが書いてあった。


「昨日は大いなる誓いが出来なかったと言う若者に数組付き添ったため、青の時間に会えず申し訳ない」

大いなる力に誓いが立てられない?

どういうことだ?

ナミさんから聞いたことがない。

それとも秘匿でそれは教えられなかったのか?


咲は「そんな仕事も樹の役割なんだね」と呑気なことを言っている。

天界全体の主である大いなる力に誓いが立てられないなんて何かがおかしい。

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