48.工房見学と情報収集
「あと、最近腕の良い接合職人が南の工房に来たって聞いたんですが知っていますか。」
咲が質問する。
「ああ、ミルディステールのところですよね。僕も気になっていました。」
「ミルディステールってどこにあるんですか。」
「この道の突き当たりにあります。今回の祭りの最終選考で漏れたところですよ。あともう少し早かったら選ばれたんじゃないかと思っています。」
じゃあ今回の祭りにあまり盛り上がっていないのか?工房にも人が残っているかもしれない。
一度手を引こう。
面が割れている俺たちが乗り込むところじゃない。
咲は行きたそうにしている。気持ちはよく分かる。でも俺たちじゃない。
咲を説得して、一旦待ちになったので街をぶらぶらする。
道具屋や素材屋、主天界よりも細かく専門に分かれていて見応えがある。
「この素材は壁の装飾にも使えて、臭いなどを吸収してくれます。」
「これを壁の表面に塗るのか?」
「仰るように全体にうっすら使うのも良いですし、例えば、このように縦に模様のようにカラマツ模様に入れても面白いかと思います。」
おお、壁に機能のある装飾するのは面白いな。
「この素材はどこで手に入るんですか。」
「そうですね。大きいところでは大体作っていますけど、この素材を最初に作ったイーロンですかね。やっぱり微細なところで違うんですよね。」
「ありがとうございます。試してみます。やっぱりイーロンの素材はいいんですかね。」
「あとは、ミルディステールもいいですよ。ただ、いいものを出す時とぴたりと開発が止まる時とあってムラがあるんですよね。安定しているのはイーロンですね。」
ムラがあるのか、そう言えば新しい溶接職人が来たから良くなりそうと言っていたがそれと関係するのか?
他の道具屋に行くと今回の最終素材にも選ばれたザイヨイヨを使っているところもあった。
ミルディステールの評判はどこも同じだった。
どうやらイーロンとザイヨイヨが二大工房で、それぞれの店が気に入った方を贔屓にしているようだった。
広場近くの工房も大きかったが話に出てこないので不思議に思っていると、あそこは新人を育てる学校だった。
仕事が絡めば俺の情報収集力もなかなかなものだ。
なあ?と振り返ると咲は向かい側の建物の近くで誰かと話していた。
俺を見るなりその人はすっと人混みに消えていった。
目で追いかけるがもう見つからない。
咲も別に不安そうな顔をしていないので、大丈夫なんだろう。
話している間は好奇心が俺を支えていたが、落ち着くとどっと疲れが出る。
腹も減ったしとりあえず飯にしよう。
この辺は座って落ち着いた食べるレストランのような店はなく、どこも簡易ベンチがあるだけで規模的に持ち帰りばかりだ。
…自分も職人だからよく分かる。没頭しているときは片手間に食べられるのが都合がいい。食べながら片手で色々と作業ができる。
匂いにつられて串刺しを食べると旨いが熱くて辛い。汗をかきながら集中して食べる。咲も苦戦している。獲物を頑張って捕らえようとしているネコみたいだ。
そろそろ連絡する時間じゃないか?時計草が見当たらず時間が分からない。すると咲は自然に隣の樹々に話かけると「黄色の時間過ぎたって」と教えてくれる。
こんな人目の多いところで樹々に話しかけたりしたらまずいだろう。樹々と話せるのはここではエーハルーンだけなんだ。注意をすると咲は真面目な顔で頷いた。
そしてすぐに咲はエーハルーンたちに連絡を入れる。
「探し物の目処が付きました。会って話したいです。」
今の言葉を意識したのか、今度は情報が少な過ぎて誤解を招くような伝言を残した。彼らの探し物は、天界を出入りした犯人で、レイではない。
ぬか喜びさせてしまいそうで気の毒だが仕方ない。
俺たちは、後でエーハルーンたちに渡すメモの準備をするために人気のないテーブルを見つけて腰を下ろした。
まずはレイがいるかもしれない工房と、レイの特徴を書き記す。咲がレイの特徴を並べたてるが、半分は役に立たなそうだ。情報を精査して書いていると、咲が俺が飛ばした言葉を繰り返し言ってくる。聞きそびれたのではなく、却下したのだが咲は気づいていない。
…あとで面倒だし、紙には収まりそうなのでとりあえず書いておくか。
メモをなくさないようにしまうと、さっき咲が立ち話していた人について聞いてみる。
街のあの人混みで、わざわざ咲に話しかけてきたやつを早めに知っておいた方が良い。無害ならそれはそれでよいのだが…
そんな淡い期待は間違っていたと後で知ることになる。




