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46. 怪しい女性

「最近南に新しい溶接職人が来たらしいぞ。今回には間に合わなかったが才覚発揮しているらしい。助かったな。」

新しい溶接職人か…

溶接職人がどんなことをするのか詳しくは知らないが、レイは材料を混ぜるのが得意なので該当するかもしれない。


咲も同じことを思ったようで、その会話に入り込み職人が女性だということを聞き出す。

俺は事情聴取は得意だが、会話に入り込んで自然に聞き出すのは苦手なので感心する。


話に出てきた職人がレイなのかそれとも、西天界からレイを連れてきた奴なのか、まだ分からない。でもレイに関しての初の手がかりだった。


咲はすぐにでも南に飛んでいきそうな勢いで席を立とうとする。

まずは飯を食って、この広場での情報収集に集中しようと説得する。分かったと言いながら咲はそわそわしている。

行きたいのは分かるが、身体がだるくて付き合えない。


昔、昼間に眠くなる病気の話を聞いたことがあったが、ここには病気というものはない。ハルに言ったら気のせいだと一蹴されそうだが、なぜか精神的に疲れるのだ。そして身体にも力が入らない。


とはいえ、このまま何もしないわけにもいかない。回らない頭でなんとか情報収集しようと板を吟味している人に声をかけてみる。


「これはどこの石だと思いますか。僕は北かなと思うんです。」

話かけると「この石は西のものだ」と理由とともに教えてくれる。違いがよく分からない上に今は頭が働かないので「勉強になります」以外の返しができず話が広がらない。

結果、たくさん話しかけるはめになり余計に疲れてしまったが南の石だと思われるものを二つに絞ることができた。


少し前進したことにほっとしていると、見覚えのある横顔が不意に目に入った。


見間違いか?

主天界の知り合いがここにいるはずがない。

地上から来たやつ以外は、基本的に他の天界には行けないのだ。


気付かれないようにそっと近づくと、いつだったか仕事で会ったことのある(ソイ)だと確信した。


つまり…こいつは今回の関係者の可能性が高いことになる。


隠れるようにしてじっと相手の様子を探っているとエーハルーンたちに風電話をして戻ってきた咲が俺の名前を呼ぼうとする。

慌てて咲の口を押さえる。


咲にレイを連れてきた犯人かもしれない奴を見つけたと伝えると「話しかけてくる」と踵を返すので引き止める。


今は派手に動けない。咲はこの前お披露目があったから、覚えられている可能性があるし、俺も面識があるから慎重に動かないと失敗する。


声をかけるのをやめたと思ったら、今度は「レイに電話してみる」と珍しく風電話を活用しようとする。


西天界でレイがどれくらい自由なのか分からない。

レイが西天界に連れてこられてからまだ数日。ここでの知り合いはかなり限られているはずだ。

そんな時に風電話にメッセージが届いたりしたら、犯人に怪しまれるに違いない。


とうとうと咲に説明すると「はい」といい返事が返ってきたが今までの行動から考えると不安しかない。

それでもようやく咲が大人しくなった。


二人で怪しい長髪の女性を見張っていると誰かと話し始めた。だが背中を向いていて相手の顔が分からない。

咲は背が低いので「見えないよ」と口を尖らせている。拗ねている場合じゃない。

咲を放置していたら、いいことを思いついたというように「レイを探してくる」と人混みに消えていった。


咲!


間に合わなかった…

さっき、この状況が分かったんじゃなかったのか?

一気に脱力する。


しかも次の瞬間「レーイ!」と咲が名前を口にしてレイを探している。気を抜いている場合じゃなかった。


咲の呼び声に反応して長髪の女性が声の主を、探しているように見える。


まずい。

今見つかるわけにはいかない。


急いで人混みを押し分けて咲の元に向かうと、躓いて地面に転がった咲に出くわした。

そのまま俺のコートを咲に被せて、その場を足早に立ち去った。

念の為後ろを振り返ると、土の長髪の女性の姿は見えなくなっていた。


見られたかもしれない。もうこの服装で動き回らない方がいい。そう伝えると咲はテキパキと服装をアレンジし始める。 


俺の持っていたへらで髪を器用に結い上げて、ズボンをたくし上げる。

俺のコートのボタンを閉めると、ズボンも隠れてワンピースみたいに見える。


ダボっとした俺の服をまとっている咲は可愛い。咲も得意げに俺を見て笑う。


思考能力が落ちているからか、うっかり俺も危機感を失いそうになる。


危ない、危ない…


用心のため、上着を買って帰ろうと店の多そうな南の方に向かう。

服屋に入って帽子と上着を見繕う。試着しながら服を選んでいるこの瞬間は、デートみたいだ。


咲が最初に選んだ帽子はあまりにも似合いすぎて、違う意味で視線を集めそうだったので地味な帽子にするように言うと、可愛いのになと不満そうだ。


そう、可愛い過ぎるのだ。


咲は俺のと似た上着も買った。二人で上着を着て並んだら恋人っぽい。このままデートを楽しみたいと思ってしまう。


俺も変装用に帽子を買って店を出た。


咲が折角なので街を見て周りたいと言い出した。

俺も興味はあるが身体がついていけない。


渋っていても咲はどんどん道を進んでいく。

この通りの西側の店はおもしろい造りをしていた。背後の岩山をくり抜いて洞窟のようになっている。

店をのぞくと、工房のようだった。祭りで出払っているようでどこも人気(ひとけ)がない。


街の様子は興味深いが、ミワンタと早めに情報交換してさっさと帰りたい。

咲に風電話を確認してもらうと、青の時間に広場のレストラン集合になったと咲が教えてくれる。

まだだいぶ時間があるな…


仕方ない。

少し休もうかと思ったら咲が森に行きたいと、岩山の隙間を指差した。


森の方向は合っているが、あの隙間を通るはないだろう。

咲は大丈夫だと押し切って岩の隙間を歩き出した。

止めることもできなくて後に続く。俺は咲よりでかいし、風板もある。

何度も岩に挟まって動けなくなって、炎で岩を溶かしながら道を作って進むことになった。



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