41.侵入者
樹の館に行くと、他人事のようにナミさんが大変なことになったわねえと呟いた。
そんなノリじゃないが、カヅキの登場で咲の立場が急変してしまったことはどうにもならない。
咲はナミさんの日課に付き合いがてら、街の観察をしている人との顔つなぎをして回る。
俺は遠くから咲を見守り挨拶する相手を覚える。
トビーが言っていたようにとりあえず影になってみるつもりだ。
表に出るのはいつでもできるが、出てしまったらもう影にはなれない。
見回りの最後に、急遽貯水池に寄ろうという話になった。
前に咲が行きたがっていた場所だ。
ナミさんが立つと森の樹々がにゅうっと曲がってトンネルを作った。
真っ直ぐ進むと、池が見えてきた。
近くに行くと湖と呼べるほどの広い貯水池がそこにはあった。
南天界の海を思い出して、きれいな透き通る水の湖面を覗こうとすると見えない壁に阻まれて一定距離近寄れなかった。
俺は水じゃないから近寄れないのか?
湖の横には建物があって、責任者だというミキツタが中に通してくれる。
会議室に案内されて待っているとミキツタが後からやってきて、ここの説明を咲にする。
湖は盾で守り担当者以外は水には近づけないようにし、トーマというナミさんの息子がここの界膜の管理をしているのだという。
界膜は知っていたが、盾の存在は知らなかった。
そもそも貯水池は森に囲まれているから普通の人は近づけないのに、さらに湖に守りがかかっているとは随分と大袈裟だな。
すると背の高い青年がノックもせずに部屋に駆け込んできて、南で界膜の出入りがあったと叫んだ。
トビーに似た顔つきをしているのでトーマだろう。
ナミさんはちょうど良い機会だから、この案件は咲が対応したら良いのではと言い出した。
自作自演ではないよな、と疑いたくなるような流れに俺は睨み返すが、どうやら人の出入りは本当らしい。
無言の圧力はナミさんに無視されてしまった。
咲は各天界への連絡と南の出入口の見張りの強化をナミさんに頼む。
いい指示だ。
今できることはそれくらいだな。
やれるなら街の聞き込みも入れたいが、黙っておく。咲の練習なのだ。
樹の館に戻るついでに弁当を買って連絡を待つ。
腹も満たされ、冷静になって見てみると、心なしかナミさんが落ち着いているように感じた。
何よりトビーがここに居ないのは昇華の懸念がなくなった証拠ではないか?
少なくとも予感がなくなったに違いない。
よかった。
この件はナミさんと一緒に対処できそうだ。
トビーにも情報収集を頼んだと言っていたのでやはりこの人が居てくれると安心だ。
しばらくすると西天界から出入りがあったと連絡が来た。
南の出入口を監視していなかったはずはない。
でも新しい樹が来て少し気の抜けたところをつかれたのだろう。
瞬時に判断できるのは相手もなかなか手強い。
様子を見に西天界に行ってくれないかというナミさんの提案に、西天界に行くならレイも呼びたいと咲が呑気なことを言い出した。
まだ何も分かっていないが、のんびり旅にならないことだけは明らかだ。
下手すればこれから危険なことが起こるかもしれない。それなのに友人を巻き込むのはどうかと思う。
ただ、これを逃したら次いつ他の天界に誘えるのか分からないので、いい機会だと咲は言い出したのだろう。
まあ、咲自身、危機感がないのだろう。
ナミさんは俺を見て咲を止めなさいと訴えてくるが、ダメなら止めるのはナミさんの仕事だろう。
それに俺はそんなに危ないことにならないのではないか、と思っている。確実に危ないのであればそもそも咲を行かせたくない。
エーハルーンの反応を見る限り西天界ではまだ何も起こってはいない。
それにナミさんに西天界への侵入の連絡を入れてきた時点で、エーハルーン自身はシロの可能性が高い。
アイツは地上から来た奴じゃないから、きれいな魂の持ち主だ。南天界の顛末を見て、シャドーもどきを擁護するとは思えない。
だとするとエーハルーンの家族が怪しい。
すでにエーハルーンが身辺調査を始めたはずだから、そのうち明らかになるだろう。
まあ、願わくばその結果を待ってから行きたい。でも急がせる理由がナミさんにはあるのだろうか。
ナミさんは、レイも地上の人なので他の天界に行くのは問題ないと許可を出した。
無責任な…
止めなかった俺が悪いとでも言いたげだ。
ナミさんは行かないんだろう?
面倒なことになりそうだ。
咲は嬉しそうにレイに風電話に伝言を残し返事を待っている。
レイが断ってくれるといいが、土がソワソワしているとか言い出す奴だ、土の素材を扱う西天界は行きたいだろう。
北天界ならなんとか回避できたかもしれないが、場所が悪い。
一人悪態をついているとカヅキがトビーと帰ってきた。
リノさんの始めた放課後保育に行くはずだったのだが、説得できなかったとトビーが謝っている。
優しいのはナミさんにだけかと思ったら、トビーは子供にも甘いらしい。
カヅキが目をキラキラさせて咲に話しかける。
「よ、咲。元気か。咲はこれから先オレのことを支えてくれるんだろ。結婚しようぜ。」
まさかの爆弾はこいつだった…
咲は、新しい天界へ行けるのが楽しみです。
南天界がどうにかなったのであまり警戒していません。
カヅキの爆弾に全ての思考回路を持っていかれそうになるアンセ、頑張れ。




