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40. 新しい一歩

ドアがすっと開いて警戒していると顔を出したのはレイだった。


そうだった、咲を心配してくれる奴はここにもいた。


レイは、第三者から見た咲の立ち位置を…咲はナミさんの後継者として認識されたという事実をはっきり伝えた。


俺はもう咲に近すぎて見えていない部分もあるし、無意識に咲を守ろうとして伝えられないでいた。


咲はレイの言葉に真面目な顔になって、それから泣き出した。

「大丈夫、って必死に自分に言い聞かせてたの」と咲はレイの胸の中で甘えていた。


突然の咲の変貌に俺がついていけない。


レイには大丈夫だと咲に言ってないよね、と詰め寄られてドキッとする。

大丈夫とは言っていない。

でも咲の不安を汲み取ってやれなかった。

前にもそんなことがあったのに…


反省していると咲が笑い出した。

泣き笑いしている咲に俺とレイの声が重なる。


「誰のことを思って怒っていると!」

「誰のことを思って傷ついたのか!」


咲が笑顔になって安心した。


飯にするか、と冷蔵庫を開ける。


俺とレイはあっけに取られる。

咲の家の冷蔵庫には何も入っていない。


ため息が重なる。


食材を取りに行こうとしてレイに止められる。


外には人だかりができていて、出ない方がいいと言う。


なぜだ?

俺が運んでいるのをついて来ていたのか?

必死過ぎて気が付かなかった。

窓の隙間から見るとたくさんの人がいてこちらを見ている。


「ここでアンセが出ると変な憶測を呼ぶからさ、私が出て行って食材持ってくるよ。」

そう言って席を立つ。


「…もうさ、さっさと結婚しちゃいなよ。めんどくさくない?」

突然のレイの提案にそれもいいなと思う。


咲の頬を撫でて見つめるとレイに咎められる。


どっちなんだ!


レイが今結婚したらと言ったんだろう。


睨み返すと「お腹すいた!」と咲が叫ぶのでレイは首をすくめると、材料を取りにいった。


レイも料理が上手いので二人で準備していると、一人手持ち無沙汰の咲が外を気にしている。


見ない方がいい。

咲のことを知らない奴らのことなんか気にすることはない。


レイもそれに気がついて、机の準備をするように咲に言う。

咲は振り返りながらも、カトラリーを用意して皿を出すとどんどんと料理が並んでいく。


確かに腹減ったな。

なんだか長い一日だった。


南天界に行っていたのもあって久々の集まりだ。

話すことに事欠かない中、レイが開口一番にしたのはソワソワする土の話だった。

咲のことを気遣っての話題だと思うが、もっと他の話題はなかったんだろうか。


土がそわそわするって、なんだ?

レイまで咲みたいなことを言い出した。


樹々よりも想像できないが黙っておく。

咲もそう思っているのが顔に出ているので十分だ。


それから咲の行方不明の話になって、レイが俺を非難する。いやいや、咲が風電話に応答があったらなんの問題もなかったはずだ。


行方不明になってからの樹の後継者への展開が読めないとレイは言いつつ、ナミさんもそろそろなんだね、と悟っている。

こちらから話さなくても、察してくれるので助かる。


咲はその話で思い出したようにカヅキの心配をしている。

レイが俺に釘を刺してくる。


言われなくても咲のことは俺が守る。


それにしてもレイの手腕には唸らされる。


自分の不安を吐き出させそれでも相手を心配する気持ちも受け止めている。

咲は帰ってきた時よりもスッキリした顔になっている。


悔しいがレイが来てくれてよかった。

藍の時間近くになると流石に表も静かになったのでお開きして家に帰った。


これから大変になる。

秘密裏に練習がてらナミさんに付き添うつもりが、もうどこに行っても後継者としての看板を背負って歩くことになる。


あまりにも心の準備をする時間がない。

多分明日の朝もたくさんの人が集まってくるだろう。

樹が三人もいるなんて異常事態でしかない。

しかも樹の館に住んでいない咲は、注目の的だ。

内側から鍵をかけられるようにしておいてよかったと今更思う。


翌朝、外を見るとすでに数人が咲の家の前に来ていた。

家を見て何が楽しいんだ?


さっさと準備をして咲を迎えに行こう。

いや待て。

変な誤解を招くとレイが言ってなかったか?


悩んでいる間に野次馬がぐるりと咲の家を囲んでいるのが見えたので、飛び出した。


野次馬を押し除けてドアをノックする。

応答がないので声をかけてからドアを開けると咲が倒れ込んできた。

慌てて抱き止めながらドアを閉める。

腰が抜けている咲の体勢を整えているとドアを叩く音がしてそのまま開かれる。


誰だ!待て待てドアを開けるな!

ドアに寄りかかっているのでこのままだと咲を守るので精一杯だ。


ドアに開いて咲を抱き止めたまま倒れてしまうとレイが上から覗き込んできた。


…考えることは同じだな。

他のやつじゃなくてよかった。


咲が立てるか心配していると、咲が顔を上げて「行こう!」と言うのでレイと二人で咲を支えるようにして外に出た。


レイは咲を分かってくれる親友です。いつも励まされています。

アンセはそれにヤキモチ。



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