39. 光
「さっき…最後にナミさんにお礼言っておけば良かった。まさかこんな急に居なくなるなんて…昇華するって突然なんだね。」
咲が後悔している。
そっと後ろから抱きしめる。
咲は悲しんでいるが、あの光は昇華とは少し違う気がする。
最初から見ていたわけではないが、光が空から降りてきたように見えた。昇華だとしたらそろそろ光が空に登って行ってもおかしくないが、そうは見えない。
とすると…
仮説が正しいのか分からなくて口にできない。
周りも昇華にしては光が…と言っているが誰も確信はないようだ。
群衆が騒がしく盛り上がっている中、向こうから難しい顔をしたトビーがやってくる。
ナミさんは昇華していない。
ナミさんが昇華していたらトビーはこんなところにいない。
「これからどうするのですか。」
尋ねるとトビーが困ったように笑って咲を見た。
咲に委ねる気なのか。
それは無理だな。
咲はまだ直前の自分の行動を後悔していて、ナミさんと最後にご飯すればよかったと嘆いている。
すると「明日は一緒にご飯しましょうよ。」とナミさんがトビーの後ろから現れる。
やっぱりな。
咲はオバケでも見たかのように目をまん丸にして口をパクパクさせている。
そしてしばらくの間があって、咲は大声で叫んだ。
やれやれ。
一人だけ時差が酷い。
中央の光は新しい樹が来た時の光だとナミさんもトビーも思っているようだった。
咲の嘆きを聞き流して、中央の光を見ていると真ん中に人影が見えてくる。
あれは…
思ったよりもかなり小さく見えるのはここからの距離のせいなのか?
より鮮明に人影が見え始めるとナミさんが、訳の分かっていない咲を連れて光の中心に向かって行った。
あれは子供だ…
新しくやってきたのは小学生くらいの男の子だった。
ナミさんもかなり動揺したに違いない。
でもそうとは感じさせない演説でカヅキと名乗った少年を迎えた。
「咲の中継ぎ期間は長くなるな。」
トビーが呟いた。
間違いない。
あの子がいくつか知らないが、少なくとも十年はかかる。
次の何百年を受け継がなくてもいいという確証は得られたが、数ヶ月で済むことはなくなった。
大いなる力はどうしても咲に樹をやらせたいらしい。
なんだって子供なんか連れてきたんだ?
咲が居なかったらどうするつもりだったんだ?
可愛い子には旅させろってことなのか。
咲は、いまだに状況を飲み込めていない様子で、ナミさんとカヅキのやり取りを見ている。
そんな中、突然自分が中継ぎとして紹介されて鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いている。
なんの打ち合わせもなしに咲を指名するナミさんもナミさんだが、呼ばれてついて行った時点で想定できていない咲も咲だ。
当然ながらジュース屋としてしか知られていない咲がいきなり樹の中継ぎと言われても、広場の誰も納得しない。
どうするかなと思っていたら咲は小声で唄い出した。
困ったらとりあえず唄、は南天界での学びだろうが、ここでも通用するのだろうか…
樹々も咲を応援しているのだろう。俺にもはっきりと聞こえる声で咲に合わせて唄い始める。
俺もトビーも咲を応援しようと唄に合わせて声を重ねる。
残念ながら、南天界のようにはいかなかった。
数人の声が重なるだけでしんとしている。
強い風が吹いて、さあ唄おうと樹々が誘っているが、それに応える者は少ない。
南よりもずっと主天界の奴らの方が樹々との距離が遠いのだと思わずにはいられなかった。
唄っている途中で別のざわめきが広場に広がった。
みんなの視線が一点に集まっている。
時計台の花が全て咲いていたのだ。
今まで時計草の狂い咲きなんて一度も聞いたことがないのに、時計台の時計草には七色の花が全て咲いていた。
咲の唄のせいだな。
応援しすぎておかしくなったんだろう。
でも住人からしたら、咲が起こしたとんでもない異変に違いなかった。
これを吉と捉えてくれるのか凶とされるのか…
明らかにみんなの咲を見る目が変わっていた。
咲がこそこそとナミさんに何か話している。
するとナミさんがにっこりと笑い広場に向かって宣言する。
「皆さん、もう一度宣言します。咲をカヅキの補佐として私は指名します。」
おおおと歓声が上がって、咲は正式に樹の中継ぎになった。
その後は人に囲まれてもみくちゃになっている咲を救出するのに苦心した。
受け答えも大変なのだろうが、何より物理的に押しつぶされそうになっている。倒れたら大変だ。
抱きかかえるようにして咲を連れ出して家に帰った。
明日から咲はもう個人ではいられない。
なのに咲の心配はカヅキについてだ。
本人すら自分を二の次にしているから、俺以外咲を思ってやれる奴はいない。
トントン
ドアをノックする音がする。
早速、野次馬がきたのか…




