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33. ネコの奇跡

どうするのか。

とりあえず咲が余計なことをしないように見守る。


すると海で助けた奴が声を上げる。


自分はその被害にあった一人で、グナヤンムーのしたことは許せない。そう前置きしてから話を続ける。


「でも樹代理はそれでも私を助けてくれました。樹代理の知り合いも一緒になって、私を必死に助けてくれました。あの時のあの場の人達が自作自演で、だったなんて微塵も思えません。出来ることを全力でやってくれました。私を救うために倒れてしまった人もいました。」

倒れてしまった人…ハルのことだ。

ハルは興味深そうに目を細めて話を聞いている。


「私は、樹代理がしたことは間違っていると思いますし、怒りも覚えます。でも隠すことも出来たのに事実を公表してくれたんです。私は樹代理を信じてこれからもやっていきたいと思います。」

グナヤンムーに否定的な空気が強い中、自分も被害に遭った身で、好意的な意見を述べるのは勇気がいったに違いない。


グナヤンムー以外の人からの言葉は少しだけ場の雰囲気を変えた。

もう少し一押し欲しい。


樹の力ってなんなんだ、と根本的な疑問が群衆で問われ始める。


何を考えてか、グナヤンムーたちは何も返さないでその場を放置している。

収拾つかなくならないといいが。


しばらくして口を開いたかと思ったらさらに混乱するようなことをグナヤンムーが言う。


「他の力はここで開示できるものではありません。でも…私の妹が、その力を継いでいます。」

聞いていると、心配を通り越してイライラしてきた。


ウジウジしてないで、続投させて欲しいと言えばいいじゃないか。


自分は本当のことを話してスッキリしているかもしれないが、群衆の間には混乱が増している。


ツグノが「自分には樹の力はあるが、樹代理になる気はなく、グナヤンムーを支えていきたい」と言うと、火に油を注いだ形になった。


グナヤンムーへの不信から始まり、樹代理の条件、誰がやるべきか…

群衆の不安がどんどん募っていく。


咲が動いた。

慌てて咲の口を押さえると、顔が小さくて口と一緒に鼻も押さえてしまったらしく隣でもがいている。

咲は苦しそうに暴れて俺を容赦なく叩き、ハルはびっくりしてこっちを見ている。


咲が怒っているが、今俺たちが介入するところじゃない。


ツグノがグナヤンムーの続投をお願いすると、グナヤンムーがそれに反論して自分は降りて補佐として支えるから、ツグノが樹代理をするべきだと言う。


この話を何度もしたのだろう。

兄妹たちの曇った顔がそれを暗示していた。


兄妹の中で答えが出ないまま発表に挑んだ。

おそらくグナヤンムーはなんとしても退陣すると言って聞かなかったんだろう。

兄妹たちはそれを受け入れられなかった。

だから住民に是非を問いたいのだ。


俺としてはグナヤンムーの提案は良い落とし所だとは思うが、現実そう上手くは行かないだろう。

残念ながら、グナヤンムーよりもツグノの方がよっぽど樹代理の表だった仕事に向いていない。


「住民はどう答えるんだろうな。」

思わず声に出る。


咲は頷く。


「グナヤンムーさん、頑張れ!」

油断した。


咲はこの騒然とした群衆の声に混じると思って応援したつもりなのだろうが、間の悪いことに一瞬の静けさに咲の声が広場に響いた。


群衆が一斉にこっちを見る。

咲に手を伸ばそうとして自制した。


咲が万が一にも樹になるかもしれない事を考えると、これはいい練習になる。

いつも俺が止めてばかりで気がつかない自分の責任をここで果たしてみる良い機会だ。


失敗したら回収してやるから安心しろ。

目で伝えると背中を押す。


咲は挙動不審に辺りを見回し、人と同じくらいの大きさのある葉っぱに助けを乞うている。


ここでも変な目立ち方をしていて、咲を見て店で踊ってた人だとか、砂浜で助けてくれた人だと声がする。


やっぱり難しいか…


前に出ようとするとどこからか音楽が流れてくる。

聞いたこともない、この場の雰囲気とはほど遠いテンポの良い曲だった。


咲は知っていたようで、唄い出した。

半ばヤケになっているようにも見えた。

始めは聞こえなかった樹々の声が、咲の声に重なって聞こえてくる。


この曲は南天界では有名なのか、一人二人と声が重なりいつの間にか大合唱になっていく。


…暖かな光 豊かな海と生きる先に

勇気を音に 希望を踊りに

我らは一つ いつまでも

行きつく先に 幸在らんことを


船出のような唄だな。

もしこれがグナヤンムーの再出発だとすると、とても幸先の良い唄に聞こえた。


それにしてもさっきまで沈黙していた群衆はもはやお祭り騒ぎで、どうやって収めるのか俺には見当もつかない。

咲を止めなかった俺も悪いが、この状況をそのままにしたグナヤンムーにも責任がある。


何よりきっかけを作り出した当の本人である咲が一番責任を感じているように見えるのは成長だ。

自分の行動の結果を見届けるべきだ。


しかし、どんどんと盛り上がっていく群衆を見ているとどうにもならない気がしてきた。


あとはもうグナヤンムーたちに任せるか…

グナヤンムーたちがいた場所に目をやると、ツグノと二人の姿が見えない。

どこに行ったんだ?


目を凝らして探すと、グナヤンムーとツグノが群衆の真ん中で踊っていた。


これは…

誰が終わらせるんだ…

終わらせる気はあるのか?


咲と同じいや、それ以上に斜め上を突き進んで行く南天界に不安を覚える。


もう、俺は知らん。

好きにしてくれ…


こうなったら俺が回収するべき範囲を超えている。

呆れて見ていると、ハルも同じように、なす術なしといった顔で疲れたように見える。

ハルならこんな風に終わらせないだろうな。


散々盛り上がったあと、グナヤンムーが大きな噴水を上げると水飛沫がキラキラと輝いて虹ができる。


誰かが「共にもう一度、樹代理と始めよう!」と叫ぶとうおおおと、大歓声が上がった。


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