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32.決断

北の森に着くと樹々がリズムに乗って揺れている。


間違いない。

咲はここにいる。


なんで来たんだ?

願掛けでもしに来たか。


しばらくすると、風板を持った咲が軽快に降りてきた。


この様子だと何も考えてないな。


「盛大に唄ってたな。」

唄が聞こえていたのかと咲が驚く。


俺も驚いた。


どうしたら樹ではない奴らまで樹々の声が聞こえるようになるのか。

歌詞まで聞こえた者、調べだけ聞こえた者と、色々あるようだがみんな何かしら感じ取っていた。


しかも俺以外…


咲は俺だけ聞こえなかったことを樹々に抗議している。


まだ償いが足りないか。

償いって何すればいいんだ…


でも樹々曰く、樹々の声が聞こえないのは俺の気持ちの問題だと言う。


聞きたい、ではダメらしい。

それとも樹々の声が聞こえたら、もう少し咲を知れるかも…守れるのではないかと言う下心がダメなのか。


「ほら行くぞ。咲が一人で風板に乗るなら、そろそろ出ないと遅刻だぞ。」

ともあれそんなことを考えている時間は今はない。


広場でグナヤンムーたちの結論を聞こう。

のろのろと風板で進む。

歩いた方が早いが、咲は満足そうだ。


樹の館に戻ると案の定、樹の奴らが咲に群がる。

なんで唄ったのか、あの唄には意味はあるのかと聞いているが、みんなの期待するような理由なんて、咲からは出てこないのは最初から分かっている。


なんとなく樹々に会いたくなって、そしたら唄うことになった、そんなところだろう。


咲は露骨に話題を変え、今日の召集はどうやって住民に知らせたのかと尋ねる。

しかしそれはそれで、注目を浴びる。


天界全土に連絡する電話を使えば簡単に住民全員に連絡できるでしょう?と返されて「南天界には便利な連絡方法があるのですね。」と感心している。


咲の家の居間にもあるだろうと指摘すると、ハルがすかさず「咲さんの家に入ったことがあるのですね」と言う。

慌てて俺が咲の家を建築したと名乗る。


ここでは、男女がお互いの家に出入りするのは外聞が良くない。


帰ったら使い方を教えておこう。


発表前に早めのランチを摂ろうという話になってグンナヤムーとツグノ以外のみんなで、咲おすすめのレストランに向かう。


ツグノに教えてもらったというレストランは見たこともない植物が並んでいて、店の真ん中に池がある。池には大きな葉っぱとテーブルらしきものが置かれている。


咲が池の前に来ると、大きな葉っぱがにゅうっと出てきてそれに座る。


え、葉っぱに座るのか?

咲は小柄だからいいが俺は流石に無理だろう…


俺以外はさっさと受け入れて迎えにきた葉っぱに座っていく。


俺を迎えにきた葉っぱは、咲の葉っぱの半分くらいの大きさしかない。


これに座るのか…

池ぽちゃのオチが待っているとかないよな…


恐る恐る座ると葉が少したわんだ気もするが沈まなかった。


咲より葉っぱが小さいと言うと、咲は「それでも支えられてすごいよね」と感心している。

どっちの味方だよ、と返したらお尻が跳ね上がる。


わ、やめてくれ。

机の端をぎゅっと掴む。


それを見た咲が、俺が葉っぱと仲良くて嬉しいと、喜んでいる。


どうみたら俺たちが仲良しに見えるんだ。


ご飯の間中、落ちないかとヒヤヒヤしながら食べるハメになった。


早くこの葉っぱから降りたい。


ふと話が途切れた瞬間に、今日の話をしている街の奴らの声がする。


「今日の召集は、樹代理のめでたい話かな。」

「樹代理はいつも助けてもらっているから支えてくれる人が見つかるといいな。」

「誰だろう?当ててみようよ。」

なんだグナヤンムー人気じゃないか。

これなら大丈夫そうだ。


すると突然、店中から音楽が鳴り出す。

音楽隊が一箇所で音を奏でているというよりも、音が色んなところから聞こえるのだ。


見渡すと植物がリズムを奏でて揺れている。


もしや…と思ったら咲が唄い出す。


ハッキリと歌詞が聞こえるわけではないが、懐かしい透明な声が頭に響く。

…樹々の声だ。


咲は店のみんなにも声を掛けて一緒に唄おうと誘う。


南天界の奴らはノリがいい。

あっという間に大合唱になる。

なんなら腕を組んで揺れている奴らまでいる。


最後は店の全員で唄って踊って盛り上がり、気分よくグナヤンムーの発表を聞きに行く。


ところが、挨拶に出てきたグナヤンムーとその兄弟の顔色が悪い。


大丈夫か?

昨日、最後にみんなで話した時は前向きに終わった気がしていたが、その後の家族会議で何かあったのだろうか。


「南天界の皆さん、お忙しい中ありがとうございます。今日は皆さんに謝りたくて集まっていただきました。」

グナヤンムー、話の入り方が良くない。

もっとうまい言い方があるだろうに不器用な奴だ。


まあ、始まってしまったものは仕方ない。


俺はここから見守るしかできない。

チラリと咲を見ると手をぎゅっと握り今にも飛び出しそうだ。

グナヤンムーより咲を止めないと大変なことになりそうだ。


グナヤンムーは、自分は樹の声が聞こえるが、樹として必要な力がなく、今回の騒動の種を蒔いてしまったと話す。


嘘ではないが、全てでもない。

正直者だが、必ずしもそれが正しいとは限らない。


取り繕うのが地上から来たものの浅はかな悪知恵とするならば、樹にはそれが必要だと思う。


まずい!

咲が飛び出そうとするのを制止する。

ハルと手がぶつかる。


流石だな。

短期間で咲をよく観察している。


咲が何かを言い出す前にツグノが反論する。


「兄さん、なんで一人で背負うとするの!皆さん、兄の話は嘘ではありませんが、全てでも有りません!」

その通りだけど、どうやって説明するんだ。

既にグナヤンムーが前段で余計な誤解を生み出してしまった。


ツグノは必死に今までのグナヤンムーの努力を住民に訴えるが、言葉に説得力がない。


すると一人の女性が声を上げる。


「あの…私の息子はどうなったのですか。多分その石のせいで荒れ狂い、隔離されたはずです。その後帰ってきていません。」

ああ、あの消滅した魂の親御さんか。


説明が難しい。


魂は消滅したとグナヤンムーは正直に伝えるが魂は消滅することもある、と教えられていない住民らには昇華したと捉えられたようだった。


天界での生の最後は昇華しかないとされている。


実際、交通事故とか、病気とか、殺人とかそういった終わり方はないし、昇華以外の終わり方を学校では習わない。


だから魂が消滅したと言われて、昇華したと思ったのは救いかもしれない。

どうせ戻らないのなら、消滅は知らない方がいい。


なのにグナヤンムーはここでも正直に魂が消えたと話して、女性を気落ちさせる。


「…私は樹代理を降りようと思っています。」

グナヤンムーの突然の宣言に辺りは騒然となった。



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