30.俺たちの辿り着いた先
「もう!好きじゃダメなの?好きだから一緒に居たいじゃダメなの?私すごく考えたんだけど一緒に居たい理由、好きな理由なんて分からなかったよ。カッコいいから?と思ったけどハルも結構イケメンだし、私の事なんでもお見通しですごいから?でもちょっとそれは怖いし、実は優しいけど分かりにくいし…好きな理由って何?」
突然、咲が捲し立てる。
なんで怒られたのかさっぱりだが、咲なりに紆余曲折して考えてくれたのはよく分かった。
何より、ずっと聞きたかった「好き」と言う言葉が胸に刺さる。
「何で怒られてるのか分からないし、全然褒められてる気がしないけど気持ちが聞けて嬉しいよ。」
咲はポカンとしている。
怒りの矛先を失い、なんと答えたらいいのか分からないと顔に書いてある。
好きと聞きたかったと、伝えると明らかに、「前に言ったし」と無言で返してくる。
言われていたらこんなに話になんてならなかった。
咲と話していると、「好き」の言葉が反芻されて俺の顔を破顔させる。
「嬉しくて恥ずかしいからそんなに見るな。」
じっと見てくる咲から顔を逸らす。
そんな俺を見ようと咲がしつこいので、掴まえて抱きしめる。
俺の顔を見られないし、咲を感じられて一石二鳥だ。
咲は俺の胸の中でもがいている。
なんて愛らしいんだろう。
そのうち俺に身を委ねてきたので、いよいよいい感じになったのかと思ったら咲は寝ようとしていた。
おいおい…
「明日、かならず目覚めてくれよ」
そう言って咲に布団をかけて部屋を出た。
部屋に戻ってから思わずガッツポーズをした。それから布団の中で叫んだ。
ベッドで大の字になって天井を見つめる。
夜なのに世界が鮮やかに見える。
俺の世界はこんなに咲に依存しているのか?
なかなか寝れないのでシャワーを浴びて、明日話すべき内容を考える。
体は疲れていたようで気づいたら寝ていた。
時計草の赤い花が咲き、出かける準備をすると咲の部屋に行く。
「咲、朝だぞ起きているか。昨日鍵をかけてないだろ、開けるぞ。」
部屋に入るとまだベッドでゴロゴロしてむにゃむにゃと何か言っている。
まるでネコだな。
のっそり起き上がり目を擦っているのが可愛くて思わず抱きしめると思いっきり突き飛ばされる。
びっくりして咲を見ると怒っている。
咲の言う恋人ってなんなんだ?
とりあえず突然触れることは許されないらしい。
咲はシャワーを浴びてくると部屋を飛びだしていった。
戻ってくるとスッキリした顔で部屋に入ってきたが俺を見るなりまた怖い顔をする。
昨日の話は夢だったのか?
全く恋人らしい時間のないまま、一緒に朝飯に出かける。
「もう、なんか変だよ、アンセ。いつも通りが良い。」
恋人らしい時間はないが、どうやら俺は今までは心に留めていた、愛おしいと言う気持ちを口にしていたようだった。
まあ、そんなのはそのうち咲も慣れるだろ。
咲と二人で朝飯と思っていたらツグノがやってくる。
間が悪い。
「仲直りしたんですね。」
仲直りというか、ようやく噛み合ったと言う感じだが、外から見ていたらただの痴話喧嘩だったのかもしれない。
ツグノは、昨晩は南天界について初めて兄妹全員で腹を割って話せたと喜んでいた。
ここから先、俺たちができるのは見守るだけだからな。
南天界を守っていく樹の子孫が団結できたのなら良かった。
三人でいつもの会議部屋に戻る。
今日はハルの監視も要らないので思う存分咲を守ろうと思う。
咲は迷惑そうだが、前回のこともあるから用心に越したことはない。
朝一の議題は昨日予告した俺たちが天界に来た経緯の話だ。咲はまた何か言われるに決まっている。
俺たちは出生からして普通ではないんだ。
早速、話を振られて、俺たちは正式に樹として天界に呼ばれたのではないと伝える。しかも咲や俺の他にも三人いることを伝えるとみんな息を呑んだ。
ついでに博士は樹として正式に呼ばれたが、引き継がなかったことを話す。
博士については咲も初耳なことばかりだったようで驚いている。
一通り話すと、みんなが気になったのは、博士のことではなく、咲が樹として知られておらず水として生計を立てていると言うことだった。
まあ、あれだけ樹々と仲良くやってて咲が樹として知られていないのはナミさんと樹々のおかげだ。
咲は政治には全く向いてないからな。
樹として認知されると大変だろう。
今回は咲が攻められないように俺が矢面に立つ。
俺にならなんでも聞け。
残念ながら俺には興味がないらしく質問が全くこない。
最後には、俺たちみたいなやつが二度と生まれないように協力してほしいと話を締めくくる。
ふう、まあ及第点だろう。
あとでナミさんから報酬はしっかりもらおう。
「ではここから自由時間でいいですかね。」
グナヤンムーに一言言って席を立とうとすると、海に誘われる。
咲は目をキラキラさせていて行く気満々だ。
仕方ない、付き合うか。
みんなで海に向かうとエーハルーンは子供のようにはしゃいでいる。
今までグナヤンムーはここに誰も連れてこなかったのか?
浅瀬では広く、深海に進むにつれて道幅が狭くなって行く海の壁の道を歩いていく。
魚の数は海が深くなるほどに増えいく。
グナヤンムーとも顔見知りの魚もいるようで戯れている。
魚がわざと壁から口を出したり、体を壁スレスレに晒してグナヤンムーに撫でてもらっているのが見える。
それを愛でるグナヤンムーは樹々と咲の関係を思わせる。
その持てる力が大きいほど、力を行使する相手に対して愛着でも生まれるのだろうか。
でも俺は火の力は主天界では三本の指に入ると思うが、炎に全く愛着はない。
…人によるのかもしれないな。
咲も同じことを思ったのか、妙なところでグナヤンムーとの絆が深まっている。
深海の目的地に着くと、グナヤンムーがドーム状に空気を残して海を閉じるので手を繋ぐようにと言う。
「暗くなってお互い見えなくなるとぶつかって危ないですからね」と補足する。
自然と咲と手を繋ぐ。
頭上まで海の水で閉ざされると、グナヤンムーの言った通り急に寒く真っ暗になって何も見えない。
握った咲の手の温もりだけが人の存在を感じさせる。咲がぎゅっと手を握るので、握り返す。
すると空にいや、海の中に光が点滅しているのが見える。
深海の魚には光る種類がたくさんいて、暗くすると見えるようになるのだとグナヤンムーは話した。
地上で言う、チョウチンアンコウ的な魚ってことだろう。
…結構いるな、チョウチンアンコウ。
感心していると「まるで星空のようですね。」と咲が呟く。
頭の中に浮かんでいたチョウチンアンコウの大群は消え、急にロマンチックな情景に変わる。
言われてみると宇宙の真ん中にいるような寒さと静けさの中に無数の光だけが静かに瞬いていた。




