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29.南天界の選択

咲もツグノもグナヤンムーに遠慮して踏み出さないので、俺が切り出すことにした。

このままでは曖昧になって次の犠牲者が他の天界で出るかもしれない。


「俺が聞くべきなのか分かりませんが、先程シャドーが増えると樹が来ると叫んでいらっしゃいましたよね。今の話と少し矛盾を感じるのですが。」

その言葉にグナヤンムーは顔色を変え、ツグノは自分の兄をじっと見つめた。


「僕は…僕は分かっていて目を瞑っていたのです。」

グナヤンムーはそう言って言い訳を始めた。


樹の力がないことに対する自信の無さがこの事態を招いたのだと言うが、住民にはたまったものではない。


樹である自覚してもらおうと、口を開きかけるとツグノが静かに言った。


「…兄さん、あのね、実は今までもシャドーが突然増えておかしくなる人は何人も居たのよ。でも、私達はシャドー関係は出来る限り兄さんには知らせないって兄姉の暗黙の了解みたいなのがあって…内緒で解決してきたの。」

ツグノは気付いていたのか。


もしかしたら、グナヤンムーが関係していると感じていたのかもしれない。

だからこそ秘密にしてきたのだ。

違うと信じて…


「ツグノはもしかしてシャドーに喰われた果てに魂が消滅することは知っていたのか。」

ツグノは答えなかった。

グナヤンムーは項垂れるとツグノが樹代理をするべきだと言った。


まあ、その方が能力という意味では正解なんだろうが、適正もある。


咲がいい例だ。

力はあるが、樹にならない方がいい。


ただ、誰が南天界の樹になるべきかに関しては、口出すことは出来ない。

それはグナヤンムーたちと住民が決めることだ。


エーハルーンは自分は樹代理だが長子ではないし、樹の仕事を分担できるならありがたいと言った。


ハルも長子だからという理由で樹を継がせるつもりはないと話したついでに、自分はまずは伴侶探しからだと言って咲を見つめたのを見逃さなかった。

咲も満更ではなさそうに見える。


それに腹が立って我に返る。


今、誰が天界を継ぐのかに話はなっているが、この事態の本題はそこではない。


グナヤンムーがシャドーもどきを使って目の前の穢れを作り出した。

博士の話なんて絶対怪しいのに、天界に良かれと思ってやってしまった。


天界の奴らは根本的に性善説であり、相手を信じてしまうから仕方ないのかもしれないが、だからこそ危ないとも言える。


どうにかして警告しないといけない。


俺も地上から来た人間だと話せば、人為的に樹を呼び出せないことを分かってもらえるだろうか。

死ななくてもよかった俺たちは、博士のエゴでここにいる。

咲に会えたことは感謝だが、それとこれとは別の話だ。


「私や咲が地上から来た時のことを話そうと思います。」

そういうと俺と咲を交互に見てみんな言葉を失った。

ナミさんからは何も聞いていないようだ。聞いていたらグナヤンムーはこんなことをやらなかっただろうか。


…全く、今回は面倒な任務が多すぎる。


今は疲れているので明日話すと伝えると、勿体ぶるなと目が訴えてきたが、話すことを整理したいし頑として要求を撥ねつけた。


恋人乗りで咲を風板で連れて帰る。

咲に絶対に横になるなと釘を刺してから、クノーと弁当を買いに出る。


さっきの対応で俺もへとへとだ。

でも急がないと間違いなく咲は寝る。

今寝たら起きない気がする。


案の定、部屋に戻ったら咲はベッドに横たわっていた。


「咲!起きろ!」

「今横になったところだから大丈夫…」

顔色も悪いし、全然大丈夫ではない。


無理矢理起こして食いしん坊にクノーと弁当を見せるとさっきよりも、前のめりに座っている。


「ありがとう!ハルさんにもクノーを半分お願い。」

こんな時にハルの名前を出すな…


仕方なくハルの分を少し脇に寄せると、今すぐ必要だと思うからと促されて持って行くことになる。


咲をハルの元に行かせるのも癪だしな。

さっさと置いて去ろうとドアをノックするがハルの返信がない。


そっと開けるとハルはベッドに横たわっていた。


「どうしましたか…それは…?」

「咲から差し入れだ。机に置くぞ。じゃあな。」

ハルの顔を見ずに一秒でも早く去ろうとする。


「すみません、ここに…手元に置いてもらえますか。情けないですが動けなくて…」

クノーをベッドに置くとシーツに果皮の紫色が移るのでその辺のコップに入れてハルの顔の横に置く。


こいつの顔色も良くない…


まあ、当然か。

今にも消滅しそうな奴らを一人で六人も浄化したのだ。


「ありがとうございます。このクノーは本当はアンセさんが咲さんに買ったものですよね。助かります。」

ハルのそういうところが腹が立つ。

自分もかなり辛いのにちゃんと相手を気遣える。


嫌な奴だったら大手を振って咲から引き離すのにそれが出来ないじゃないか。


「…今日はありがとうな。咲も倒れないで済んだ。」

それだけ言ってから部屋を出る。

思ったよりも長居してしまった。咲が起きてる保証はないので急いで戻る。


今回は咲はちゃんと起きて待っていた。

口元が紫色になっているところを見るとクノーをつまみ食いしたようだが、起きているためだったことにしておこう。


咲は無言で弁当とクノーを食べた。

食べ終わる頃にはようやく顔色も良くなって、口をパクパクさせて何かを言おうとしている。


「あのさ、この前一緒に居たい理由は何かって聞かれていたじゃない?」

ん?なんの話だ?

俺は咲の気持ちを聞きたいと伝えたつもりだった。話がズレているが、一緒に居たい理由か…


聞きたいが、聞きたくない気もする。

止めを刺されたら立ち直れない。


「咲は、俺のことどう思っているのかって聞いたんだよ。」

一応聞きたかった質問も伝えておく。

もしかしたら少しはマシな答えが返ってくるかもしれない。


すると咲は突然怒り出した。


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