28. 博士の思惑に振り回される
翌日昼飯から帰るとグナヤンムーがなかなか帰って来なかった。
ツグノが顔色を変えて部屋に入ってくると助けて欲しいと頭を下げた。
どうやらシャドーもどきがひと暴れしたようだ。
みんなで現場の砂浜に駆けつけると酷い有様だった。
シャドーに覆われているだろうと思われる奴らは好き勝手に暴れ、助けようとしたと思われる何人かは正気を保つために、自分を叩いたり、頭を打ちつけたりしていた。
咲は大丈夫だろうか。
咲は考えるより先に体が動くタイプだった…
既にシャドーもどきにやられている人に駆け寄り浄化を始めている。
咲が他の奴らにやられないように周りを警戒する。
近寄るやつは容赦なく殴る。
それで目が覚める程度のやつもいれば、それで怒りを募らすほどシャドーに犯されているやつもいた。
とにかく俺は咲を守ることに徹した。
咲も先の戦闘でナミさんから加減を学んでいて、数をこなした割には気丈に見える。
そう思っていたら、咲がふらりと倒れそうになって、思わず手を伸ばす。
「病み上がり一発目だから無理はするな。もう少し一人当たりの浄化する分を減らしたらどうだ。少しは楽になる。」
咲はさらに加減してより数をこなす方に力を入れる。
何とか軽傷な奴らの対応が終わり、かなり穢れてしまった危ない奴らも、ハルが殆ど一人で終えようとしていた。
するとツグノの悲痛な声が聞こえた。
「兄さん!お願い!私を見て!!!」
先に来てシャドーもどきと向き合っていたグナヤンムーが、シャドーに飲み込まれようとしていた。
元々樹の力もないのに、シャドーに対応したせいだろう。
「早く…早くシャドーを増やして樹を呼び出すんだ。そして僕はこの偽りの役目を本物に受け継ぐんだ。それが僕の使命なんだ。さあ、増えろシャドー、もっと増えろ!」
ああ…
俺はグナヤンムーの罪を瞬時に理解した。
どうしてやろうかと思っていると、心配してグナヤンムーに触れた咲が衝撃で意識を失いそうになる。
「咲!頼む…俺といてくれ…心をここに残してくれ…」
祈るような気持ちで咲を抱きしめる。
また咲を…咲の意識を失うなんて俺には耐えられない。
今失ったら自制する自信がない。
シャドーに乗っ取られて他の奴らを攻撃しかねない。
咲は何かを言おうとしているが手が冷たくなって震えて動けない。
念の為と、用意していた数粒のクノーを咲の口に押し込むが、食べられなくて手で潰してからもう一度口に入れる。
少しでも咲が癒されるように…
手持ちのクノーを全てを食べさせると冷えた体を摩ってやる。
頼む…頼む…
咲も分かっているのか、必死に意識を保とうとして目をパチパチさせている。
咲が俺の腕を握ったように感じた。
少しは良くなったのか?
グナヤンムー含めて、重症者全員を浄化したハルがやってくる。
「咲さんを助けたかったなあ。」
ハルが苦しそうに笑う。
英雄みたいで腹が立つ。
いや、今日の功労者はまあ間違いなくハルなのだが…認めたくない。
咲がハルの言葉を聞いて泣き出したので少し離れた場所に移動する。
砂浜に腰を下ろすと咲の力が抜けて急に重たくなる。
「咲?!」
驚いて声を上げると、咲がかすかに口元を緩める。
良かった、まだ大丈夫だ。
思わずため息が漏れて脱力する。
咲の涙が止まり、少しだけ動けるようになるとグナヤンムーの側に行くと言うので移動する。
グナヤンムーの言ったことは聞き覚えがあった。
ずいぶん昔、博士が同じ事を言っていた。
…………
「…アンセくん、次世代の樹はいつ来るか知っているかね。」
「今の樹の役目が終われば、じゃないですか。」
どうでもいいことを聞くな。
「役目が終わる、つまり樹の力が尽きた時だよ。」
「浄化も有限でしょうからね。」
「その通りだ。シャドーが増えると浄化する機会が増える…そう言う事だよ。」
博士は何が言いたいんだ?
…………
まさか、そのためにシャドーもどきを作り配っていたとは…
それも恐らく俺の来るずっと前からだ。
俺は、冥土の土産に石をもらうまでその存在を知らされていなかった。
俺は博士の第二の試みである、樹を人為的に地上から呼び出す戦略のコマだったからだ。
協力させようとするのに、シャドーを作っていると知られるのは都合が悪かったのだろう。
博士のまいた種は時間をかけてじわじわと芽を出した。
恐ろしい。
こんな事態は南天界だけだろうか。
樹でもない限り他の天界を知ったり、ましてや行ったりすることはない。
見る限り、ハルもエーハルーンも関わらなかったようだが…
グナヤンムーは博士とのやりとりをみんなに話して聞かせた。
概ね予想通りだったが、博士自身が他の天界に出入りしていたとは思わなかった。
…これは南だけでは終わらないかもしれない。
グナヤンムーは石が本物の樹を呼び出してくれるものだと信じていたと言ったとき、咲が「本当に…」と言いかけてやめた。
俺にはなんとなく咲の言葉の続きも、途中でやめた理由も分かった気がした。
ちょっと考えればおかしいと思うだろう。
グナヤンムーは思考をやめたのか、それともただのバカなのか。
ツグノも何かを言いかける。
何かを知っているようだった。




