25. 暗い海の底の光
翌日は衝撃の連続だった。
まずはグナヤンムーの話だったが、そこで黒い石が披露された。
なんとシャドーもどきだった。
昨日安心したのは間違いだった…
他の人は、シャドーもどきを初めて見たように見えるが、もう自分の判断を信じるのはやめよう。
グナヤンムーは、街で暴れている人が出たという。
それはそうだ。
シャドーもどきが出回っているんであればそうなるだろう。
一体いつからこの石はここにあるんだろうか。
ちゃんと、穢れた人が浄化されていれば良いが…
でも、然るべき人に発見されているし、大丈夫か。
昼からは、俺と咲だけ呼び出されていたがまさかのその浄化のお助け要員だった。
「あの、もしシャドーの浄化でしたら私は力不足なのでハルさんが居ないと難しいと思いますよ。」
咲が申し訳なさそうに言う。
各天界に樹がいる意味を考えたら、もっと堂々と断っても良い案件だ。
この要請で、俺はグナヤンムーには樹の気配がないと初めて知った。
だから、その力を持つツグノが同席していたのか。
前提が色々崩れてきた。
ここは本当に大丈夫なのか?
主天界の二の舞に巻き込まれるのはごめんだ。
穢れた魂の行く末を話すとグナヤンムーは急いでハルに連絡を入れた。
呼び出されたハルも、咲に浄化をしろと言うので病み上がりで無理だと断った。
また寝込まれたら俺はもう無理だ。
なんとか諦めてもらって五人で、穢れた人を隔離している小屋に向かう。
隔離は、うまく行くのだろうか…
不安が残る。
途中で、管理している者も二人ほど加わり砂浜の小屋に着く。
家というよりは、小さな竜巻がそこにはあった。
そう簡単には小屋から出られないようになっている。
みんなで中に入ると誰も居なかった。
嫌な汗が流れる。
今朝は三人居たと言うが、まだ昼を少し回ったところだ。
そんなに短時間で三つの魂が、誰にも惜しまれることもなく未来永劫消えてしまったのか。
「帰宅していないか、家族に連絡してみます。」
グナヤンムーが最後の悪あがきを試みるが、希望は薄い。
返信を聞いているグナヤンムーの顔色が土気色になる。
おそらく誰も帰っていなかったのだろう。
誰も結果を聞かない。
ハルはこの事象が初めてではないのか、冷静にことの成り行きを見守っている。
肝が据わっているのか、それとも見慣れているのか?
判断しかねる。
事も次第によってはこいつも黒かもしれない。
もうここは諦めて、もう一つの隔離場所である深海を急ぎ目指すことにする。
もう嫌な予感しかしない。
でも、隔離場所へ行くまでの海の景色は言葉では言い表わせないほど壮大だった。
昔話のように、大きな壁のように開いた海の間をみんなで歩く。
奥に行くほどに魚も増えて水族館さながらだ。
きれいなのに、なぜだろう少し怖い。
段々と光の入らないほどに海の壁が高くなってきたからだろか。
無邪気に喜ぶ咲を横目にそっと指輪の向きを変える。
かなり深くに岩が見えてそこに人影が二つ動いている。グナヤンムーは水の壁を半ばを残したまま二人の様子を伺う。
「あと二人はどこでしょうね。」
ぼそりと、ご飯を運んでいた一人がグナヤンムーに呟いたのを聞いてしまった。
まずい。もうここにいる二人も危ない。
咲から視界を奪うと二人を対処するようにハルに伝える。
残念ながら片方はもう崩れかかっている。
間に合わなかったか…
もしこの状態で浄化されたらどうなるんだろう…
いや、知りたくない。
ハルも同じことを思ったのか、まだ人のなりをしている方に飛び掛かって浄化をする。
ハルも手慣れているが、相当力を使ったらしい。
がくりと膝をついた。
「何があったの?」
気が緩んだ隙に、咲が俺の腕から顔を出して尋ねる。
大きな瞳で俺に聞くので説明をすると、自分を責めているのが分かる。
「咲の考えていることはよく分かる。でも間に合わなかったよ。本当にあっという間でこの人を救うのもギリギリだった。」
咲が居てもいなくても、もう片方は手遅れだった。
疲れ切ったハルも俺に同意する。
それに納得したのか、咲はそれ以上何も言わなかった。
ハルの言葉は信じられても俺はダメなのか?
シャドーもどきの粉にやられたのか黒い気持ちが湧いてくる。
でも咲が痛がらないからこれは俺の感情なのか。
グナヤンムーや他のみんなは状況を理解出来ていないのか言葉を発しない。
そういえばここには四人いたんじゃなかったか?
「…そうですね。洞窟を見て来ますね。」
グナヤンムーが、諦めたように洞窟に向かう。
見なくても答えは分かっている気もするが、一縷の望みをかける。
何も言わずに出てきて首を振ったグナヤンムーに、かける言葉が見つからない。
みんな黙り込んでいる。
「あの、助けて頂いてありがとうございました。」
助けたやつが俺たちにお礼を言った。
止まった時間が動き出す。
そうだ、俺たちは魂を一つ救うことに成功したのだ。
無言のまま海を抜けて樹の館に戻る。
クノーを食べろと優しい咲がハルに伝えると思いがけない反応がハルから返ってきた。
「…良かったら僕の伴侶になってくれませんか。」




