25. 意識への作用
南に着くとグナヤンムーと言う樹代理が出迎えてくれた。
ここには風通路がないので風板が主流の移動方法だと言う。
咲は乗ったことがないので、俺と一緒に乗る。
ここは恋人乗りだろうと思ったら俺の前に背中を向けて立つ。
向きが逆だ、咲。
恋人は向き合って乗るもんだろう。
仕方なく、腕を回して咲が落ちないように支える。
「街はそんなに広くないので風通路はないんですよ。あると便利ですけどね。」
「俺は風板も好きですよ。小回りがきいて。」
「咲さんは、最近いらした樹だと伺っていますが…」
グナヤンムーが話を咲に振るが、樹々と話しているようで全く聞いていない。
代わりに俺が答える。
「最近とは言っても一年半くらい前ですね。」
「そうですか…では主天界には二人も樹がいらっしゃるのですね。羨ましい。」
樹の力があることと、樹であることは全く別物だと思うが流しておく。
「ここはどこに行かれても大丈夫ですが北の森だけは入れないと思います。今までも試みた方はいらっしゃるのですが、誰も入れなかったと聞いています。」
「咲、咲、ちゃんとグナヤンムーの話聞いているか?」
「ん?ごめん、遊ぶ約束してた。」
「小学生か、お前は…北の森は立入禁止なんだと。」
「なんで?たった今、そこで会う約束したんだよ。」
早速、型破りなことを言い始める。
知らんぞ俺は。
「大丈夫ですよ、噂に聞いていた通り本当に仲が良いのですね。」
初対面でも俺たちはそんな仲良しに見えたのか。
気がつかないうちに距離は確実に近づいている。
グナヤンムーは街を一周すると最後に北の森に連れて行ってくれた。
咲は、ぴょんと降りるとさっと森の中に消えた。
グナヤンムーも後を追うように消えて行く。
おい!
恋人を置いて、他の男と森に行くのか?
悶々と待っていると、葉擦れの音がリズムを刻んでいるように聞こえた。
咲だな。
また森の樹々と唄っているんだろう。
これは長くなる。
森に入ろうとしてみるが受け入れてくれる気配がない。
仕方なく道に座って待つことにした。
それにしてもよく知らない男と咲が二人でいるのかと思うと心穏やかではない。
咲はグナヤンムーと楽しそうに戻ってきた。
俺も森に入れれば…
「で、木々との戯れは楽しかったのか。…アイツも参加してたのか。」
「ううん、私だけ。陽気な感じでとても楽しかったよ。明るい感じっていうのかな。」
「ならよかった。ここに来るの嫌がっていたからな。少しでも楽しいことがあってよかったな。」
まあ、咲が一人で樹々と楽しんでいたのならいいか。
昼飯を海風を受けながらのんびりと食べると穏やかな気持ちになる。
潮の匂いが懐かしい。
咲が海を見たいと言い出して、海辺に向かう。
海の中を見れるかもしれないと、咲が言霊を唱えると球体の空間ができて、手を繋いで海の中に入っていく。
浅瀬の割に少し暗い海に魚が数匹泳いでいる。
ここにきてやっと二人の甘い時間になるかと思ったら、突然大きな魚が口を開けて襲ってくる。
今、明らかに魚がおかしな動きをした。
俺たちは狙われたのか?
咲は「どこの海にも怖い魚もいるんだね。次から気をつけよう。」なんて呑気なことを言っている。
天界で凶暴な生き物は居ないはずだ。
何が起きているんだ…
炎を生み出す指輪をすぐ使えるようにして注意深く岸へと戻った。
幸い何事もなかった。
海を出て砂浜歩いていると、その先に樹の館があった。
館の中にはグナヤンムーの他に二人いる。
しまった、初参加なのに遅れてしまったか。
そう思ったら、一人はグナヤンムーの補佐で、北の樹がまだ来ていなかった。
西天界の長だと言う、エーハルーンが話しかけてくる。
西天界の話を聞きながらふと思った。
建築をやっていた身としては、資材が西から来ていることは知っていた。
でも、西から資材が来ている、つまりは西に別の天界があるという認識はなかった。
同じく、南で魚が取れないの、南の場所の意味も考えたことがなかった。
俺は今まであまり考えずに生きてきたのか、それとも考えないようにさせられてきたのか…
自分の意識になんらかの力が働いているのかもしれないと少し怖くなった。
少しすると北の樹がやってきて自己紹介を始める。
北の樹はグイグイと咲に近寄ってくるので、間に割って入る。
初対面で咲を北天界に誘うとは。
俺もついて行くからな。
それから、ナミさんの言っていたほどではないが、カジュアルな話し合いが始まる。
まずは主天界の出来事の報告だ。
咲はいきなり最初の発表者に選ばれてあたふたしていて心配したが、自分が倒れるまでの出来事を話しきった。
そこから先の出来事は、俺が引き継ぐ。
そして最後にここにいる奴らにカマをかける。
樹であるここの奴らはシャドーもどきを各天界に取り入れることができる。
まさかとは思うが、他の天界で同じことが起きていないかを探る。
実は咲には内緒で他天界での関連事件の確認をナミさんから頼まれていた。
咲が名目上正式な参加者なのだから咲に頼めば良いのに「咲に頼んだら顔に全部出ちゃうでしょ?」と、俺に面倒なことを頼んでくる。
今の反応だとここにいる奴らは誰もシャドーもどきを知らなそうだが、まだ知り合って間もない相手の反応をどこまで正確に把握できたのかは分からない。追々また追跡しよう。
ひとまず任務完了だ。
休み時間になって一息ついていると、咲に詰め寄られる。
予想はしていたが、咲が寝ている間の話は咲にとっても初めてだったようだ。
咲は俺を睨んでくる。
文句はナミさんに言ってくれ。
なんでも面倒なことを俺に振るのはやめて欲しい。
食いしん坊に夕飯の話を振ると気持ちが逸れてお店探しを始める。
こういう時、咲が単純で助かる。
ほっと肩を撫で下ろした。




