24.空に二人きり
咲が退院すると一緒に樹の館に向かった。
ナミさんはまず咲に礼を言った。
それから俺にその顔は気持ち悪いからやめろと忠告した。咲も同意している。
仕方ない。
咲とこれから居られることが嬉しくて抑えられないのだ。
俺だってなんとかしたい。
でも無理だった。
ナミさんは、気持ち悪いから部屋を出ろまでいうが、誓いを立てた者としてはそこは譲れない。
「あら、そうなの!おめでとう。漸く報われたのですね。なら、今日はその顔でも仕方ありませんね。」
やな予感がする。
あまり蒸し返さないで欲しい。
案の定、咲が誓いの意味を知らなかったことがバレて、ときめきがないなどと、こき下ろされる。
でもそのお陰で、咲は天界に魂が戻れたのではないかとナミさんは言った。
複雑な気持ちになる。
俺の誓いってなんなんだ…
「まあ、誓いについては二人で後で話してちょうだい。とにかく大事なのは咲は良くも悪くも、大いなる力に気に入られているということです。アンセ、ライバルは手強いですよ。頑張りなさい。」
最後に波風だけ立ててナミさんは、この話を切り上げる。
相手が誰でも咲は渡さない。
ナミさんに言われるまでもない。
ところで、と咲は今の天界について尋ねる。
ナミさんは咲に現状を伝えないと決め込んでいるようだった。
もう落ち着いていると咲に伝えると、俺を見る。
言いません、無言で答える。
俺も無駄に咲を悩ませたくはない。
ナミさんの話はそれで終わらなかった。
「これで暫くは何もないと言いたいところではありますが、来年の頭に四天界の集まりが南天界であって、できれば咲に行って来て欲しいのです。落ち着いたとは言えまだまだ何が起こるのか分かりません。」
四天界、なんだそれは。
俺も知らなかった。主天界以外にもこんな場所があったとは…
でも楽しそうだし何より俺も同行できるなら願ってもないアサインだ。
何より、咲をここのゴタゴタから物理的に遠ざけることができる。
行くしかないな。
まだ少し時間があるから咲は考えると、返したが説得するしかない。
みんなにとって良いことしかない。
残念ながら、咲はなかなか首を縦に振らなかった。
どうしたもんかと考えていた矢先、咲が忽然と消えた。
今度は失踪か?
ダメ元で咲の風電話に伝言を残し、ナミさんにも連絡する。
ナミさんは、毎回騒がしいわねと相手にしてくれない。この前の反省はどこにいったんだ。
ナミさんを当てにしないで、手当たり次第見て回る。
仕事場でもなく、レイといるのでもないのであれば、一番怪しいのは森だ。
北の森か?クノーか?
心臓が張り裂けそうになる。
寝てくれている方がよほど安心だった。
いや、それも嫌だ…
ぐるぐる考えていると咲が、元気そうに帰ってくる。
いつだって咲はそうだ。
クノーと話して今回のアサインを受けることにしたらしい。
説得したのが俺じゃないのは悔しいが、結果行けるなら問題ない。
初めての年越しをするとあっという間に、南天界に行く日になった。
どうやっていくのだろうと咲は思案しているが、多分、俺たちが入ってきた南の端からここを出るのだろう。
目覚めてから咲には南の街に行かせていない。
本人も敢えてなのか無意識なのか、南に行きたいとは言わなかったし、行かなかった。
だから未確定なことは口にしなかった。
ナミさんと合流すると咲は真っ先にどうやって行くのかを尋ねた。
そして俺の予想通りの答えに、咲は特に反応しなかった。
良かった。
気を使い過ぎていたのかもしれない。
問題は別のところにあった。
咲は高所恐怖症だった。
他の天界に移動するための風の椅子があるのだが、当然ながら何も見えない。
咲はなかなか乗れなくて、森の樹々からの餞別として枯葉が風に乗せられた。
椅子が可視化されて意外に広いのが分かる。
それでも躊躇しているので、咲を担ぎ上げると風の椅子に飛び乗った。
悲鳴をあげていたが、乗ってしまうと咲はご機嫌だった。
これからしばらく、広い空に二人きりになる。
二人の時間を意識してしまいそうで、あらかじめ持ってきた仕事を始める。
咲は時間を持て余して、最後は眠ってしまった。
意識していたのは自分だけらしい。
仕事の手を止めて、横になっている咲を髪を撫でる。
やれやれ。
咲の無防備な姿になんとも言えない気持ちになる。
全く起きる気配がないので仕事を始めると咲が起きて、このまま南天界にぶつかりそうだと騒ぎ始める。
そんなはずは…
このスピードはあり得るな…
咲を抱き上げると、陸地に向かってジャンプした。




