21.決着の時ネコはいない
もう一度この悲惨な街を見つめる。
今やろうとしていることは悪くない。
でも非効率的で現実的ではない。
皆で話し合った結果、暴れている奴らを集めてまとめて浄化することにした。
俺は奴らを挑発して集めることにした。
炎は熱いし簡単に言うことを聞くかと思っていたが、そんなことはなかった。
普段大人しい天界の奴らもタガが外れたらただの荒くれ者だ。容赦なく全力で襲いかかってくる。
水を津波のようにして襲ってくる者、風で吹き飛ばそうとしてくる者、土を粘土のように動かして襲ってくる者、とにかく何をしてくるのか分からない。
自分の身を守るだけでも精一杯だ。
ふと横を見るとトビーも参戦している。
のらりくらりと攻撃をかわして誘導している。
そうだ、こいつらを倒す必要はない。
お互い助け合いながら少しずつ人を集めていく。
すると穢れた者たちで争い始めて自然と一箇所に集まっていく。
俺たちの手を離れたので咲のいる場所にトビーと一緒に戻る。
それからトビーは竜巻を起こすと人々を巻き上げた。もっと抵抗するかと思ったが、不意を突かれたのか暴れていた奴らは次々と風に飲み込まれていく。
最後に水を風に乗せるとそのままみんな飲み込まれていく。
一定時間が経って風を緩めるとそのまま地面にゆっくりと降ろしていく。
周りが水浸しになるかと思ったら最後は水担当の奴らが水を揮発させて煙が立つ。
この煙が消えたらこの現実も消えているといい…
柄にもないことを考える。
そしてそんな奇跡は起きない。
さて、ここからが問題だ。
どれくらいの奴らが正気に戻っているのか…
出来るだけ咲には力を使って欲しくない。
それはトビーも同じようで、率先して倒された人々に駆け寄った樹を守るように立っている。
樹は浄化の経験の数が違うのだと思い知る。
全て浄化しないでも自力で頑張れるラインを見極めて体力を温存しながら数をこなしている。
咲も樹から浄化の加減を教わると二人は無言で対処し始めた。
何百人と浄化を終え、疲れてふらふらしている咲を支える。
樹は同じかそれ以上対処したはずなのに、元気そうにしているのはさすがだ。
「この方法は良いのではないでしょうか。外に居る人達だけならあと数回やれば終わりそうですね。」
いや、今日はもういいんじゃないか、と咲を見て思う。
「咲、大丈夫か。」
「うん、体力を使ったけど力には問題なさそう。」
エネールを持ってくるのを忘れたと話していると、トビーが持っていたリュックから取り出して分けてくれる。
二人の手慣れた動きに感心する。
そして、人が多く集まっている場所に降りては浄化を繰り返すと、街は少し落ち着きを取り戻したかのように見えた。
今度は個人の家を浄化しようとなり、一軒ずつ地味な作業に入る。ここからが正念場だ。
街の外れから始めると、しっかりとコミュニティができていて被害が少なかった。
人の繋がりはすごい。
そして油断した。
「咲は絶対に入るな。樹、すみません。お願いできますか。」
何軒目かの家に入った時、悲惨な状況に出くわした。
子供三人が穢れて暴れている。
二人の親が必死に抑えているが、大人も少しずつ顔つきがおかしくなってきている。
樹を中に通すとドアを閉めて咲が入らないようにする。
家に入れないようにはできたが、ドアの横の窓から咲は家の中を覗いてしまった。
慌てて俺も振り返ると、子供が溶けて砂のように崩れていくのを必死で止めようと空を撫でている親の姿だった。
そんなに子供に興味のない俺でも心が苦しくなる。
咲!
そう思った時は遅かった。
「お母さん…」
そう呟くとその場に倒れ込んだ。
涙を流していた。
なんのために立ち入らせなかったのか…
後悔しても遅い。
咲をそっと抱き上げる。
家からトビーと樹が出てきて、目を見開くと樹が謝った。
「俺に謝らないでください。」
「そうね…次行きましょう。」
「ちょっと待ってください。この状況で次行くんですか?せめて咲を病院に。」
「…見たでしょう。そんな余裕はないのよ。」
そう言って、俺たちを振り返らずに次に向かう。
トビーは俺の肩をポンと叩くと、行くぞと言った。
なんなんだこの人たちは?
咲は?
こんな傷つくまで頑張った咲はこのままなのか?
帰ろうとすると樹に止められる。
「お願い、私たち二人では手に負えないわ。一緒に来て。」
「俺は咲と居ますよ。」
「…リノを呼びます。お願い。」
俺だって酷い状況なことくらい分かる。
でも、咲の扱いに納得がいかないだけだ。
次の家ではトビーが先行して入り、樹が呼ばれて戻ってくる。
そのうちにリノがやってきて、簡単な診断をすると体はどこも悪くないので安静にしていれば大丈夫だと言った。
そしてトビーは風の球体を作るとリノと咲を乗せて送り出した。




