18. 首謀者は誰だ
樹に話をしに、咲と樹の館に向かった。
俺の計画を話そうとすると、樹もすでに作戦を立てていた。
俺たちはカレルと共に南の博士の家に向かった。
カレルは見張りで俺と咲で博士の家の中に入る。
ドアを開けるともわっとする臭いが立ち込めて思わず顔をしかめる。
何かを…
いや…シャドーもどきを作っていたんだろう。
臭いは強く残っているが、家の中は空っぽだった。
注意深く見ると、少しだけシャドーもどきが机に残っている。
シャドーもどきを手で触らないように注意深く集めてトイレに持っていく。
トイレには天界全てのものを土に帰す泥土がある。
きっとこれも土に帰るはずだ。
もう一度部屋を見て回って何もないことを確認してから外に出る。
終わり、なのか?
咲が作ったシャドーもどきを持ち出したのではないかと言い出した。
その方がしっくりくる。
カレルと三人で博士を探して回ると、買い物をしている博士を見つけた。
相変わらずこの人の表情からは何も感じられない。
本当のことを言っているのか、俺たちを翻弄させようとしているのか。
少なくとも手元にシャドーもどきを持っている感じはしなかった。
となると怪しいのはグネルだ。
「どうするんだろう。今日じゃないのかな?大勢に一度にシャドーを撒くなら街中がいいよね。入れ違いでスクエアに行ったのかな。」
咲が呟く。
「スクエアは樹が見張っているはずだから、何かあれば連絡くるだろう。」
「そうだよね…」
もう暑い季節なのに長袖で歩き回ったので、酷く汗をかいた。額の汗を袖で拭う。
咲も袖を捲って手でパタパタと仰いでいる。
「あのさ、暑いから、ちょっと飲み物買ってくるね。」
「飲み物…」
俺も…と言いかけて嫌な汗が流れる。
「咲、それかもしれない…だとしたら最悪のケースだ。」
まさか、な。
いくらなんでもそんなことはしないだろう…
急いで貯水池の近くに向かう。
貯水池は許された者しか入れないはずだ。
人が歩いている中、道端でしゃがんでいる人が見えた。
近くによるとグネルだと分かった。
「グネルさん、何をしているんですか。」
こんな時でも咲は丁寧に話す。
「探し物をしていただけですよ。」
グネルはニコリと咲に笑ってから俺をジロリと見る。
探し物…
「見つかりましたか。」
「ええ。お気遣いありがとうございます。失礼します。」
地面に粉を落としたのか?
だとしても土と混ざって俺には区別がつかない。
咲にグネルの力について聞かれる。
水の位置が分かる…
いや、水道管は地中で見えないんだぞ。
咲が地面を掘り始める。
するとかなり深く掘ったところに固い土の層があって金属のようなものが見えた。
思っているものと違うといいが…
咲はその管の中を見る前に分かったようだった。
管には蓋が付いていて、開くと黒い粉が残っていた。
これは…
確認のために、黒い粉を少しだけ舌先にのせるとびりっとして震え、体が熱くなり気持ちが昂ぶってくる。
大丈夫?
咲が俺の手にそっと触れると今度は心が穏やかになっていく。
大丈夫だと握っている手に力を込める。
カレルは、貯水池の仲間に電話をすると貯水池に向かって行った。
俺たちは南に向かったグネルを追うことにした。
でもどこに向かったのか…
風通路に乗りながら必死に考える。
街全体に穢れを蔓延させる、それからどうする?
事が収まるのをどこかで高みの見物でもするか。
それとも、穢れを促進するための何かを再度仕掛けるのか。
どちらにしても準備がいるはずだ。
俺たちがこんなに早く察知するなんて思っていなかったに違いない。
とりあえず、グネルの家に行こう。
そして捕まえて、カレンのように幽閉してもらおう。
家にいるかどうかは半信半疑だったが、家に炎が見えて所在を確信した。
グネルは俺の秘匿の力を知らない。
炎を無から生み出し、そして無に返すことができるのだ。手段として炎を選んだことを後悔させてやる。
まずはドアの鍵を炎で溶かす。
そして咲と一緒に家の中に突入する。本当は咲を置いていきたかったが、仕方ない。
大丈夫だとは思うが、自衛のために咲には氷をまとってもらった。
家の中は思ったよりも酷いことになっていた。
そして前に遭遇した火事と同じで、この炎は普通ではなかった。指輪で吸ってもまた湧いて出る。そして、うまく操れない。
咲を隅に置いて、グネルを探し回る。
寝室のドアを開けると、炎に包まれたグネルが笑っていた。
やばい。
このままだと焼け死ぬ。
指輪で炎を吸い込むが、全く効果がない。むしろ強くなっているようにも見える。
あれだけの炎の中笑っていられるなんて、シャドーで感覚がおかしくなっているんだ。
もしかしたらシャドーもどきの残りは自分が使ったのかもしれない。
咲が、グネルに正気を戻すように諭すがそれは今は危ない。今、正気に戻ったら熱さに耐えられないだろう。
とにかく炎を消すしかない。
咲を背中に隠してグネルの炎を消そうとするが、無意味だった。




