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17. ネコ探し

咲、咲、咲…

どこにいるんだ?


俺は何も分かっていなかったのか。


なぜ何も言わず、風電話も持たずにどこに消えた?


「アンセ、落ち着いて。昨日の咲は全然悲壮感なかったじゃない。どっか散歩に行っているだけだよ。待ってみたら?」

「そんな呑気なことを言って博士に拉致られたらどうするんだ。」

居ても立っても居られない。


まずは樹に連絡だ。

行きそうな場所…クノーだ。


クノーの生えている西の端に向かう。


「咲は?咲はどこなんだ?」

叫んでも風で枝葉が揺れるだけでクノーに続く道が作られることはない。こんな緊急時でも俺は拒否されるのか。


なんなんだ!


自分は、誰よりもそばに居て咲のことを分かっているつもりだった。

優越感すら感じていた。


おごっていた昨日までの自分を殴ってやりたい。


そのまま樹の館に向かいドアをノックする。


「落ち着きなさい。アンセ。咲はどこだ、だけでは私も困ります。咲を捕まえておくのはあなたの仕事でしょう。」

「でも、朝起きたら咲が…寝坊助のあいつがいなかったんです。どこに消えたのか…もしかしたら拉致られたかもしれない…」

「連絡は?咲から連絡はないのですか?」

「…ないです。咲ですよ?風電話は、ほらここに…」

「そうねえ…咲ですものね…風電話持っていないなんていつものことよね。」

事件に巻き込まれやすいのに、咲自身は無防備なのだ。


「私も樹々にも尋ねましたけど教えてはくれませんでした。樹々が何も言わないのは大丈夫だということですよ。」

「そんな無責任な…」

「でもそうでしょう。私たちのできることはないんです。ほら、仕事に行きなさい。」

仕事に行ったって碌なものは作れないのは分かっている。裏方も向いてなかったし、工房に行くことになんの意味があるのか…


樹がうるさいので、とりあえず工房に顔を出す。

ルサーイはすでに樹から聞いて知っているのか、今日は若手の指導をしろと言う。


今までも何度か新人の相談を受けたことはあるが、つきっきりはめんどくさいな…

それなら適当でも自分の作品を…

そう思って自分の棚に手を伸ばそうとするとルサーイに止められる。


「たまには後輩の育成もいい刺激になりますよ。」

強引にこの前の新人を押し付けられる。


仕方なく見に行くと新人はなにやら、窓枠のベースを作っている。


「ありふれてるな…」

思わず心の声が漏れてしまったのは咲の影響に違いない。

なんとか取り繕おうとするが、頭が回らずうまく行かない。


「まだ作り始めだしな。うん…で、どんな依頼なんだ。」

まずはコイツの客の要望を確認しよう。


「結構曖昧で…スッキリして凛々しいものと、温かくて優しいものの二つ依頼されています。」

「誰の部屋の窓だ?隣に並べるのか?どの位置につけるものなんだ?大きさは?形は?」

つい責めるように必要情報を確認してしまう。


「あの…えっと…確認しま…あの、これです。」

口で説明するのを諦めた新人が設計合意書を見せてくれる。


あー、子供の部屋か。

双子か兄弟、それぞれに合ったイメージ、あるいは好みのものを作りたいといったところか。

大まかな大きさ指定はあるが形は自由。

窓は開閉してもしなくてもいいが、子供がそこから出られないようにしたいか…


「なかなか面白い依頼だな。いい仕事もらったな。」

「はあ…でも凛々しいとか、優しいとか…窓ですよ?そんな窓見たことあります?」

「ないよ。だから頼まれたんだろう?どんな依頼人なんだ?力は?子供の年齢は?家の中や周りはどんな感じなんだ?」

「…分かりません。聞きませんでした。」

「じゃあ、まずは相手を知ることからだな。自分の思う優しさじゃなくて、相手の思っている優しさを見つけることから始めないとな。それが分からないことには、俺も手伝えない。」

「分かりました。まずは依頼人と話してみます!それにしても、こんな機会をもらえるなんて…咲さんにお礼を…」

「咲がどうしたって?」

咲となんかあるのか?と言いそうになって言葉を飲み込む。


「この前の歓迎会で、アンセさんと親しくなりたいと相談したんです。それからアンセさんと話す機会をいただけるようになって、今日はこんな指導頂いて…良い人ですね。」

こんなところに、咲への思いを募らせる奴がいるとは。


「咲とは関係ない。ルサーイの采配だからな。ほら、早くやれよ。」

新人は少し驚いたような顔をすると、電話しに行った。

未だに名前知らないな…まあいっか。


新人に偉そうなことを言ったが、結局俺も咲のことを分かっていなかったから、今こうなっているのだ。もっと理解しようとしていれば、咲は今ここにいたはずだ。


なんだか疲れたので早めの昼飯を買いに、スクエアをふらふらする。


いつもの握り飯を買ってベンチに座る。

はあ…特大のため息を吐く。


隣に生えている、名も知らない樹々に思わず呟く。


「なあ、咲が無事かどうかだけでいいから教えてくれよ。頼むよ。」

ざわざわと葉擦れの音が広場を包む。


「俺は咲じゃないから、今のじゃ分からないんだ。ちゃんと言葉で教えてくれよ。」

同じようにまた風が吹く。


「それじゃあ分からないんだよ!」

思ったより大きな声だったようで、通りがかりの数人が俺をチラチラと見ている。


今更こんなに樹の力を欲する時が来るなんて。


戻るのも面倒でゆっくりしてから工房に帰ると、さっきの新人は依頼人の家に行けることになったと飛び出して行った。


「ウーダンに指導してくれてありがとうございました。」

ルサーイが声をかけてくる。

最近やたらと関わってくる。

樹への貢物探しだろうか。


「ああ、まあ、なんとかなるだろ。」

「私もそう思います。」

「じゃあ、今日はこれで。」

引き止めるルサーイを置いてさっさと工房を出た。


俺も咲を理解するために、まずは見つけないと。

樹から連絡はないがもしかしたら普通に仕事しているかもしれない。水担当部に顔を出す。


「どうしましたか。」

カレルが迎えてくれる。


「咲…」

「ああ、咲さん、大丈夫ですか。」

「大丈夫って?」

「体調悪いのでしょう?聞きました。」

カレルは、視線を樹の住居の方にやる。

樹から聞いているのか。


「邪魔したな。」

どうやら仕事にも来ていないらしい。


くそっ!


大声を上げながら下の階に降りると、樹が部屋から出てくる。


「アンセ、静かに。扉を閉めていても聞こえましたよ。」

樹は俺を相談室に呼び込む。


「気持ちは分かりますが、抑えなさい。」

「どうにかならないんですか。」

「そうね。迷子の子が出た時は樹々が教えてくれることもあるけれど、大人の迷子は前例もないし、教えてもらえないのよ。」

「咲は子供みたいなもんだろう?」

「アンセから見たらそうかもしれませんが、咲の動きが我々全体に影響するのであれば樹々は教えられないのですよ。」

「つまり、今回樹々に関係することに巻き込まれていると?」

「分かりません。それであれば安全なのでいいと思いますが、それ以外の場合もあり得ますからね。」

「咲が危険でも樹々は黙っているんですか?咲は樹々は友達だって言ってたんですよ?友達の危機に何もしてくれないんですか?」

「アンセ、おこがましいですよ。樹々は崇拝すべき存在なのですよ。どんなに近くに居てもね。忘れてはいけません。」

くそ、どいつもこいつも…

もうすぐ一日が終わる。今まで行方不明になっても半日くらいなもんだった。


だいたい、夜になったらどうするんだ。闇に食われないようにどこかに隠れられるんだろうか。


「あの…」

声のする方を見るとカレルが何かを持ってやってきた。あれは…


「咲さんはもしかしたら北にいるかもしれません。」

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