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15. 守るはずだったのに傷つけた後悔

愛しい声が聞こえた気がする。

誰の声だ?

思い出そうとして、ぎゅっと胸の奥が痛む。

俺は…俺は今何をしてる?


俺の愛しい人は…

…咲…


…咲!!!

咲を視界にとらえると反射的に体が咲に向かっていた。


咲が勢いよく俺を抱きしめると、急に温かいものが体に入ってきて、胸を占めていた暗く重いどろどろとした気持ちが溶けて消えて行く。

と同時に咲が震え始め、突然体から力がガクリと抜けてぐっと重さを感じる。


咲!

すまない…守るはずだったのに…


咲を暴れている二人から離れたベンチに運ぶ。

大丈夫か、目を開けてくれ…


まだ少し痙攣している冷たい咲の体を温めるように抱きしめる。

どれくらいこうしていただろう。ほんのひとときだった気もするし、かなり長い時間だった気もする。


「良かった元に戻って…」

弱々しい咲の声がして、俺の頬に咲の手が添えられる。

その手は微かに震えている。

それでも咲はさっきの二人を心配して遠くに目をやる。


「見るな!」

慌てて咲の視界を覆うようにするが、間に合わなかった。


咲は、まさにシャドーに飲み込まれて消えて行く魂を目にすると、叫び声を上げてそのまま意識を失った。


咲はまた眠り込んでしまった。

前回魂の消滅を見た時は記憶を消して自分を守っていた。

今回はどうだろう。それで済むのなら良いが…

心配で咲の目覚めを純粋に待つことができずにいた。

もう十日以上が経つ。

相変わらず仕事に手がつかず、ルサーイに半強制的に休みにされてしまった。


仕事がないのでずっと病院に居ると、リノから咲に液状の薬を口に入れるよう頼まれる。

リノの言ったように薬を入れようとするが、受け付けない。どうしたもんか…後で怒られるかもしれないが…思いつく方法を試すしかない。


翌日も、翌々日も薬を与えた。いつの間にか投薬は俺の仕事になっていた。

早く目覚めて欲しいが、目覚めてからのことを考えると複雑な気持ちになる。


十五日近く経った頃、いつものように咲の頭を撫でているとピクリと動いた気がした。

そのまま注意深く見ていると咲の目がゆっくりと開いていく。


「気が付いたか。良かった。今医師を呼んでくる。」

咲が口をパクパクしているが声が聞こえない。

前も喋れるようになるのに時間がかかった。今回は前よりも長いから声すら出ないこともあるだろう。


リノ達を呼んで診てもらう。

咲の声が出ないのは体の問題じゃないとリノが言うと、咲はボロボロと泣き出した。


「しゃべれなくても咲は咲だから。起き上がれるか。元気なら帰ろう。」

咲は話せなくても、顔に大体のことは書いてあるので、意思疎通は特に問題ない。

でも当の本人は心配で仕方がないようだ。

安心させようと、咲の表情を読んで質問に答えるように話しかける。


ここに運んだ時間が遅かったのもあって既に青の時間になっている。窓の外は暗くなり始めている。

そろそろ帰ることを伝えると咲が俺の服の裾を掴んで離さない。


「ちょっと待ってな。今日ここに泊まれるか聞いてくるから。」

あんな風に甘えられたらなんとしても泊まるしかない。

部屋を後にすると宿泊の許可をリノに求める。

第一声は却下だった。


でも今回は咲が居なかったら大変なことになっていたし、何より咲が俺を求めている。今日は折れるわけにはいかない。

樹に訴えてもらっても構わないが今日は帰らないと居座りを決め込むと、もう好きにしてください、と最後は呆れられた。

泊まれるなら理由はなんでも良い。


咲のところに戻ると、とても不安そうに俺を見上げる。前は泊りを断られたから心配するのも分かる。


常連の頼みだからいいってよ、と軽く答えると咲の顔がパーッと明るくなる。

泊まれることになって本当によかったと思う。


「で、俺になんで居て欲しいわけ?」

答えられないのは知っているが、咲の顔からその答えを知ろうとじっと見つめる。


そっぽを向こうとして動けなかったらしく、咲は残念そうな顔をする。そして俺と目が合って今度は顔を赤らめる。


「おれ、咲のその顔好きだよ。いじりたくなる。」咲が答えられないと思うと、素直な言葉が出てくるのは不思議だ。頬をツンツンすると怒っているのが分かるが、それもまたいい。


夕飯は定番のドロドロご飯で、咲が幻滅している。


「そんなのは分かっていたことだろ、諦めろ。」

分かってても嫌なものは嫌だと訴えてくる。


本当に表情が豊かで、咲が一言も発していないなんて思えないくらい気持ちが手に取るように分かる。

話せるようになったら、咲は反論するかもしれないがそのおかげで悲愴感が全くない。


俺たちのやり取りを見た病院の人たちに夫婦みたいね、と言われて悪い気はしない。

咲はちょっと不服そうだけど、嫌がってはいないと思う。


消灯になると咲の顔が強張ったのが分かってそっと手を握る。

咲が俺の手を握り返してくるのを感じて、この手を守ろうと思った。












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