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13. まさかの気持ち

咲が、南の街でシャドーもどきの石によって穢れた人を浄化して倒れた。ひどい怪我をしたのでリノさんに診てもらってから帰る。


怪我が治らなかったせいもあると思うが、最後に見た溶けて消えていく魂の消滅がショックだったのか、咲はずっと言葉を発しなかった。

魂の消滅はまだ昇華を見たことのない咲にとって初めて見る天界での魂の最期だった。


心配で咲の家に運ぶと着替える、と言って咲は突然服を脱ぎ出した。

慌てて部屋の外に出る。

しばらく待っても音沙汰がないのでそっとドアを開けると、ボタンを掛け違えて無防備にお腹を出したまま咲はベッドに寝転んでいた。

冷えないように掛け布団を咲の半身に掛ける。


布団を持ってきて自分も隣で寝ることにする。

咲は今回はどれくらい眠るだろうか。


幸い翌日に咲は目覚めた。真っ先にトッキーと呼んでいる時計草に挨拶をした。

返事が聞こえなかったのか、起き上がってキョロキョロする。そして俺を見付けるとギョッとした顔をして、自分の身なりを見て疑いの視線をよこす。


「言っておくけどな、自分でそれ着替えてたぞ。止めたけど汚れたまま寝たくないって。俺は嘘はつかないからな。信じろ。」

思わず言い訳をしたのが余計だったようで、時計草に確認し隣の部屋に歩いて行った。

…言わなきゃよかった。


時計草の答えはどうも俺の身の潔白を証明してくれなかったらしい。

さらに疑いが深まって距離を取られる。


はあ…俺は昨日、大いなる力に誓った。咲には嘘をつけないし、何より生涯の愛を捧げた。これ以上何をしたら咲に信頼してもらえるんだ。

大いなる力との誓いは破れない。誓いを破れば恐らく昇華するのがとんでもなく遅くなる。軽い気持ちで誓ったわけではない。


「… 今日レイと約束してたんだ!出かけなきゃ!」

突然思い出したように咲が言い出す。

昨日の肉体的精神的な疲労を考えると休んだ方がいいに決まっているが、聞き入れてもらえない。

止めても聞かないのが咲ならば、俺は見守るしかない。

散々レイに嫌味を言われながら、コンサートについて行く。


正直こんなイベントに来るのは初めてだった。人が沢山いて賑やかだ。

チケットを買うために長い列に並ぶ。

咲はとても楽しそうだが、なかなか時間がかかりそうなので、交代で列に並ぶことになった。

咲は俺と二人きりになると、糸が切れたようにその場に座り込んだ。


やっぱり無理していたのか。

何より昨日の出来事が頭から抜けているらしい。モヤモヤして思い出せないと言うのは無意識に自分を守ろうとしているのかもしれない。


「そういえば追跡石はどうした?家に置いてきたか?」

一瞬何のことか分からない、という顔をしてから思い出したようにバッグから石を取り出す。 


まずい…こんな人混みの中、博士達に何か仕掛けられたら困る。


咲の言葉にヒントをもらって追跡石を覆い隠すことにする。そうすれば居場所は分からなくなるはずだ。

レイに連絡をしてもらって必要な物をお願いする。

材料を持ってきたレイと列を抜けて、追跡石を覆う素材を作ってもらう。遮断できたかどうか確かめる術はないが最善を尽くすしかない。


「鉄、ケイ素とかを適当に混ぜて…」

「アンセ、材料はいいから、何がしたいのか教えてくれる?」

追跡石を見せ、これが受信機と遮断されるようにしたいと話すと、レイは注意深く石を観察する。


「この石から出ている磁場を遮断したいのね。」

そういうと、持ってきた素材をいくつか混ぜ合わせて石を囲う。それからまたそれを観察すると別の素材を加えて、混ぜ合わせる。

そんなことを数回繰り返すとレイがニコリと笑う。


「出来た!石を出したりしまったりしたいなら蓋ができる方がいいよね。」

そう言って形も箱型にしてくれる。


「初めてレイの力を見たけどすごいな。」

「私は学校に行っていたからね。授業で習った技術、すごいでしょう。」

レイは得意気に笑う。久しぶりに、レイが俺に向かって笑っている。少しは昔のことを許してもらえたのだろうか。

感傷に浸る暇もなく、レイは釘を刺してくる。


「こんな物騒な物、早く捨てなよね。なんで待っているのか今理由は聞かないけど、咲を傷つけたら許さないからね!」

そう言って顔も見ずに咲が心配だと駆け足で戻って行く。俺はそれに答える時間はもらえず慌ててついて行く。


咲は気丈にもレイの友達で咲の職場仲間でもあるリンと笑っている。

あの顔はかなり無理しているように見える。さっき気が抜けて、自分の本当の状態に気が付いたんだろう。

レイに目配せすると咲を連れて隣駅に向かう。追跡石を逆手に取った陽動に出る。咲は動かない方が良いとは思うが、俺といる方が気が抜けて楽なはずだ。ご飯も食べさせたい。


駅に着くとできるだけ動かなくて良いように近くのレストランに咲を座らせると、箱を開けて遠くまで早足で移動する。そして周囲をぐるぐるとしばらく歩き回るとレストランに戻って飯を平らげる。


咲の目は虚だった。焦点が合っていない。

出来ればこのまま家に連れて帰りたいが、言うことは聞かないだろう。咲も分かっているのかクノーやエネールを持参していてエネルギー補給をしている。

こうなったらやれるだけやらせて、倒れる直前で撤収だ。


コンサートはなぜか俺だけ別の席だったが、後ろから咲の様子を確認できたのでちょうどよかった。

咲のこの元気はどこから来るんだ?俺といる時はぐったりなのに、心底楽しそうに笑う咲の横顔にしばらく見惚れた。

気が付いたらもう最後の曲だった。

次はゆっくり落ち着いた時に咲と二人で来よう。


咲はコンサートの後のお茶会にも行きそうだったが、それはどう考えても無理だ。途中で倒れるのがオチだ。


俺は帰ると言うと、咲は流石に一人で行く自信がなかったようで一緒に帰ると言い出した。俺の作戦勝ちだ。


そのまま俺のうちでご飯に誘うと咲はついてきた。

そして今日のお礼を言われる。


今日一日がようやく報われた。

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