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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第二部 第0章
95/110

プロローグ-2

「~~~~~~ッ!?」




「・・・・・・・チッ、貫けなかった」




 両手に拳銃を握った白いコートが舌打ちした。白コートの撃った弾丸は賢人の頭部に命中したが、強すぎる魔力に遮られてしまったのだ。




「シエラ、ナイスだ」




「きゃっ!?」




「うわぁっ!?」




 シエラと呼ばれた人物が賢人を怯ませた隙に、痩せぎすの男が一瞬で背後に回り、少女達を魔力の鎖で捉えた。そして彼女たちを縛り上げると、そのまま藍色の炎に包まれて虚空へ消え去った。




『こちら“執行部 魔導師”()()()()()、奴のパーティメンバーを確保した』




『了解。確実に無力化したら戻ってくれ』




『オーケー』




 シュヴァルツとクロウリィは「思念型通信端末」で連絡を取り合う。3年前のものとは比較にならないほど性能が向上したそれは、たとえダンジョン外に出るほど離れていても余裕でその情報を伝えることが出来る。




「なんて卑怯な!!“炎よ”!!」




 賢人は侍らせていた少女二人をさらわれて怒り、賢人は剣を振るう。その剣戟に合わせて、炎が刃状になってシュヴァルツに襲いかかる。




 しかし、シュヴァルツはそれを見ても驚くことは無く、それどころか炎の中に突っ込んできたのだ。そして炎属性の魔法に突っ込む寸前、シュヴァルツは一瞬ステップを踏んだ。




「えっ」




 賢人は面食らっていた。シュヴァルツはまるですり抜けるように炎の中を通り抜け、そのまま賢人に肉薄してきたのだ。




「うわぁあああ!!な、なんで?!」




「“()()()()()()”だよ」




 ガキン!!と、剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。




「俺たちは特殊なステップを踏んだときに“無敵時間”を発生させられるように訓練している。だからお前みたいな即死級のダメージをホイホイ連発する奴に、今までよりも格段に近づけるようになったのさ。こんな風にな」




「グゥッ!?」




 ザシュッ!!とシュヴァルツが振るった剣が賢人の方を捉える。痛みに呻く賢人はがむしゃらに魔法を放った。




「当たれ、当たれ、当たれぇえええええっ!!」




 炎が、風が、雷が。悠久の時を越えて残されてきた遺跡の一室が異常な威力の魔法にどんどん削られる。




「何で、なんで魔法が当たらないんだ!!」




「だから言っているだろう、“フレーム回避”だって!!さっさと死ね、この魔法依存症が!!これ以上遺跡を壊す気か!!」




 賢人が剣に載せてがむしゃらに魔法を放つが、その悉くがシュヴァルツのステップに躱される。しかしシュヴァルツの言うとおり、賢人の魔法で部屋がどんどん荒らされていく。




 こうして賢人とシュヴァルツが組み合っているとき、ドォン!!ドォン!!と白コートが二丁の拳銃で賢人を攻撃してくる。




「死ね」




「(この女・・・・・滅茶苦茶邪魔だな・・・・・ッ!!)」




 シエラに妨害されて苛立ってきた賢人は、




「“炎よ”!!」




 と叫び、自分の足下を爆破した。




「うおっ!?」




 シュヴァルツはとっさに飛び退いたが、大きく賢人から距離が離れてしまった。さらに、




「“氷よ”!!」




「!!」




 シエラの足下に氷を発生させて動きを止め、その背後に回り首筋に剣を突きつけた。




「動くなッ!!」




「ッ!?」




 賢人はなんとシエラを人質に取った。その所業にシュヴァルツは驚愕の表情で顔がこわばる。




「テメェ・・・・これが“全知全能の勇者”か!!」




「何とでも言うと言い。僕は端から勇者って呼ばれるような人間じゃ無いからね」




 賢人は引きつったような笑みを浮かべていた。先ほどの魔導師がいればすぐに形勢を逆転されたかもしれないが、まだ戻ってきていない以上シュヴァルツのとれる行動は無きに等しかった。




『こちら、シュヴァルツ!!シエラを人質に取られた!!大至急、こちらと合流を!!』




『そうしてぇのは山々だが、女が暴れていいて手が離せない!!そっちでなんとかしてくれ!!』




「クッ・・・・・・・!!」




 シュヴァルツが歯がみをしている所を見ると、やはり魔導師は合流できない状況にあるらしい。賢人は勝ちを確信した。




 が。




『ん?でもシエラだろう。()()()()()()()()()()()()()?』




『ああ・・・・ああ、そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()




 切迫した様子だったシュヴァルツの表情が、急に和らいだ。




「(え・・・・・こいつら、自分の仲間が人質に取られているんだぞ?!)」




 シュヴァルツの反応を理解できず困惑する賢人。すると、




「ア・・・・・アー・・・・ゴホッ」




 と、シエラが何やら苦しそうに咳き込んだ。




「(ごめんね、変な風に絞めちゃったかな?大丈夫だよ。本気でき君を傷つけるつもりは無い)」




 そうシエラに耳打ちしたとき。









「無用な気遣い、ありがとうよ」




 ()()()()()()()、賢人の体内から無数の氷柱が飛び出した。









「ア・・・・・・・・・ガァアアアアアアアアアアアッ!?」




 賢人は絶叫しながら血反吐を吐いた。彼の血液を含んだためか、貫いている氷柱は深紅に染まっている。




「汚ぇな、勘弁しろよ」




 シエラは血反吐を一瞬で凍てつかせ、その場でぱっぱと払った。足下も氷で覆われているはずなのに、まるで水の中を通るようにすり抜け、いとも簡単に賢人の拘束から逃れてしまった。




「嘘・・・・・・だろ・・・・・お前、女、じゃ・・・・・・?!」




「お前勝手に女だと思っていたんか」




 色あせたような金髪をポニーテールにした青年は、冷め切った視線で賢人を見下ろしていた。




「済みませんでした。結局総隊長のお力をお借りすることになってしまいました」




「仕方が無い。報告から人間性に問題がありそうな事は目に見えていた。この場合は寧ろ対策できていたことを喜ぶべきだな」




 そう語る青年は、男としてみるにはあまりにも華奢だった。線が細く色白で、よく見ると腰が微かにくびれている。あまりにも見た目が貧弱すぎるのだ。




「なんで、き、君はそんな体型・・・・なんだ・・・・・?」




「ん?ああ、そうか。どいつもこいつも“ステータス”が付与されるんだっけ」




 そして青年は思い出したように賢人の方を向いた。




「この世界の人間は魔法だけじゃ無くて、自分の肉体を強化するのにも魔力を使っている。これのおかげで、本来よりも飛躍的に高いパフォーマンスを発揮できるんだ。そしてその魔力に抵抗を持っている事で、魔力を扱いつつも筋細胞を発達させ続けることが可能なんだ」




 その青年は賢人を全く警戒すること無く、コツ・・・・コツ・・・・・と遺跡の床に靴音を響かせる。




「だが、俺はその魔力に抵抗を持っていないせいで魔力による身体能力の強化を常人以上に引き受けちまう。その結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあ、筋力が女と同等になるだけで済んでいるから生活に支障は出ないし、寧ろ恩恵の方が多くなる・・・・・・・・・こんな風に”女声でだまし討ちを成功させるぐらいには”な」




「そんな・・・・・ふざ、ふざけるな!!」




 ボタボタと血を垂らしながら、賢人は剣を掲げ、魔法を繰り出す。




「食らえ、“エレメントバースト”!!」




「!!」




 賢人は魔力の属性をフル解放し、青年に向けて魔法を放つ。最大出力のそれは、ダンジョン一つをまるごと吹き飛ばすほどの威力を誇る。炎が、水が、氷が、雷が、土が、風が、部屋の中を駆け巡る。それは青年の賢人の間で激しい閃光を放ち、部屋全体を白く染め上げる。




「(どうだ!!最大出力の、全属性の魔法だ!!相手もたまったものじゃないだろ!!)」




 そして、それが本格的に爆発を起こそうとしたその瞬間。









パキィン!と、部屋ごと一瞬で氷漬けにされた。









「・・・・・・・・・・・!?」




 賢人が放とうとした魔法は青年の氷属性の魔力の前に簡単に屈し、逆に賢人を氷漬けにしていた。そしてその事実を賢人は理解できなかった。




 本来ならダンジョンごと粉々になってもおかしくは無い威力のそれは、部屋を氷漬けにするにとどまっている。間違えて氷属性の魔法を使ったのか、と一瞬考えたが、目の前で成される会話で否定される。




「奴の魔法を空間ごと氷漬けにしたのですか・・・・・相変わらず、“絶氷の龍紋”の力は凄まじいですね」




「“全属性を操る”、ねぇ・・・・・字面だけ聞けばさぞかし強力そうだが、各属性の性質を見極めないと、結局子供だましにしかならないな」




 青年はあきれたようにため息を吐いた。




「炎の魔力は氷の魔力と打ち消し合い、水の魔力は氷に統合され、炎の魔力は水の魔力にかき消される。土の魔力は雷の魔力をかき消し、風の魔力は土の魔力を削り取り、雷の魔力は風の魔力を貫く。こういう性質を学ばなくとも、せめて“高温と低温は打ち消し合う”っていう物理法則ぐらいは覚えておくべきだったな。おかげでせっかく世界最強クラスの威力を誇る魔法なのに、密度がスッカスカになっちまった。・・・・・・・まあ、派手さを求めて中身をおろそかにする辺りは“転生者”らしいっちゃらしいけどな」




「!!」




 賢人は再びゴポォッ!!と血反吐を吐いた。しかもそれだけで無く、メキメキメキ・・・・と賢人の口の中から巨大な氷柱が伸び上がっている。




「アア・・・・・・・アァアアッ・・・・・・・・・・!!」




「どうだ?“全知全能の勇者”サマよ。今まで魔法でマウントを取ってきた相手に、まさか自分がマウントを取られると思わなかっただろ?お前もその“借り物の力”に呑まれちまったな」




 青年は賢人に背を向けた。それを合図に、シュヴァルツは素早く賢人の頭上に飛び上がる。




「“俺だけ”とか“カンスト”とかそういう題目の偽英雄譚ライトノベルが流行っているけどさ。俺からはっきり言わせてもらおう。()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。格下相手に玩具を見せびらかして、自己満足で終わっているんだ」


 そして、一瞬肩越しに賢人を見やり、興味なさそうに見放した。









「一生無双を夢見(夢想し)てな」




 青年の一言と同時に、賢人の首がシュヴァルツに切り落とされた。









「・・・・・・・・・以外と、あっけないものですね」




 切り落とした首を見つめ、どこか感慨深そうにシュヴァルツはつぶやいた。すると、虚空からクロウリィが現われた。




「悪いシュヴァルツ!!シエラ____じゃない、総隊長!!無力化に手間取った・・・・って、もう終わっていたのか」




「総隊長が終わらせた。いくら全属性を“圧倒的に”操る転生者といえど、氷属性で“絶対的に”支配する総隊長には敵わんな」




「いや、俺が魔法を解放するよりもずっと前から、既に決着は付いていた。・・・・いくらだましたとは言え、女を人質に取るような行動を取った時点で、既に奴の命運は決まっていたようなものだ。戦いとしても、勇者____いや、人間としてもな。さて、じゃあ解析を頼むぞ、クロウリィ」




「了解、総隊長殿」




 クロウリィはシュヴァルツから賢人の首を受け取ると、懐からA4サイズの金属板を取り出した。それの表面にはガラスが貼り付けられ、コードのようなものが伸びている。




「この感じは、成る程・・・・・・ん?この魔力の波長、このパターン・・・・」




 ガラスの表面をなぞりながら、クロウリィは賢人の魔力を解析する。そしてしばし時間が経過した後、




「総隊長。やっぱり“城塞都市オーレッツェー”の“チーター司祭”が召喚者だ。奴は完全にクロだ」




「やっぱりか・・・・・“大間当司”、“浅倉忍”、“秋山利人”・・・・これらの“召喚者”とも一致した訳だな?」




 青年の質問に、クロウリィは頷く。




「解った。後はギルドに報告し、遺跡の復元を依頼しよう。今日の所は俺たちは帰投だ」




 そう言って、青年はスラックスのポケットから「通信端末」を取り出し、その表面をなぞった。


 この世界にまだ一般的には流通していない技術。その一端を扱い転生者相手に一方的に有利な戦闘を展開していた「転生者殺し」。彼はその中でも「執行」の役割を担う者をまとめ上げる存在となっていた。










「こちら“執行部隊 総隊長”トーヤ・グラシアルケイプ。これより“虹の遺跡”より帰投する。“チーター司祭”の逮捕状を発行し、速やかに目標を確保せよ」








 この世に蔓延る「転生者」を討つ存在「転生者殺し(ヴィジターキラー)」。その筆頭格となる彼の名前は、もはや知らぬ者が居ないほどになった。

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