7-2
部活終了後、ゼロ、真菜、鏡花は帰り道を辿っていた。
「結局、何を主題にするかでもめちゃったね~」
「醜い・・・・・・」
「男の子って本当にバカね。隣に居る女子みたいな魔王様を見習ってほしいわ」
「あ?」
「え?」
「ん?」
などと雑談をかわしていた。あの後いくつか案が上がったは良いものの、結局互いの主張をぶつけるのみで平行線を辿っていた。有益な情報が得られないと判断した彼らは早々に切り上げ、帰路につくのだった。彼らは住宅街を通り、近隣の高校の近くを通り抜ける。
とここで、鏡花が高校の校庭を何の気なしに見た。
「どうした?水面」
「・・・・・・つい最近、“異世界”に行った人が居るわ」
鏡花は目を細めて、校庭でサッカーボールを追い回す少年を見据えていた。
水面鏡花はこちらの世界でも数少ないゼロの正体を知る人物でもあるが、さらに自力でゼロの正体を暴いた希少な人物でもある。その理由は、彼女の持つ「特殊能力」にあった。
「彼の名前は“大間当司”。年齢、16。得意科目は保健体育。苦手科目はそれ以外全般、特に数学。万年赤点の補修常習犯ね。・・・・・・何というか、“スポーツバカ”って言う言葉が似合うわ」
鏡花の「特殊能力」、それは「人物が異世界に行った際の姿が見える」というものだ。基本的に普通の人にはほとんど見られないのだが、「異世界転生」を果たしたものはその姿が他の人よりも濃く見えて、さらにその人物の情報まで見えてしまうというものだ。その性質上「元転生者」であるものを見分けるのに有用な能力であり、ゼロがハーレムを築くつもりがないにも関わらず彼女とつるんでいる理由もそこにある。
「奴の滞在期間はどうだ?」
「そうね・・・・・さほど濃くないから約数ヶ月って所かしら。あなたの言うとおり、1年以上滞在していると思われる人って、本当に見ないわね」
鏡花は細かな個人情報だけでは無く、その見える姿の濃さで「滞在期間」もある程度解る。滞在期間が長ければ長いほど色濃く見え、「異世界の英雄」としての姿が露わになるのだ。
それはつまり、彼女にはゼロの本来の姿である、漆黒のコートに巨大な翼を折りたたんでマントのようにたなびかせている姿が見えていることを意味する。
「ねえ、なんで1年以上の人は居ないのかなぁ」
「それは恐らく、あまり滞在期間が長いとこっちの世界の“肉体”或いは“つじつま”が会わなくなってしまうからだな。恐らく向こうに飛んでいた期間が短ければこっちで死んでいたとしても生き返ることが出来るみたいだし、行方不明になったとしてもどこかで生存が確認される、所謂“神隠し”的な結末につながるようだ。______逆に言うとあんまり長い期間向こうに居ると、向こうで死んだりしたらそのまま帰ってこれず、こっちの世界でも死んだことになっちまうみたいだな」
「ええ・・・・・・・・」
真菜の素朴な疑問にゼロが答える。真菜は何やらややこしい上にやけに陰惨な内容に苦い顔をする。
「前も話したとおり、物理法則が違う以上“こっちの世界”と“向こうの世界”の時間の流れ方は違う。こっちの世界ではほんの一瞬の出来事であっても向こうでは数ヶ月の時間が経っていることもあるし、逆もしかりだ。実際の所、どういう因果関係になっているのかは解らないが、少なくとも近所で話題にならなかったって事は、行方不明にすらならないほど短い期間だったのだろう______ちなみにだ、水面」
「何かしら」
ゼロは大間のある事が気になり、鏡花に問いかける。
「アイツは何の職業だった?」
「彼は見た限り“戦士”ね。上半身裸に角の付いた兜を被って、斧を担いでいる姿が見えたわ。これの何が気になるの?」
「いや、向こうで変な職業に就いてたら、大惨事になっていたかもなって思っただけだ」
「変な職業・・・・・?そういえば、あなたの世界って“転職”ってあるの?」
転職。それはRPGなどではおなじみの要素で、「戦士」から「剣士」に切り替えたり、「魔導師」から「賢者」にランクアップするのもある。
「可能ではあるな。寧ろゲームなんかよりもずっと自由度はある。こっちの世界でも広まっている奴なら大体慣れるんじゃ無いかな」
「へえ・・・・てことは、あの大間さんは“戦士”だけど“魔導師”にもなれるって事なんですね!!」
真菜は目を輝かせている。彼女にとって、まるで採るべき選択肢が無限に広がり、夢を感じさせるものに聞こえるのだろう。
だが。
「まあ、確かになれることはなれるんだが・・・・・そのルートはやめておいた方がいい」
「え?」
ゼロの否定的な言葉に、真菜はつい耳を疑ってしまった。
「やっぱり、職業同士の相性的な的な問題かしら」
「いいや。職業間と言うより、本人の“素質”が大きいな」
ゼロは異世界での「職業」について説明する。
「例えば “魔法の攻撃力”が“知力”ってパラメータの数値になっているだろう?それはこっちの世界でもそう捉えられているし、向こうの世界でもそういう風に見られている。・・・・・・・けどな、厳密には“知力”って言うのは“魔法を使うのに必要な総合的な脳の処理能力”って言うのが正しいんだ」
「「へえ~・・・・・・」」
真菜と鏡花は、こっちと向こうの世界でのギャップに感嘆の声を上げる。
「こっちの世界ではただ数値がでかけりゃいいって感じになっているけど、向こうでは実際には魔法を使うのには膨大な知識が必要だし、それを組み立てて術式を考案・構築する頭脳もある程度必要になってくる。魔法自体を扱うこともそうだが、正常に魔力を出力できなければいけないから、これらの要素は威力にも直結する。もちろんそういうのも無しに自在に操れる奴も居るに入るが、そういうのは“天才”だ。俺の世界ではほとんど見かけたことが無い」
そして、ゼロは無情な実態を二人に明かす。
「言っちゃあ悪いが、大間に関してははっきり言って魔導師に全く向いていない。そもそも万年赤点を取っていて、補習授業を毎回受けているような奴がまともに魔法を扱うことなど出来やしない。特に魔法を使うための術式の構築には理論的思考が必須中の必須だ。数学が特に苦手ってなっているアイツには、到底出来やしないことだな。さっき言った“天才”って奴も、あくまで“知識ゼロの状態から魔法を瞬時に理解するだけの頭脳”と、“それを自力で脳内で組み立て、独学で術式を編み出すだけのセンス”を持ち合わせている奴のことだ。大間がそのタイプには全く見えない」
「・・・・・・最近のラノベだと“世界最強クラスの魔力で無双した~”とか言うのが流行っているけど、魔力そのものはどう作用するのかしら?」
「論外だな」
ゼロは一切の慈悲も無く切り捨てた。
「そもそも“魔力”っていうのは、“生命が宿すエネルギー”、“スタミナ”とでも言えば良いか。これが多ければ多いほど魔力を使った行動を連続して、或いは継続して使うことが出来る。マラソンでも、いくら本人の潜在的な持久力が最高の素質だとしても、間違った走り方をすればせっかくのスタミナ量が無駄になっちまうだろう?それと同じだ」
ある意味多くの人の夢をぶち壊す様な現実を、ゼロは淡々と語る。
「勿論魔法の威力にも直結はしてくるが、今度はそれを制御する術を持っていないと大惨事になっちまう。“ちょっと軽く魔法を使ってみたら辺り一面が焼け野原でみんな死んじゃいました”なんて結果しか出せない魔導師なんか、とてもじゃないが俺は会いたくもないね」
「そ、そうなのね・・・・・てっきり、派手だから人気の職業なんだと思っていたわ」
「どいつもこいつも勘違いしちゃ居るが、魔法を扱うってのはそう簡単な事じゃ無いんだ。こっちの世界だって、変な洗剤を混ぜると猛毒ガスが出るだろ?そういうのを知らずに扱うこと自体、本当は危険極まりない事なんだ。そんなことも考えない阿呆に、魔法を使う資格は無いと思っている・・・・・すまない、少々苛立ってしまった」
ゼロは語調が荒くなってきたことを二人にわびた。異世界の現状を知る彼にとって、この手の話題は非常にストレスフルである。
「でも・・・・・確かに“ちょっと離れた所のものをとる”って言う魔法を使っても、“つかんだものを握りつぶしちゃう”ことになるんじゃ、使い勝手が悪いですもんね」
「そういうことだ。“魔法=高威力”とか“魔導師=見栄えが良い”っていう風に見られがちだが、ド派手にやりたいだけなら、それこそ“戦士”で岩盤を斧で叩き割っていれば良いんだよ。武器さえ振るわなきゃそっちは簡単に扱えるんだから」
そんな話をしながら、彼らはやがて高校の前を通り過ぎる。
「要するに、“知ろうともしないで無い物ねだりするのはよせ”っていう事ね」
「そういうことだ。字面だけ見て判断するようで悪いが・・・・・あんな奴が水面の言う“世界最強の魔力”なんて手にしたら、そして“魔導師”になんてなられたら・・・・・・・・なんて思うよ」
「ふえっくし!!」
「もう、当司君くしゃみしてるじゃん。汗かいたからって、裸でクーラーに当たらないの。だから風邪引くんだよ?」
「これ、風邪かなぁ・・・・俺、今まで引いたこと無かったんだけど」




