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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第六章 「完璧主義者(パーフェクショニスト)の魔王は、仇なす者全てを徹底的に蹂躙す」黒鉄徹
84/110

6-25(第六章終了)

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 そこで、二人の少女が向き合っていた。顔立ちや背丈などは全く同じ少女が、互いの顔をにらみ合っている。

 やがて、互いにスッと手を伸ばし、互いの頬をむにむにと軽く引っ張る。そして今度は自分の頬をむにむにと触る。

「「・・・・・・・・・・・・!!」」

 そしてその感触に驚き、息をのむ。

「「あのー・・・・・・・!?」」

 そして全く同じタイミングで声を出し、それに驚く少女二人。そして互いの顔を遠巻きに見ているギャラリーを交互に見返している。

「がっはははは!!何とも可愛い娘さんたちじゃのう!!」

「可愛いって・・・・・ドミニクさん、どう考えても異常な光景ですよ・・・・・」

「全く同じ顔で、同じ動きをしていますね・・・・・・・」

「他人の空似・・・・・・なんて言うにはあまりにも似すぎているな」

 遠巻きに彼女たちの反応を見ていた「転生者殺し」は、その様子を面白おかしくも不気味に感じていた。

 彼らは黒鉄の城の中の、休憩室の様な場所を使っていた。エリスが去りヨルムンガンドとヘルが帰った後、上京を整理するために一旦彼らは休息を取っていたのだ。

「彼女は異世界に住んでいる人間の少女“久遠原(とわばら)真菜(まな)”という。俺がこっちの世界に戻る用事が出来たから、ついでに何日かだけ観光させてやることにしたんだ」

「何日か観光、か・・・・・・随分と大胆不敵な事をするもんだな」

「いや、お前もそう考えるだろう?」

 そう言葉を交わすのは、トーヤとゼロだった。ゼロは「龍人ドラゴニュート」という種族で、人間の素体に竜の特徴を持つ異形の魔族だ。しかしその素体は、全体的に色が赤黒いことを除けばトーヤと瓜二つだった。

「さて、改めましてご挨拶させていただきましょう。私は“グレイシア・ゼロ・ファーレンフリード”。現“アストライア王国”の魔王を務めている者で、あなた方のトップ“ローレンツ・アーサー・アイゼンベルク”の元同僚です。何卒、よろしくお願いいたします」

「あ、これはどうもご丁寧に・・・・・」

 ネロを筆頭に、「転生者殺し」の面々は次々と頭を下げる。このように矢鱈行儀の良いところなども、トーヤの素行とそっくりだ。ぱっと見では全く「魔王」にも見えない。

「ゼロ、確かに余所様かもしれないが俺の部下達だ。別にため口でもかまわないぞ」

「そうか。では、お言葉に甘えて・・・・・・・・」

 ごほん、とゼロは咳払いを軽くした。

「彼女がいることから想像が付くと思うが・・・・・・俺はしばらくの間、異世界に渡っていた」

「異世界に・・・・・?その間国はどうしていたんだ?」

「俺と同じく六角の第4の角の“ライラ”に代わってもらっていた」

「支配の代替・・・・・?そ、そんなことをして成り立つんですか・・・・・?」

「生憎今のアストライアは少々特殊な構造をしていてな・・・・・・・基本的に国の大部分はかつてアストライアの一部で、一度滅んだ直後に独立していた国家だった。それを再び統一した際に、その各国の体制そのままに俺の“傘下”に下る形で統合したんだ。だから俺自身が直接支配せずとも問題なく治められているし、ライラが実質的に支配するのは“本土”だけで済むんだ。言うならば、親会社と子会社みたいなものだな。それから“支配”って言わないでくれ。胸糞悪い。・・・・・・・・・話を戻すぞ」

 話が脱線しかけたのを再び戻そうとするゼロ。彼らの言葉遣いが癇に障ったのか、少々不機嫌な様子だ。

「本来はもう少し長く向こうに滞在している予定だったんだが、異世界にまつわる重大な秘密をつかんで、急遽こっちに戻ってくることにしたんだ。そしてちょうどそのときにアーサーから“こっちの異変の黒幕に女神エリスが関与している可能性が高い”って伝えられて、こっちに飛んできたのさ」

「そんな簡単に、向こうとこっちを行き来できるものなのかい?」

「いいや、出来ないさ。これはこの“深淵の龍紋”を俺が継いでいるからだ」

 といって、ゼロは自分の左の手の甲に浮かび上がる紫色の紋章を見せた。空間にひびが入ったような紋章が怪しく輝く。

「俺は“淵龍ヨルムンガンド”からこの紋章を授かることで、ある程度ならかの龍と意思疎通でき、こっちの申し出を聞き入れて貰えれば向こうとこっちをつなげて貰える」

「ちなみにわしらがここにこれたのも、ゼロの旦那が空間をつなげてくれたからなのじゃ。でなければあんな長い道のりをほんの短い間にわたることなどできん」

 ドミニクが彼らと合流できた訳を話した。確かに数日かけて超えてきた道のりを、ネロが連絡をしてからのわずかの間に越えられるわけが無いのだ。

「で、ここからが肝心だ。本題に入る前に、先ず異世界の事について説明させてもらう」

「「「・・・・・・・・・・・・!!」」」

 皆がゼロの話に息をのむ。

「そもそもだ、そこの・・・・・ネロ氏だったか?“異世界”が根本的にどういった所だか解るか?」

「え?そ、そうだなぁ・・・・・・・」

 ネロはしばし考えた後、

「色々あるけど、“ニホン”って言う帝国があって・・・・・こっちの世界にはない物理法則がある世界って認識かな」

 と返した。だが、ゼロは残念そうに首を横に振った。

「成る程・・・・・・だが、それは根本的な話では無いな」

「ええ?!あなたの言いたい意味がわからないよ!!」

 自分の考察を否定されて、ネロは憤慨する。だがネロだけでなく彼ら「転生者殺し」にとって、驚くべき真実を告げられる。

「この世界ってのは常に“選択”を求められる。例えば“あのときあの人に出会わなければ、自分の人生は永遠に闇の底だったかもしれない”・・・・・みたいな表現をよく聞くと思う」

「ふむ・・・・・・・」

「だが」

 ゼロの瞳が怪しく輝く。

「それがこの世界を司るもの・・・・例えば“もしも魔力がほとんど無い世界だったら”、“もしも魔法が物理法則や技術の要となっていたら”、そういった仮説を立ててみる。そうすると、この二つの仮説で成り立つ“世界”ってのは、同じものだと思えるのか?」

「「「はあ?!」」」

 ゼロの突飛な話題に、一同が目を剥く。

「何を訳のわからないことを言っているんだい!!あなたの言論は要領を得ていない!!」

「そんな架空の話をして、何になるって言うんだ・・・・・」

 そんな風に愚痴をこぼすネロとグーフォ。彼らだけで無く、皆が困惑した表情を浮かべる。だがそんな中、ただ一人だけが納得した様子を見せていた。

「成る程・・・・・・そういうことか・・・・・」

「流石は異世界の俺、言いたいことが解ってくれるか」

「当たり前だ。この理論で行けば、あんたと俺の思考回路はそっくりそのままと言えるからな」

「と、トーヤ君・・・・・・・?ゼロ様も、さっきから彼のことを何で“異世界の俺”っていっているんだ?」

「そのまんまの意味だよ」

 ネロの質問に対し、ゼロはさも自然に、しかし衝撃的な言葉を口にする。





「その“もしも魔力がほとんど無い世界”ってのがその“異世界”、つまりこの世界と異世界はその“もしも”で分岐した“平行世界”__________パラレルワールドなんだよ」





「「「「・・・・・・・・・・・・!!」」」」

 つまり、彼らがいる世界と「異世界」はただの別世界では無く、平行して存在する世界だというのだ。この事実に、彼らは衝撃を隠せない。

 そして彼らが知る「パラレルワールド」の意味を考えれば、ゼロの言っている意味が納得できてしまうのだ。

「そういうことだ。簡単に言えば“異世界の俺”と“この世界の俺”は同一の存在、もっと言えば互いに“もう一人の自分自身”って事なんだ」

「厳密に言えば全く同じでは無いがな。“種族”、“文化”、“物理法則”・・・・・・これらが全く同じとは言えないから、それぞれの世界に会わせた姿形やバックグラウンドを持つことになる。______尤も、そこにいる少女達のようにほとんど同じ、という例もあるにはあるがな」

 ゼロが視線を向けた先には、話について行けていないのかぽけーっとしているマナと真菜がいた。二人とも同じ体勢で、同じ顔をしている。

「そしてだ、あんたたち“転生者殺し”は“現世の文化や環境を転生者の手から守る”ってのを理念として掲げているようだが・・・・・はっきり言って、もはやそんなチャチな話じゃ無い。そんなことを言っていられる段階じゃなりつつある」

「なんとなく、読めたぞ」

 厳しい表情で告げるゼロの言いたいことを、トーヤははっきりと確信した。

「この“現世”と“異世界”。これが互いに平行世界の関係にあるって事は、当然こっちの世界と向こうの世界に同じ存在がそれぞれにあるって事だ」

「そうだ」

 トーヤの表情が、次第に切羽詰まったものになっていく。

「本来なら“輪廻転生”として互いの世界で循環すべき存在。それが一方の世界に流入するって事は、同じ存在が同じ世界にばかり偏っていくって事だ」

「そうだ」

 ゼロはそのつかんだ「秘密」________そしてそれがもたらすシナリオを口にした。

「本来居てはならない存在が、一方の世界にばかり偏ること。それはこの世界に尋常でない負担をかける。そしてその負担が限界を迎えたときに訪れる最悪のシナリオ_______つまり」





「世界の崩壊だ」





 休憩室が、静寂に包まれた。あまりにも突飛すぎる結末。だれもが想像力が追いついていない。だが、彼らは「転生者殺し」。「転生者」がもたらしてきた被害を、最も間近で見てきた者達だ。否が応でも納得してしまう。

「確かにね・・・・・・もはや“文化の保全”、“環境の保護”・・・・・これらの問題がチャチな話になっちゃうね」

 トーヤを除けば唯一その実態をつかみかけているネロが、かろうじて言葉を絞り出す。

「・・・・・・・・・・何というか、俺たちが予想している以上に大事になってたんだな」

「俺は淵龍の力を借りて何度も異世界に赴いていた。その“亜空間”から見ていたからこそ、気づけたんだと思う。これが無かったら、これまで通りのうのうと暮らしていたんだ」

 半ばあきれたような様子のアーサーが、ゼロと言葉を交わす。当のゼロも深刻な面持ちのままだ。

 と。

「そういえば、ずっと気になっていたんですけど」

 深刻な空気を、マナの言葉が裂いた。

「ゼロさんって、どうして異世界に行ってたんですか?」

「そうです。結局私にも教えてくださらなかったですし・・・・・・」

「!!」

 マナと真菜は彼らの話を聞いていて、そもそもなぜ彼が異世界に赴いていたのか、と言うことに疑問を持っていた。

「それは、この世界から戻った転生者が、どのような末路をたどるのかを調べるためだ。一度こちらの世界から去ったとしても、万が一戻ってこられたら困るからな。特に存在するだけで天変地異を起こすような奴に何度も来られては敵わないからな」

 ゼロはそう言うと、身を乗り出して手を組み、こう切り出した。






「ちょうど良い。ここで一つ、土産話でもしよう」


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